パラグアイにおけるダイズ品種の播種期試験
1. はじめに
ダイズは短日性植物で,開花は日長に反応する。また,ダイズの生育は,気温,降水量,土壌肥沃度など環境条件によっても大きく左右されるので,栽培地域における播種適期を知ることは安定した生産を確保するために極めて重要である。パラグアイにおいてもダイズの栽培が試みられた当初から,播種期試験が数多く行われてきた。
例えば,Schapovaloffら1)(1991)は6品種5播種期3年間の試験からパラグアイ南東部の播種適期は10月30日~11月30日であるとし,さらにSchapovaloffら2)(1993)は4品種6播種期3年間の試験を解析し,播種適期の限界はALA-60, OCEPAR-9では11月30日であるがFT-10では12月10日,早生のPRIMAVERAではさらに早いとした。また,土屋3)(2002)は地域農業研究センター(CRIA)の試験結果を取りまとめ,11月が多収を得るための播種適期であり,晩播するにつれ生育量及び収量が減少することを確認した。
以上のように,これまでのCRIAにおける試験結果や生産者の実際栽培の経験から,イタプア県(パラグアイ南東部のダイズ主要生産地)における播種適期は11月とされている。しかし,近年アルゼンチンから導入された生育期間の短いGMO品種の作付けが増加したことや年2回の作付けを試みる生産者が増え,播種期が早まっている。
一方,植物の日長反応は品種によって差のあることが知られている。新しい品種が次々と普及に移され,作付け品種が様変わりした最近の状況を考えると,これら品種の播種適期を把握することはダイズ生産にとって重要な課題である。本稿は,パラグアイにおける大豆品種の播種期試験(2006/07)の結果を取りまとめたものである。異なる播種期でダイズ諸特性がどのように変動するか,供試した品種の播種適期はいつか,早播適応性の高い品種はどれか,など新たな情報を提供している。
2. 試験方法
(1)供試材料:生育日数の異なる(早生から晩生)13品種または系統。
(2)試験場所及び試験年次:地域農業研究センター(CRIA, Capitan Miranda, Itapúa県),南緯27度17分,海抜231m(GPSによる)。試験年次2006/07年。
(3)試験設計;播種は,20日間隔で7回行った。第1回(2006年9月19日),第2回(2006年10月9日),第3回(2006年10月27日),第4回(2006年11月16日),第5回(2006年12月11日),第6回(2007年1月2日),第7回(2007年1月22日)。試験は各播種期とも乱塊法3反復で実施した。試験区の畦長は5m,畦幅は0.45m,1区4畦である。栽培法は不耕起,施肥量は150kg/ha(4-30-10)である。
3. 試験成績
(1)播種期ごとの成績
a. 第1回(2006年9月19日)播種
開花まで日数は50.9日,生育日数は146.2日と長かったが,草丈は47.2cm,最下着莢高が7.3cmと低く生育量が劣った。また,主茎節数も13.1節と少なかった。100粒重は15.0gと大きく,子実重は2,486kg/haであった。草丈,主茎節数が減少して低収となる中で,Marangatú,CD-202,BRS-184及びLCM-167の子実重が高かった。一方,A-4910,A-8000は極めて低収であった。
b. 第2回(2006年10月9日)播種
開花まで日数は51.2日,生育日数は146.2日で第1回播種と同様長かったが,草丈は65.2cm,最下着莢高が13.8cmと第4回播種に比べ低く生育量が劣った。また,主茎節数も15.0節と少なかった。100粒重は12.7g,子実重は3,255kg/haであった。多収を示したのは,CD-214,BRS-184,A-7321及びLCM-167であった。
c. 第3回(2006年10月27日)播種
開花まで日数は54.6日,生育日数は139.8日であった。草丈は79.3cm,最下着莢高が17.3cmと第4回播種に比べ低くいものの,主茎節数は17.5節と最高になった。また,子実重は3,707kg/haで,今回の播種期の中では最高の値を示した。中でも,Nueva M 70,CD-202,A-4910,CD-214等が4,000kg/haを超える多収を示した。
d. 第4回(2006年11月16日)播種
第3回播種と同様収量水準が高かった(3,443kg/ha)。特に多収を示したのは,Nueva M 70,A-4910,CD-202及びCD-213等であった。 開花まで日数は50.9日,生育日数は126.7日,草丈は84.5cm,最下着莢高は20.0cm,主茎節数も17.2節,100粒重は12.2gであった。
e. 第5回(2006年12月11日)播種
草丈,最下着莢高及び主茎節数が第4回播種の値とほぼ同等であったが,生育日数が第4回播種に比べ12.4日短く(114.3日),100粒重もやや減少したため(11.3g),子実重は2,930kg/haとやや低下した。その中で多収を示したのは,A-4910,A-7321,CD-214及びNueva M 70等であった。
f. 第6回(2007年1月2日)播種
開花まで日数は43.4日,生育日数は101.2日で,第4回播種に比べるとそれぞれ7.5 日,25.5日短かった。また,草丈及び最下着莢高は第4回播種に比べ22.6cm,5.7cm低く,生育量の減少が認められた。さらに,主茎節数及び100粒重が減少したため,子実重は1,724kg/haと低収であった。100粒重が顕著に減少したのは,ダイズさび病の発生も要因と考えられる。子実重が2,000kg/haを超えた品種は,CD-213,CD-214,A-4910のみであった。
