加工適性
北海道における2010年の大豆種類別作付けは,大中粒白目が64%と主体をなし,中粒渇目の秋田大豆が減少し(2%),納豆用の極小粒(20%)や黒大豆青大豆(12%)の比率の高まりが観察される。輸入自由化後良質の白目大粒が主体を占め,また納豆適性の高い極小粒の「スズヒメ」(1980),「スズマル」(1988),「ユキシズカ」(2002)が育成され需要に応えられるようになったことから,小粒大豆の作付け比率が高まり,また一定の需要がある黒大豆や青大豆の比率は総体面積の減少にともない,高まっていると考えられる。
実需要求に応えているか
2010年,北海道の大豆作付面積は24,000haであり,品種別作付面積の順位は,第1位「ユキホマレ」,第2位「スズマル」,第3位「トヨムスメ」,第4位「いわいくろ」,第5位「ユキシズカ」となっている。
「ユキホマレ」「トヨムスメ」などの中大粒の白目品種は,「ユキホマレ」が10年間,「トヨムスメ」が20年間にわたり基幹品種の地位を占めている。これからも白目中大粒種は北海道を代表する種類となることから,改良に当たっては煮豆および豆腐加工適性の向上をこれまでにも増して念頭におくべきだろう。一方,「キタムスメ」など中粒渇目の秋田大豆銘柄は栽培が減少しているが,古くから味噌や煮豆など美味しいとの評価があり,しかも耐冷性も概して強いことから,今後も一定の需要が見込まれるだろう。
極小粒の納豆用の「スズマル」(1988)は,納豆業者から北海道に「スズマル」有りとの評価を得て,既に20年近く栽培されている。「ユキシズカ」(2002)は納豆加工適性の評価が高く,ある納豆業者の製品が農林大臣賞を得るなど,道東地方で順調に生産を増やしている。
黒大豆は煮豆用として「中生光黒」(1935),「晩生光黒」(1935)が使われてきたが,これらの早生化を図った「トカチクロ」(1984),生産安定性を高めた「いわいくろ」(1998)が現在は主流となっている。さらに,古くは緑肥用として栽培されたことのある子葉緑の小粒黒大豆「早生黒千石」(1941,子実の中が緑)が,ポリフェノール含量が多いと言われ,一部の地域で栽培が試みられている。
あお大豆は,「早生緑」(1954),「アサミドリ」(1962),「音更大袖」(1991),「大袖の舞」(1992)が栽培されているが,製菓や枝豆としての利用が多い。また一方では,黒大豆,あお大豆を豆腐や納豆など差別化商品して利用する試みが増え,興味深い。
また,北海道の極大粒種は「鶴の子銘柄」として道南地方を中心に晩生の「白鶴の子」(1934)などが栽培されてきたが,中央農試ではこの品種の早生化を図り「ユウヅル」(1971),「ユウヒメ」(1979)「ツルムスメ」(1990)を育成し,さらに極大粒種「タマフクラ」(2008)を開発した。「タマフクラ」は何しろ大粒,100粒重が64gもある。世界一の大きさであろう。この品種は大粒ゆえに発芽障害を起こしやすいが,その大粒性は実需者サイドから大きな興味がもたれている。
これら品種は,実需者の要求に応えようとした育種家の苦労の末に生まれた傑作。それぞれの品種に関った育種家の顔が浮かんでくる。
生産者に求められるのは,北海道で生産された大豆は品質がよいとの評価に甘えることなく,加工適性を意識した良品質の生産を心掛け,安定供給への努力を図るべきだろう。生産者みずからが,実需者や消費者の要求に応えているかと自問しながら,生産に取り組む時代である。
多様な需要に対応するために,育種家の腕が試される。
参照:土屋武彦1998「北海道における大豆生産の現状と展望」豆類時報 10,9-21に加筆