歌番号 369
詞書 松むし
詠人 忠岑
原文 堂幾川世乃 奈可尓太万川武 志良奈美八 奈可留々美川遠 々尓曽奴幾个留
和歌 たきつせの なかにたまつむ しらなみは なかるるみつを をにそぬきける
読下 たきつせのなかにたまつむしらなみは流るる水ををにそぬきける
解釈 激流の中に珠を積む白浪は、流れる水を珠の緒に貫いています。
注意 二句と三句目で、まつむし(松虫)の言葉の文字が取られています。
歌番号 370
詞書 ひくらし
詠人 忠岑
原文 以満己武止 以比天和可礼之 安之多与利 於毛飛久良之乃 祢遠乃美曽奈久
和歌 いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく
読下 今こむといひて別れしあしたよりおもひくらしのねをのみそなく
解釈 今、貴女の許に行こうと言って別れた、あの朝から、貴方を恋焦がれて暮らし、声を挙げて泣くばかりです。
注意 四句目で、ひくらし(ヒグラシ)の言葉の文字が取られています。
歌番号 371 拾遺抄記載
詞書 ひくらし
詠人 つらゆき
原文 曽満比止者 美也木飛久良之 安之比木乃 也万乃也万比己 々恵止与武奈利
和歌 そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまひこ こゑとよむなり
読下 そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこ声とよむなり
解釈 山の樵たちは宮で使う木を挽くらしい、足を引きずるような険しい山の山彦、樵たちの声が響き渡ります。
注意 二句目で、ひくらし(ヒグラシ)の言葉の文字が取られています。
歌番号 372 拾遺抄記載
詞書 ひくらし
詠人 つらゆき
原文 万川乃祢者 安幾乃之良部尓 幾己由奈利 堂可久世女安个天 可世曽飛久良之
和歌 まつのねは あきのしらへに きこゆなり たかくせめあけて かせそひくらし
読下 松のねは秋のしらへにきこゆなりたかくせめあけて鳥そひくらし
解釈 松を吹き抜ける風の音は、秋の調べとして聞こえます、音調を高く攻め上げて、風が弾いているようです。
注意 末句で、ひくらし(ヒグラシ)の言葉の文字が取られています。
歌番号 373
詞書 ひともときく
詠人 すけみ
原文 安多奈利止 飛止毛止幾久留 乃部之毛曽 者奈乃安多利遠 寸幾可天尓者留
和歌 あたなりと ひともときくる ものしもそ はなのあたりを すきかてにする
読下 あたなりとひともときくるのへしもそ花のあたりをすきかてにする
解釈 この花の姿は移り気だと、人の噂を聞くものではあるが、花咲く周りを行き過ぎることが出来ません。
注意 二句目で、ひともときく(一本菊)の言葉の文字が取られています。ただ、直接にも一本菊で解釈が出来ますが、隠し言葉として解釈しています。