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パラグアイにおけるダイズ品種の播種期試験

2011-06-08 14:13:17 | 海外技術協力<アルゼンチン・パラグアイ大豆育種>

パラグアイにおけるダイズ品種の播種期試験

 

1. はじめに

ダイズは短日性植物で,開花は日長に反応する。また,ダイズの生育は,気温,降水量,土壌肥沃度など環境条件によっても大きく左右されるので,栽培地域における播種適期を知ることは安定した生産を確保するために極めて重要である。パラグアイにおいてもダイズの栽培が試みられた当初から,播種期試験が数多く行われてきた。

例えば,Schapovaloff1)1991)は6品種5播種期3年間の試験からパラグアイ南東部の播種適期は1030日~1130日であるとし,さらにSchapovaloff2)1993)は4品種6播種期3年間の試験を解析し,播種適期の限界はALA-60, OCEPAR-9では1130日であるがFT-10では1210日,早生のPRIMAVERAではさらに早いとした。また,土屋3)2002)は地域農業研究センター(CRIA)の試験結果を取りまとめ,11月が多収を得るための播種適期であり,晩播するにつれ生育量及び収量が減少することを確認した。

以上のように,これまでのCRIAにおける試験結果や生産者の実際栽培の経験から,イタプア県(パラグアイ南東部のダイズ主要生産地)における播種適期は11月とされている。しかし,近年アルゼンチンから導入された生育期間の短いGMO品種の作付けが増加したことや年2回の作付けを試みる生産者が増え,播種期が早まっている。

 

一方,植物の日長反応は品種によって差のあることが知られている。新しい品種が次々と普及に移され,作付け品種が様変わりした最近の状況を考えると,これら品種の播種適期を把握することはダイズ生産にとって重要な課題である。本稿は,パラグアイにおける大豆品種の播種期試験(2006/07)の結果を取りまとめたものである。異なる播種期でダイズ諸特性がどのように変動するか,供試した品種の播種適期はいつか,早播適応性の高い品種はどれか,など新たな情報を提供している。

 

2. 試験方法

1)供試材料:生育日数の異なる(早生から晩生)13品種または系統。

2)試験場所及び試験年次:地域農業研究センター(CRIA, Capitan Miranda, Itapúa県),南緯2717分,海抜231mGPSによる)。試験年次2006/07年。

(3)試験設計;播種は,20日間隔で7回行った。第1回(2006年9月19日),第2回(2006年10月9日),第3回(2006年10月27日),第4回(2006年11月16日),第5回(2006年12月11日),第6回(2007年1月2日),第7回(2007年1月22日)。試験は各播種期とも乱塊法3反復で実施した。試験区の畦長は5m,畦幅は0.45m,1区4畦である。栽培法は不耕起,施肥量は150kg/ha(4-30-10)である。

 

3. 試験成績

(1)播種期ごとの成績

a. 第1回(2006年9月19日)播種

開花まで日数は50.9日,生育日数は146.2日と長かったが,草丈は47.2cm,最下着莢高が7.3cmと低く生育量が劣った。また,主茎節数も13.1節と少なかった。100粒重は15.0gと大きく,子実重は2,486kg/haであった。草丈,主茎節数が減少して低収となる中で,Marangatú,CD-202,BRS-184及びLCM-167の子実重が高かった。一方,A-4910,A-8000は極めて低収であった。

b. 第2回(2006年10月9日)播種

開花まで日数は51.2日,生育日数は146.2日で第1回播種と同様長かったが,草丈は65.2cm,最下着莢高が13.8cmと第4回播種に比べ低く生育量が劣った。また,主茎節数も15.0節と少なかった。100粒重は12.7g,子実重は3,255kg/haであった。多収を示したのは,CD-214,BRS-184,A-7321及びLCM-167であった。

c. 第3回(2006年10月27日)播種

開花まで日数は54.6日,生育日数は139.8日であった。草丈は79.3cm,最下着莢高が17.3cmと第4回播種に比べ低くいものの,主茎節数は17.5節と最高になった。また,子実重は3,707kg/haで,今回の播種期の中では最高の値を示した。中でも,Nueva M 70,CD-202,A-4910,CD-214等が4,000kg/haを超える多収を示した。

d. 第4回(2006年11月16日)播種

第3回播種と同様収量水準が高かった(3,443kg/ha)。特に多収を示したのは,Nueva M 70,A-4910,CD-202及びCD-213等であった。 開花まで日数は50.9日,生育日数は126.7日,草丈は84.5cm,最下着莢高は20.0cm,主茎節数も17.2節,100粒重は12.2gであった。

