豆の育種のマメな話

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アルゼンチンの国鳥「オルネーロ」(カマドドリ)

2020-04-19 15:18:28 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

アルゼンチンで暮らした頃のことである。牧柵や電柱の上などに泥で作った鳥の巣を見かけた。最初は鳥の巣と思わなかったが、友人が「アルゼンチンの国鳥オルネーロだ」と言う。オルネーロとはスペイン語のオルノ(Horno、かまど、オーブン)に由来し、「かまどを作る鳥」の意味らしい。人々はスペイン語で「オルネーロ(Hornero)」、巣の事を「オルネーロの家(Casa de ornero)」と親しみを込めて呼んでいる。また、Dutch ovenに似た巣の形に由来して、英語ではOven-bird、日本語ではカマドドリと呼ぶようになった。

スズメ目カマドドリ科の鳥類は中央アメリカ、南アメリカ全域に300種以上棲息すると言われるが、アルゼンチンの国鳥となっているのは「セアカカマドドリFurnarius rufus」である。全長20センチに満たない華奢な体つきで、喉元は白っぽいが、頭から背にかけて赤褐色をしている。雌雄ほぼ同色であるが、雄の方がやや大きく色も濃い。鳴き声はキッキキッキキキキ・・・とかなり喧しい。
雨期の12月から翌年の2月にかけて、雨で柔らかくなった粘土と草を混ぜて、長さ約30センチ、幅約20センチ、高さ約25センチ、厚さは4センチ位の竈(かまど)の形をした巣を雌雄が協働でつくり、産卵、子育てをする。巣は風雨にさらされても2~3年は壊れないほど丈夫だが、毎年新しい巣を作る。丈夫な古い巣は他の鳥に利用されることが多いようだ。巣の頑丈さは土壌が粘土質である性質による。当時、アルゼンチンで大豆や野菜の種子を播いた経験があるが、雨が降るとぬかるむ土壌は、乾くと表面がカチカチになり全く発芽しないことがあった。なるほど、オルネーロの巣も硬いわけだ。
オルネーロは、人間をあまり怖がらず町の近くに住んでいること、一度つがいになると生涯添い遂げること、夫婦仲が良く協働で巣作り子育てに励み、囀りも夫婦の合唱と仲が良いこと、竈づくりに見られるように働き者であることが好まれ、国鳥に選ばれたのかもしれない。

本間義久さんから寄贈を受けた「右巻きの朝顔、地球の裏側ネイチャーウオッチング」新風舎2007年刊を開くと、オルネーロの観察記録がある。とても面白い。
例えば著者は、当地の人々が「巣の入口は南向きには作らない」と言う言葉を聞いて、「南からトルメンタと呼ばれる寒い風が吹くからだろう」と推測するが、果たしてそうなのかと考える。そして、当市で見つけた90個の巣について調査を開始する。その結果、入口の方向は様々だが北東や西に向いているものが多いことに気付く。パンパは南極方面からの冷たい南風とブラジル方面からの温かい北風が交互に吹く、オルネーロはこのことを知って南風と北風を避けているのではないかと考察する。
また、巣の入口はタビケ(仕切り、壁の意)と呼ばれる屏風のような仕切りで前室と産卵室が仕切られ、これによって産卵室を荒らされないし雨風をも防ぐ構造になっている。このタビケが右側のものと左側のものがちょうど半々くらい存在し、入口が北東向きのものは右タビケ、西向きのものは左タビケが多いことを観察する。著者は、それには理由があるはずだと想像を膨らませる。

ところで、隣国パラグアイの国鳥はハゲノドスズドリ(禿喉鈴鳥、学名Procnias nudicollis、英名Bare-throated Bellbird、スズメ目、カザリドリ科、スズドリ属)である。パラグアイ、ブラジル、アルゼンチンの熱帯・亜熱帯雨林に生息する。オスの羽毛は全体的に白く、目、嘴、喉の周りに裸域があり青みがかった黒色の剛毛(メスは背にかけてオリーブからトビ色、頭部と喉は黒っぽい色)。体長は二十八センチ程度。打楽器をハンマーで叩くような金属音、世界で最も大きい声で鳴く鳥として知られる。
パラグアイでは、国鳥をパハロ・カンパーナ(Pajaro campana、鐘つき鳥)と親しみを込めて呼んでいる。パハロ・カンパーナはパラグアイ民族楽器アルパの名曲としても馴染み深い。まるで教会の鐘のように鳴くところからその名前がついたと言われ、英名ではベル・バード(Bellbird)、和名でもスズドリ(鈴鳥)と呼ぶが、鳴き声を聞いた人はむしろ「鐘つき鳥」の名称の方がふさわしいのではないかと言う。

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