豆の育種のマメな話

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穀物価格の高騰,今年も記録的な旱魃が起きている

2012-08-19 11:24:35 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

テレビをつけると,農作物の旱魃被害の映像が飛び込んできた。枯れ上がったトウモロコシの収穫風景と農家の深刻な表情がリポートされている。念のためUSDAのホームページを開くと,合衆国穀倉地帯の旱魃状況が逐次地図に示されている。北海道新聞も社説「穀物価格高騰」(2012.8.18)及び819日の記事で,被害が農耕地の64%にも及ぶ記録的な旱魃・・・と述べている。合衆国ではトウモロコシの被害が報道されているが,大豆も生産量が大幅に落ち込み,供給不足が予想され,7月頃から穀物価格の高騰が始まっているという。

近年,地球のあちこちで,農作物の旱魃被害発生頻度が高くなっているのではないか。

 

旱魃が穀物価格の高騰をもたらし,開発途上国の低所得層を直撃した(食料が供給されず暴動化した)事例を,我々は数年前に経験したばかりである。

世界的な人口増加,新興国の旺盛な食糧需要,穀物のバイオエネルギー転化などを鑑みるに,穀物需給はそれでなくとも逼迫状況にある。これに加えて,頻発する旱魃は社会騒乱の引き金になるだろう。

 

旱魃は,昨夏の南米でも大きな被害を与えていた。パラグアイ政府は,2001/2012作期(1011月に播種し,34月に収穫)の大豆生産について,年次当初860万トン(単収2.9t/ha)の収穫を予想したが,ラ・ニーニャの発生と旱魃により大きな被害を受け,生産量は予想の49.5%(生産量436万トン,単収1.5t/ha)になったと発表している(パラグアイ農牧省)。

 

ここで,パラグアイの大豆生産量の年次推移データから,旱魃被害の発生頻度について検証してみよう。

図(写真)は,パラグアイ大豆の作付面積,生産量,単収について,20年間のデータを示したものである(年次は収穫年で示す。パラグアイ大豆生産量の推移)。

 

作付面積は20年前(1993年)の63haから,2012年には296ha4.7倍)まで,ほぼ直線的に年々増加している。一方,生産量は180万トン水準から800万トン程度まで増加しているものの,最近は減収著しい年次が見られる。例えば,20042006年は生産量が停滞し,2009年及び2012年は大きく落ち込んでいる。

 

単収の推移をみれば,収量の落ち込み,不安定さが,より顕著に理解できる。1995年には全国平均で3t/haを越え,当時は間違いなく世界一の高収量国であったが,最近は必ずしも誇れる状態ではない。収量水準が低迷している。また,平年の半作に近い低収年の発生頻度が高まっている。特に,最近の10年間では平均単収が2t/ha以下の年が5回もあるのだ。

 

要因は何か?

減収の第一要因は旱魃である。2009年,2012年は特に干ばつの影響が大きい。20042006年の減収には,2001年に初発生が確認されたさび病(アジア型)の蔓延やGM大豆不法栽培の影響(アルゼンチンから非合法導入された早生種が干ばつの影響を大きく受けた)も考えられるが,旱魃被害がなければこれほどの低収にはならなかっただろう。

 

このように,異常気象による旱魃害の発生は恒常化し始めたと言えるのではないだろうか。森を拓き,灌漑し,大規模単作農法を指向した付けが回ってきた。GM品種が生まれ,大規模化はさらに加速されている。穀物輸出国が推進してきた大規模農法が旱魃を増長したと言えなくもない。現農法のクライシスを暗示しているのかもしれない。

 

さりとて,この流れにブレーキを掛け得ても(旱魃要因の削減,ストレス耐性向上など),バックギアで半世紀前まで戻ることはできない(世界の飢えたる人々を見殺しにはできない)。問題解決が世界共通のテーマとなっている。食糧の安定生産に向けて,各国の技術開発・環境整備への投資,発展途上国への技術援助など,「農」に対する長期的・戦略的な取り組みが求められている。

 

短期的には,日本であれば食料自給率向上が必要であり開発途上国への技術援助もできるだろう。穀物輸出国には輸出制限に歯止めをかけるルール作り,世界としては備蓄の国際協力・・・等々,真剣に考える時だ。

 

 

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