e. 第5回(2006年12月11日)播種

草丈,最下着莢高及び主茎節数が第4回播種の値とほぼ同等であったが,生育日数が第4回播種に比べ12.4日短く(114.3日),100粒重もやや減少したため(11.3g),子実重は2,930kg/haとやや低下した。その中で多収を示したのは,A-4910,A-7321,CD-214及びNueva M 70等であった。

f. 第6回(2007年1月2日)播種

開花まで日数は43.4日,生育日数は101.2日で,第4回播種に比べるとそれぞれ7.5 日,25.5日短かった。また,草丈及び最下着莢高は第4回播種に比べ22.6cm,5.7cm低く,生育量の減少が認められた。さらに,主茎節数及び100粒重が減少したため,子実重は1,724kg/haと低収であった。100粒重が顕著に減少したのは,ダイズさび病の発生も要因と考えられる。子実重が2,000kg/haを超えた品種は,CD-213,CD-214,A-4910のみであった。

g. 第7回(2007年1月22日)播種

開花まで日数は40.0日,生育日数は95.6日で,第4回播種に比べるとそれぞれ10.9 日,31.1日短縮された。また,草丈及び最下着莢高は第4回播種に比べ36.3cm,6.0cm低く,生育量の著しい減少が認められた。さらに,主茎節数及び100粒重が著しく減少したため,子実重は729kg/haと極めて低収であった。100粒重が顕著に減少したのは,ダイズさび病の発生も要因と考えられる。

(2)播種期による諸形質の変動

開花まで日数は第3回播種が最高で,早播及び晩播で短くなった。生育日数は,播種期が早いほど長く,播種期が遅いほど短くなった。主茎長及び最下着莢高は,第5回播種及び第4回播種で高く,第3回播種が次に高かった。主茎節数は第3回~第5回播種で多く,100粒重は播種期が早いほど大きく晩播ほど小さくなった。

子実重は,第3回播種で最も多収を示し,第4回播種が次に高かった。また,第2回播種も3,000kg/haを超える収量であった。第6回播種,第7回播種では著しく減収した(第4回播種を100とした場合,第6回及び第7回播種の子実重は50%及び 21%であった)。

(3)品種間差異

子実重についてみると,第7回播種を除くいずれの播種期においても品種間差異が確認された。第1回~第4回播種において品種間の偏差が大きく,特に第1回播種においてその差が顕著であった。

また,A-4910 とA-8000は第1回及び第2回播種期において低収であったが,Marangatú, CD-202, BRS-184は第1回及び第2回播種期で多収を示した。

4. 考察

(1)形質の変動と気象要因との関係

子実重の播種期による変動は,開花まで日数の変動と同傾向にあり,生育日数,主茎長,主茎節数及び100粒重の変動ともやや類似の傾向にあった。生育日数が短縮し,かつ生育量が減少する播種期では,収量が低下することを示している。開花まで日数,登熟日数及び生育日数は,それぞれの積算気温と高い相関があった。主茎長及び主茎節数の変動は開花まで積算気温の変動と同傾向にあり,100粒重の変動は特に登熟期間の積算気温の変動と類似していた。すなわち,開花まで積算気温や生育期間の積算気温が高い播種期で主茎長及び主茎節数が多く多収の傾向にあり,登熟期間の積算気温が高い播種期で100粒重は大きかった。また,播種時の日長と開花まで日数は負の相関を示した。

(2)播種適期

本年度の試験結果では,第3回~第4回播種期で多収を示した品種が多いことから,10月下旬から11月中旬がイタプア県での播種適期と推定された。過去にCRIAで実施された播種期試験の結果によると,11月上旬~下旬の収量が高く,播種適期と考えられていたが1, 2,3),本年度は10月下旬~11月中旬の収量が高かった。栽培品種の変化にともない播種敵期がやや早まった可能性も考えられる。なお,子実重及び主茎長(生育量)を確保するにためは適期に播種することが大切で,早播及び晩播では子実重及び主茎長が減少すること,生育日数及び100粒重は晩播になるにつれ減少することが明らかになった。この傾向は,ここに示した過去の結果とも一致する。また,旱魃の発生時期が収量に大きく影響することも考慮しなければならない。

(3)早播適応性

9月中旬~10上旬の早播では子実重や主茎長の品種間差異が顕著であった。Marangatú, CD-202, BRS-184等は早播で生育量を確保して多収になったが,A-8000, A-4910は低収であった。特にA-8000は主茎長及び主茎節数の減少率(第4回播種に対する第1回播種の比率)がそれぞれ32%及び25%と小さく,極端に短茎となり主茎節数も少なかった。早播に対してより大きな反応を示したものと考えられる。Marangatú, CD-202, BRS-184は,開花まで指数が40-41%でA-8000, A-4910の24-29%に比べ大きかった。開花まで指数は有限伸育型品種が概して大きく,有限伸育型品種の中ではMarangatúが特に大きくA-8000が小さかった。Marangatúは同じ熟期群の他の品種に比べ開花まで日数が長く日長反応が鈍く,逆にA-8000は敏感であることが推察される。このように早播によって品種反応は大きく異なるので,早播栽培における品種選定に当っては十分な注意が必要である。