g. 第7回(2007年1月22日)播種
開花まで日数は40.0日,生育日数は95.6日で,第4回播種に比べるとそれぞれ10.9 日,31.1日短縮された。また,草丈及び最下着莢高は第4回播種に比べ36.3cm,6.0cm低く,生育量の著しい減少が認められた。さらに,主茎節数及び100粒重が著しく減少したため,子実重は729kg/haと極めて低収であった。100粒重が顕著に減少したのは,ダイズさび病の発生も要因と考えられる。
(2)播種期による諸形質の変動
開花まで日数は第3回播種が最高で,早播及び晩播で短くなった。生育日数は,播種期が早いほど長く,播種期が遅いほど短くなった。主茎長及び最下着莢高は,第5回播種及び第4回播種で高く,第3回播種が次に高かった。主茎節数は第3回~第5回播種で多く,100粒重は播種期が早いほど大きく晩播ほど小さくなった。
子実重は,第3回播種で最も多収を示し,第4回播種が次に高かった。また,第2回播種も3,000kg/haを超える収量であった。第6回播種,第7回播種では著しく減収した(第4回播種を100とした場合,第6回及び第7回播種の子実重は50%及び 21%であった)。
(3)品種間差異
子実重についてみると,第7回播種を除くいずれの播種期においても品種間差異が確認された。第1回~第4回播種において品種間の偏差が大きく,特に第1回播種においてその差が顕著であった。
また,A-4910 とA-8000は第1回及び第2回播種期において低収であったが,Marangatú, CD-202, BRS-184は第1回及び第2回播種期で多収を示した。
4. 考察
(1)形質の変動と気象要因との関係
子実重の播種期による変動は,開花まで日数の変動と同傾向にあり,生育日数,主茎長,主茎節数及び100粒重の変動ともやや類似の傾向にあった。生育日数が短縮し,かつ生育量が減少する播種期では,収量が低下することを示している。開花まで日数,登熟日数及び生育日数は,それぞれの積算気温と高い相関があった。主茎長及び主茎節数の変動は開花まで積算気温の変動と同傾向にあり,100粒重の変動は特に登熟期間の積算気温の変動と類似していた。すなわち,開花まで積算気温や生育期間の積算気温が高い播種期で主茎長及び主茎節数が多く多収の傾向にあり,登熟期間の積算気温が高い播種期で100粒重は大きかった。また,播種時の日長と開花まで日数は負の相関を示した。
(2)播種適期
本年度の試験結果では,第3回~第4回播種期で多収を示した品種が多いことから,10月下旬から11月中旬がイタプア県での播種適期と推定された。過去にCRIAで実施された播種期試験の結果によると,11月上旬~下旬の収量が高く,播種適期と考えられていたが1, 2,3),本年度は10月下旬~11月中旬の収量が高かった。栽培品種の変化にともない播種敵期がやや早まった可能性も考えられる。なお,子実重及び主茎長(生育量)を確保するにためは適期に播種することが大切で,早播及び晩播では子実重及び主茎長が減少すること,生育日数及び100粒重は晩播になるにつれ減少することが明らかになった。この傾向は,ここに示した過去の結果とも一致する。また,旱魃の発生時期が収量に大きく影響することも考慮しなければならない。
(3)早播適応性
9月中旬~10上旬の早播では子実重や主茎長の品種間差異が顕著であった。Marangatú, CD-202, BRS-184等は早播で生育量を確保して多収になったが,A-8000, A-4910は低収であった。特にA-8000は主茎長及び主茎節数の減少率(第4回播種に対する第1回播種の比率)がそれぞれ32%及び25%と小さく,極端に短茎となり主茎節数も少なかった。早播に対してより大きな反応を示したものと考えられる。Marangatú, CD-202, BRS-184は,開花まで指数が40-41%でA-8000, A-4910の24-29%に比べ大きかった。開花まで指数は有限伸育型品種が概して大きく,有限伸育型品種の中ではMarangatúが特に大きくA-8000が小さかった。Marangatúは同じ熟期群の他の品種に比べ開花まで日数が長く日長反応が鈍く,逆にA-8000は敏感であることが推察される。このように早播によって品種反応は大きく異なるので,早播栽培における品種選定に当っては十分な注意が必要である。
5. 留意事項
本成績は,2006/07年の単年成績である。気象条件は年次により異なるので,複数年の結果を参考にすることが望ましい。
6. 謝辞
本試験を実施するに当り,大豆研究プログラム調整官Ing. Agr. Wilfrido Morel Paiva, CRIA場長Ing. Agr. Manuel Santiago Paniaguaには多大な便宜を図って頂いた。感謝申し上げる。
7. 参考資料
1)Schapovaloff A., Bogardo y Ruiz Diaz (1991): Effecto de Cinco Epocas de Siembra sobre el Rendimiento de Seis Cultivares de Soja.2)Schapovaloff A., E. Rodriguez, F. Rodriguez y A. Morel (1993): Efecto de Seis Epocas de Siembra sobre el Rendimiento y la Altura de Cuatro Cultivares de Soja.3)土屋武彦(2002):パラグアイにおけるダイズ研究計画(育種部門)最終報告書,国際協力事業団
参照:土屋武彦2007「パラグアイにおけるダイズ品種の播種期試験」専門家技術情報第4号,2006/07,JICA