遅れていた機械化
北海道の農家戸数は,1965年の20万戸から2009年の45,000戸まで,45年間でおよそ22%にまで減少し,減少傾向はなお続いている。また,高齢化も急速に進み,大豆生産において機械化,省力化が必須の条件となってきた。
北海道における大豆の10a当たり投下労働時間は,15年前には17時間で,てん菜の19時間に比べればやや少ないものの,馬鈴薯の9時間より多く,小麦の3時間に比べれば極めて多い状況にあった。平成22年の10a当たり投下労働時間をみると,大豆で8.09時間まで半減していて,かなり機械化が進んだことを示している(因みに,てん菜14.91時間,ばれいしょ8.33時間,小麦3.68時間)。当時の作業体系では,収穫脱穀調製作業に45%,除草作業に35%を要する点が特徴であり,収穫脱穀調製作業の軽減を第1の目標として挑戦した。
コンバイン収穫への歩み
わが国の大豆は,耐裂莢性が易であり,点播のため最下着莢位置が低く収穫作業のネックになる点が多いこと,大粒で流通上外観品質が重要視されていることなどが機械化を遅らせた要因と考えられる。しかし,秋が遅く寒い時期に,腰を屈めて実施するニオ積み作業はつらく,埃まみれになって行う脱穀作業は,大豆の作付け意欲を減退させる大きな要因であった。
1961年にはビーカッタ,1968年にはビーンハーベスタが開発され,ビーンハーベスタは急速に普及が進んだ。1980年代後半には70~75%の普及率である。しかし,この時代のビーンハーベスタによる収穫は,裂莢損失を裂けるため,朝露の残る早朝に作業をしていた。この頃,コンバインの導入も始まったが普及は2%前後で試行錯誤の時代であった。その後,クリーナなど調製機械,機械化適応性品種の開発,機械収穫を前提とした条播密植栽培技術の確立などが進み,コンバインの普及率は1995年で27%まで増加した。
十勝農試の成果 「カリユタカ」から「ハヤヒカリ」「ユキホマレ」「トヨハルカ」
大豆の機械収穫のために重要な特性は,耐裂莢性,最下着莢位置,耐倒伏性,密植適応性,枯れ上がりの良さなどが考えられる。耐裂莢性は,コンバイン収穫時の衝撃による子実の飛散損失に影響し,最下着莢位置と耐倒伏性は刈残し損失に影響する。
十勝農業試験場では,1975年から機械収穫向き品種の育成を目標に品種改良に取り組んだ。北海道の白目大粒の良質品種に,東南アジア,アメリカ合衆国および中国品種から難裂莢性因子を取り組むことを当面の目標にした。難裂莢性の導入品種は小粒,晩熟,無限伸育で耐倒伏性が劣るなど難点があり,難裂莢性の導入は必ずしも容易でなかったが,1991年「カリユタカ」を育成することができた。しかし,「カリユタカ」はまだ耐冷性,耐病性が不十分であり,さらに改良の余地を残していた。
その後十勝農業試験場では,耐冷性の褐目中粒種「ハヤヒカリ」(1998,十系679号×キタホマレ),早生の白目中粒種「ユキホマレ」(2001,十系783号×十系780号),耐冷性の主茎型・大粒種「トヨハルカ」(2005,十系739号×十交6225)などコンバイン収穫適性の高い品種を順次開発した。中でも,「ユキホマレ」は早熟性が生産者に好まれ普及が進み,北海道の主幹品種として貢献している。
省力化の目標値は10a当たり3.7時間
機械化による省力化,軽労働化は,今後の大豆生産振興にとって極めて重要な課題である。道立農業試験場では「21世紀初頭における技術的課題と展望」(1994)で省力化の目標を検討したが,コンバイン収穫の導入と手取り除草省略のための狭畦幅栽培によって,10a当たりの投下労働時間を小麦に近い3.7時間と推定している。この目標値は現行の45%強で,まだ目標値に達していないが,小麦のように大豆をつくるという畑作農家の夢は実現しつつある。
参照:土屋武彦1998「北海道における大豆生産の現状と展望」豆類時報 10,9-21に加筆