5. 留意事項

本成績は,2006/07年の単年成績である。気象条件は年次により異なるので,複数年の結果を参考にすることが望ましい。

6. 謝辞

本試験を実施するに当り,大豆研究プログラム調整官Ing. Agr. Wilfrido Morel Paiva, CRIA場長Ing. Agr. Manuel Santiago Paniaguaには多大な便宜を図って頂いた。感謝申し上げる。

7. 参考資料

1)Schapovaloff A., Bogardo y Ruiz Diaz (1991): Effecto de Cinco Epocas de Siembra sobre el Rendimiento de Seis Cultivares de Soja.2)Schapovaloff A., E. Rodriguez, F. Rodriguez y A. Morel (1993): Efecto de Seis Epocas de Siembra sobre el Rendimiento y la Altura de Cuatro Cultivares de Soja.3)土屋武彦(2002):パラグアイにおけるダイズ研究計画(育種部門)最終報告書,国際協力事業団

参照:土屋武彦2007「パラグアイにおけるダイズ品種の播種期試験」専門家技術情報第4号,2006/07,JICA

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ダイズシストセンチュウ汚染圃場を利用した抵抗性選抜,パラグアイ最初の事例

2011-06-08 14:07:39 | 海外技術協力<アルゼンチン・パラグアイ大豆育種>

ダイズシストセンチュウ汚染圃場を利用した抵抗性選抜,パラグアイ最初の事例

 

1.はじめに

南米では,1992年にブラジル,1998年にアルゼンチンでダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)の発生が確認されていたが, 200212月にはパラグアイのCaaguazúCampo 9でも発生が確認された。その後の農牧省植物防疫局及びパラグアイ農業総合試験場(CETAPAR, JICA)によるモニタリング調査,佐野善一らの分布調査によれば,本線虫は現在パラグアイ北東部のCanindeyú 県,Alto Paraná県,Caaguazú県の16箇所で確認されている。中でもCanindeyú 県では調査した28圃場中7圃場で線虫が検出されたとの報告があることから(検出圃場率25%),汚染はかなり拡大しているものと推定される。

 

この線虫はダイズの最も重要な有害線虫として世界的に知られている。本線虫はダイズの根に寄生してダイズの養分吸収を阻害し生育を抑制するため減収し,被害は大きな問題となる。また,発育した雌成虫は体内に多数の卵を含んだレモン型のシストに変化し,このシストには耐久性があり卵が休眠状態で何年間も生存するため,いったん本線虫が発生すると根絶は極めて困難となる。パラグアイにおいても本線虫の汚染拡大を抑制するとともに,抵抗性品種の導入や非寄生作物との輪作など被害軽減対策が重要な課題となってきた。地域農業研究センター(CRIA)では,この線虫の侵入を懸念して1997年に抵抗性品種の開発を始め(パラグアイと日本の間の技術協力プロジェクト「ダイズ生産技術研究計画(1997 - 2002)」による),以降多くの育種材料を育成してきている。

 

本試験は,CanindeyúYhovyのダイズシストセンチュウに汚染された農家圃場を利用して,CRIAの育種材料について抵抗性を検定した結果である。また,本試験はパラグアイにおいて本センチュウの抵抗性を汚染圃場で検定した最初の事例である。

 

なお,本試験は技術協力プロジェクト「ダイズシストセンチュウ抵抗性品種の育成(2006- 2008)」の一環として実施された。試験の実施に当って,JIRCAS佐野善一博士及び国立農業研究所(IAN)のIng.Agr. Lidia M. Pedrozoには圃場選定に際しご指導頂き,農場主Moacia Jose Miottoには試験圃場の提供を頂いた。また,CETAPARIng.Agr. Fabio Centurionには検定圃場のレースの確認,Yhovy試験場のIng.Agr. Armindo Basstianiには圃場管理等でお世話になった。これら各位に対し厚く御礼申し上げる。

 

2.材料及び方法

1)試験場所:CanindeyúYhovyの農家圃場(S24.16, W55.01, 標高400m)。前作(冬小麦)- 前々作(ダイズ)。

2)供試材料:CRIA育成中のF10F5 51組合せ1,364系統,比較品種 91,計1,455系統及び品種 。

3)試験設計:1区0.45㎡(畦幅45cm,畦長1m),1区制,15畦おきに感受性品種(CD-202)を配置した。試験面積1,650㎡。播種日2006年10月23-24日。

