豆の育種のマメな話

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南米における大豆育種は規模が大きく,省力仕様

2011-11-01 18:17:12 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米の育種機関をわが国に比べると,育種規模が大きく,測定項目はかなり単純化され,育種システムは省力化が進んでいる

育種法

育種法は,選抜の効果を高めるため育種場所によって工夫が施されているが,人工交配による変異作出と栽培環境に対応するための早期選抜が基本となっている。すなわち,ガラス室内での交配,中米や温室を利用した冬季世代促進,F2F4世代を単一種子法や集団採種で進め,F4またはF5世代で個体選抜,F5またはF6世代で系統選抜を行い,分離系統は廃棄し固定系統のみを系統集団として世代を進めるなど作業を単純化している。選抜系統は環境の異なる数か所の試験地を利用して生産力検定予備試験を実施するなど,固定系統の早期評価が特徴である。

一般的な育種の流れをモデルとして図示した(図)。育種規模は,年に400800組合せの交配を実施するなど,わが国に比べて規模が大きい。また,測定項目はかなり単純化され,育種システムは省力化が進んでいる。

耐病性の検定および選抜は隔離室での接種検定が主体で,系統選抜段階で実施される。また,DNAマーカー選抜も,病害虫抵抗性検定を主体に一部取り入れられており,今後さらに増加するだろう。品質に関する選抜および評価は近赤外線分析計など簡易測定機器の利用が多い。病理や品質の専門研究者が育種チームに入り分担協力している。

比較考

南米大豆育種における規模の大きさを述べたが,「それがどうなの?」と言われそうな気がする。

はたして,規模が大きいことは良いことか?

育種の基本手順は,変異を作り出しその中から希望個体を見つけ出すことに尽きるので,規模が大きいことは含まれる希望個体の頻度が高まるメリットがある。しかし,規模が大きいと希望個体を選抜するための観察や調査に労力を要し,調査項目も簡素化せざるを得ない。また,必然的に系統観察がおろそかになり易い。

一方,わが国のように試験圃場面積に制限がある場合は,比較的早い世代から系統を作り,多くの特性を綿密に調査観察しながら希望個体に近づく努力をする。この場合は,規模が小さいため,観察はよく行き渡るが希望個体が網から漏れることがある。

前者では少ないデータからの判断,後者ではやたら多い数値を取捨選択しながらの判断,どちらにしても「育種家の目」と呼ばれる経験が大事になってくる。経験則からすれば,わが国ではもう少しシンプルに,南米ではもう少し綿密にということになろうか。

種子増殖と普及

各国とも,種子の増殖・配布,種子の検査に関する法律が制定され,担当機関が設置されている。種子については,水分,発芽率,病害の有無,異種や雑草種子の混入など,国際基準に準じた規則が定められている。

新品種の普及については,新品種発表のセレモニー(圃場参観),生産者向けパンフレット,各地に設置した品種展示圃(写真)など,極めて活発な普及戦略がとられている。大豆栽培面積が大きいこれらの国では,種子販売が直接収益に結びつくため,品種の普及戦略はわが国に比べより重要な位置づけにある。

品種保護

南米諸国では多くの国が国境を接し言語が共通ないしは類似しているため,情報や品種の流れが容易である。大豆栽培が急激に拡大する時代には隣国の品種が国境を越えて無法に流入することも多かったが,近年各国とも育成者の権利保護に係る法的な整備が進み,種子の生産・増殖,販売については育成者の許諾が必要な行為と認識されるようになった。

1961年に育成品種の保護を目的として採択されたUPOV条約(植物新品種保護国際連盟)には,アルゼンチンとウルグアイが1994年,チリが1996年,パラグアイが1997年,ブラジルとボリビアが1999年に加入している(1978年条約を批准)。

なお,各国農牧省の「品種保護登録簿」へ登録された大豆品種は,2008年現在ブラジル374品種,アルゼンチン446品種,パラグアイ159品種である。各国の登録品種,登録機関などの情報は公開されている。

参照:土屋武彦2010「南米におけるダイズ育種の現状と展望」大豆のすべて(分担執筆)サイエンスフォーラムを一部加筆,詳しくは本書をご覧下さい。

 

 

コメント
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