アルゼンチンで暮らしていた頃、アルゼンチンの国花は「セイボ」だと教えられたが、どんな花か知らなかった。ある時、ブエノス・アイレスからコルドバへ移動中に、「あれがセイボだ」と運転手が指さす先を見ると、真っ赤な花が目にとまった。花の色がかなり濃いと言うのが第一印象。後になって、日本でも新橋駅前広場、伊豆急下田駅前広場などでセイボを見かけ、懐かしく感じたことを思い出す。
セイボは、学名Erythrina crista-galli、和名はカイコウズ(海紅豆)だがアメリカデイゴ(亜米利加梯梧)と呼ばれる方が多い。マメ科の落葉高木で、葉は長楕円形の三枚の小葉、6月から9月頃濃紅色の蝶型の花が穂状に集まって咲く。
原産地はブラジルから北部アルゼンチンにかけての地域である。日本へは江戸末期に渡来し観賞用として栽培されたと言う。寒さに弱いため関東以南、沖縄にかけて主に公園や街路樹として植栽される。鹿児島県ではクスノキと共に県の樹に指定されているそうだ。一方、沖縄の県花「デイゴ」は名前が似ているが別種Erythrina Variengataで、インドやマレー半島が原産地である。
◇国花(Floral emblem)
国民に愛され、その国の象徴とされる花を「国花」としているが、法で定められているとは限らない。日本の国花は桜であるが、皇室では菊、国の公式紋章としては桐花が使われている。
各国の国花を整理した資料は沢山あるので詳細はそちら委ねるが、例えば、韓国の国花はムクゲ、北朝鮮は杏、台湾は梅、インドはハス、中国は牡丹(現在指定していない)、英国と米国はバラ、オランダはチューリップ、スペインはカーネーション、ドイツはヤグルマギク、フランスはユリとアイリス、カナダはサトウカエデなど。なんとなく国のイメージと合致する。
南米の国花では、アルゼンチンとウルグアイがセイボ、チリはセイボとコピウエ(ツバキカズラ)、パラグアイはトケイソウ(国樹はラパチョ)、ブラジルはイペ(ipé)、ボリビアはカンツータ、ペルーはヒマワリとカンツータなど、よく知らない名前が出てくる。
因みに、ブラジルではイペ(Handroanthus heptaphyllus、Tabebuia avellanedae、パラグアイのラパチョと同種、ノウゼンカズラ科落葉高木)を国花としてきた。1978年にブラジルボク(Caesalpinia echinata、Brasil wood、マメ科常緑高木)を国樹に制定した経緯がある。ブラジルボクはブラジル国名の由来となった木で、かつて染料(赤い木の意がある)や弦楽器の弓に使われたため伐採が進み、現在は絶滅危機種に指定されている。
また、ボリビア、ペルーの国花カンツータ(学名がCantuta buxifolia、ハナシノブ科の常緑低木)は枝の先に釣鐘上の赤い花をつける。三千メートル以上の乾燥した高地に自生し、別名を「魔法の花」「インカの聖なる花」と呼び、国民に愛されている。
鐘型の花と言えばチリの国花コピウエ(ツバキカズラ、英名Chilean bellflower、学名Lapageria rosea Lapageria)もそうだ。チリ南部原産、ユリ科の多年草、常緑つる性、鐘形の花(長さ7cm、紅色)をつける。晴れやかでありながら、どこか慎ましい、チリの人々はこよなく愛している。
国花や国樹は国の歴史とリンクし、国民にとって愛着深いものであることが多い。