4)調査方法:2006年12月4-6日に,各区4~6個体の根をスコップで掘起こし,個体ごとにシストの着生状態を調査し指数で表した。指数の基準は,0(無),1(極微),2(少),3(中),4(多)とした。また,指数が0~1に評価された系統及び比較品種については2007年1月9-10日に再調査した。

 

3.結果及び考察

1比較品種のシスト着生と抵抗性判定基準

15畦おきに配置した感受性品種CD-202のシスト着生指数は,最小1.3から最大4.0の範囲にあり,平均2.4(欠測値を除く85箇所)であった。感受性品種CD-202の着生指数は場所により差があるものの,抵抗性の評価は可能であると判断した。感受性品種CD-202の着生指数から、本試験では抵抗性強(R):指数0 – 0.4,やや強(MR):指数0.5 – 1.0,抵抗性弱(S):指数1.1 – 4.0とした。

 

2選抜材料の抵抗性検定結果

供試材料は,片親にアメリカ合衆国またはブラジルから導入した抵抗性品種を交配したF5からF10代の育成系統で,抵抗性については未検定の材料である。上記の抵抗性判定基準に従い評価した結果,抵抗性強(R)は238系統(17.5%),抵抗性やや強(MR)は112系統(8.2%)であった。抵抗性強とやや強を合わせると,抵抗性と思われる系統の出現率は25.7%である。なお,本試験が1区制であること,自然環境での汚染圃場における検定であること,集団から個体選抜したばかりのF5,F6代の材料を含むことを考慮すると,抵抗性については更に繰り返し確認する必要があろう。

また,供試材料の具体的な検定結果については付表に示した。F10代のCM9727-8-4とCM9721-15-3-1-1,F9代のCM98278-4-1とCM9829-10-1,F8代のCM9946-7とCM0134-15 ,F7代のCM9940-5,CM9940-8,CM9940-15,CM9921-17,CM9915-5及びCM9919-11,F6代のCM0213-20は系統群内の5系統全てが抵抗性強であることから,抵抗性が固定しているものと推定される。その他の抵抗性強及びやや強の系統については,抵抗性が遺伝的に固定しているか否か確認する必要があり,次年度の課題である。なお,供試材料は全て個体の種子を折半して使用したものであり,残りの種子はCRIAの育種試験に供試されているので,本検定結果は本年度の選抜に直接活用できる。

 

3抵抗性レースの確認

佐野ら(2006)は,この試験圃場の線虫をレース3(Golden et al.,1970による),HG型0(Niblack et al.,2002による)と判定している。今回指標品種を2反復で栽培し、シストの着生状況を観察するとともにCETAPARのIng.Agr. Fabio Centurionにも調査を依頼した。その結果,本圃場の優先レースはレース3,HG型0と確認された。

 

引用文献

1) Baigorri,H.E.J.,Vallone,S.D., Giorda,L.M., Chaves,E. and Doucet,M (1998): Nematodo del quiste en Soja. Hoja informative 323. EEA Marcos Juarez. 10p.

2) Centurion,F.M., Shimizu,K. and Momota,Y.(2004): First record of soybean cyst nematode, Heterodera glycines Ichinohe, from Paraguay. Japanese Journal of Nematology,34: 39-42.

3) Golden,A.M., Epps,J.M.,Riggs,R.D.,Duclos, L.A., Fox,J.A. and Bernard,R.L. (1970): Teminology and identity of intraspecific forms of the soybean cyst nematode (Heterodera glycines),Plant Disease Reporter 54: 544-546.

4) Mendes,M.L. and Machando, C.C.(1992): Levantamento preliminary da ocorrencia do nematode de cisto da soja (Heterodera glycines Ichinohe), no Brasil. Londorina; Embrapa-Soja

5) Niblack,T.L., Arelli,P.R.,Noel,G.R., Opperman,C.H.,Orf,J.H., Schmitt,D.P., Schannon,J.G. and Tylka,G.L. (2002): Arevisedclassification scheme for genetically diverse popilations of Heterodera glycines. Journal of Nematology 34: 279-288.

6) Sano,Z., Pedroso,L. and Trabucco,Z.F. (2006): Nematodo del Quiste de la Soja en el Paraguay-Distribución, daños,ecologia, razas y resistencia contra el nematodo-. IAN-MAG. 59p.

 

参照:土屋武彦2007「パラグアイにおけるダイズシストセンチュウ汚染圃場を利用した抵抗性材料の選抜2006/07」専門家技術情報 第3号,JICA-MAG 

 

 

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