竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌1804から集歌1808まで

2021年05月14日 | 新訓 万葉集
万葉集 集歌1804から集歌1808まで

哀弟死去作謌一首并短謌
標訓 弟の死去(みまか)れるを哀(かな)しびて作れる謌一首并せて短謌
集歌一八〇四 
原文 父母賀 成乃任尓 箸向 弟乃命者 朝露乃 銷易杵壽 神之共 荒競不勝而 葦原乃 水穂之國尓 家無哉 又還不来 遠津國 黄泉乃界丹 蔓都多乃 各各向々 天雲乃 別石徃者 闇夜成 思迷匍匐 所射十六乃 意矣痛 葦垣之 思乱而 春鳥能 啼耳鳴乍 味澤相 宵晝不云 蜻蜒火之 心所燎管 悲悽別焉
訓読 父母が 成(な)しのまにまに 箸(はし)向(むか)ふ 弟(おと)の命(みこと)は 朝露の 消(け)やすき命(いのち) 神し共(むた) 争ひかねて 葦原の 瑞穂し国に 家無みか また還(かへ)り来ぬ 遠つ国 黄泉(よみ)の堺(さかひ)に 延(は)ふ蔦(つた)の おのが向き向き 天雲の 別れし往(い)けば 闇夜(やみよ)なす 思ひ惑(まと)はひ 射(い)ゆ鹿猪(しし)の 意(こころ)を痛み 葦垣し 思ひ乱れて 春鳥の 啼(ね)のみ鳴(な)きつつ あぢさはふ 夜昼(よるひる)知らず かぎろひし 心(こころ)燎(も)えつつ 悲しび別る
私訳 父母が定めなされたままに、争うことなく兄弟が二本の箸のように助け合い過した弟の貴方は、朝露のような消えやすい命を、神の御心に抗うことも出来ず、葦原の瑞穂の国に住むことが出来ないのか、再び、戻って来ることの出来ない遠い国の黄泉の境に、延びる蔦がそれぞれの向きに、空の雲のように別れて行くので、闇夜のように思いは惑い、射られた鹿や猪のように心は痛み、葦の垣根のように思い乱れて、春鳥のように血を吐くように声を張り上げて泣き、味鴨が鳴き騒ぐように夜昼を問わず、陽炎が立つように心は焼け、貴方と悲しみの中で別れる。

反謌
集歌一八〇五 
原文 別而裳 復毛可遭 所念者 心乱 吾戀目八方
訓読 別れてもまたも遇ふべく思ほえば心乱れて吾恋ひめやも
私訳 別れても再び遇うことがあると思えるならば、このように取り乱して、私が貴方を懐かしむようなことをするでしょうか。
左注 一云 意盡而
訓読 一(あるひ)は云はく、心尽して

集歌一八〇六 
原文 蘆桧木笶 荒山中尓 送置而 還良布見者 情苦喪
訓読 あしひきや荒(あら)山中(やまなか)に送り置きて還(かへ)らふ見れば情(こころ)苦しも
私訳 葦や桧の生い茂る荒山の中に貴方を野辺送りして置いて来て、振り返り見ると気持ちは締め付けられます。
左注 右七首、田邊福麻呂之謌集出。
注訓 右の七首は、田辺福麻呂の歌の集(しふ)に出づ。

詠勝鹿真間娘子謌一首并短謌
標訓 勝鹿(かつしか)の真間(まま)の娘子(をとめ)を詠める謌一首并せて短謌
集歌一八〇七 
原文 鶏鳴 吾妻乃國尓 古昔尓 有家留事登 至今 不絶言来 勝牡鹿乃 真間乃手兒奈我 麻衣尓 青衿著 直佐麻乎 裳者織服而 髪谷母 掻者不梳 履乎谷 不著雖行 錦綾之 中丹裏有 齊兒毛 妹尓将及哉 望月之 満有面輪二 如花 咲而立有者 夏蟲乃 入火之如 水門入尓 船己具如久 歸香具礼 人乃言時 幾時毛 不生物乎 何為跡歟 身乎田名知而 浪音乃 驟湊之 奥津城尓 妹之臥勢流 遠代尓 有家類事乎 昨日霜 将見我其登毛 所念可聞
訓読 鶏(とり)し鳴く 吾妻(あづま)の国に 古(いにしへ)に ありけることと 今までに 絶えず言ひける 勝牡鹿(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てこな)が 麻衣(あさぎぬ)に 青衿(おをくび)着(つ)け 直(ひた)さ麻(を)を 裳には織り着て 髪だにも 掻(か)きは梳(けづ)らず 履(くつ)をだに 穿(は)かず行けども 錦(にしき)綾(あや)し 中に包める 斎児(いはひこ)も 妹にしかめや 望月(もちつき)し 満(た)れる面(おも)わに 花し如(ごと) 笑(ゑ)みて立てれば 夏虫(なつむし)の 火に入るがごと 水門(みなと)入りに 船漕ぐ如(ごと)く 帰(い)きかぐれ 人の言(い)ふ時 いくばくも 生(い)けらじものを 何すとか 身をたな知りて 浪の音(と)の 騒く湊(みなと)し 奥津城(おくつき)に 妹し臥(こや)せる 遠き代(よ)に ありけることを 昨日(きのふ)しも 見けむが如(ごと)も 念(おも)ほゆるかも
私訳 鶏が鳴き夜が明ける吾妻の国に、古く昔にあったことと、今まで絶えず言い伝えて来た勝鹿の真間の手兒奈が、麻の衣に青衿を付け、麻だけで裳を織って身に着け、髪の毛も掻き梳かず、履も穿かないで裸足で道を行くのだが、錦や綾の布に包まれ皆に祝福される児でも、手兒奈にはかなわない。満月のように満面の顔で、花のように微笑んで立っていると、夏の虫が明かりに惹かれて火に飛び込むように、また、湊に入ろうと船を漕ぐように、まっしぐらに帰って人が手兒奈に集まってきた。人々が語ったとき、どれほども生きているものではないが、どうしたことか、手兒奈は自分の運命を知ってしまって、浪の音が騒ぐ湊にある墓に手兒奈は身を横たえている。遠い時代にあったことなのだが、まるで昨日にあったことのように思われます。

反謌
集歌一八〇八 
原文 勝牡鹿之 真間之井見者 立平之 水挹家牟 手兒名之所念
訓読 勝牡鹿(かつしか)し真間(まま)し井(い)見れば立ち平(なら)し水汲ましけむ手児名(てこな)し念(おも)ほゆ
私訳 勝鹿の真間の井戸を見ると、その井戸の周りが平らになっている。昔、水を汲んで器に濯いだ手兒名のことが偲ばれます。

コメント
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