調停で支払い約束をした更新料は
法定更新した後も支払い義務があるのか
(問) 借家をずっと契約書を取交わして3年契約で借り続けていたが、3年前に、更新料を支払って、借地借家法26条に基づく法定更新を選択した。条文上では、期限の定めのない契約になっているのであるから、契約の更新は法文上ありえない。
それにも拘らず、家主は弁護士を使って更新料の支払を要 求する。6年前の簡易裁判所の調停で、家賃の1か月分の更新料を支払うという調停条項があり、それを根拠に支払えというのだ。
(答) 法定更新は、「適法な更新拒絶の通知、条件変更の通知、および正当事由の立証は賃貸人がしなければならず、この立証がないかぎり賃貸借は法律上当然に更新される」(東京高裁1956年1月30日判決)ということである。
家主は法定通知期間(契約満了の1年前から6か月前)に適法な更新拒絶・条件変更の通知を行っていない。相談者の借家契約は、借地借家法26条1項の規定に基づいて適法に、従前の契約と同一の条件で3年前に法定更新されている。
法定更新後の借家契約の契約期間は26条の但し書により「定めがないものとする」ということになる。従前の3年契約のように契約に期間を区切って更新を繰返す契約ではないので、法定更新すれば以後契約の更新という事態は生じない。更新は法的に発生しないから更新料の支払い問題は発生する余地はない。
関係する判例を挙げると、
①「賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習は、存在しない」(最高裁第2小法廷 1976(昭和51)年10月1日判決 昭和51年(オ)657号)
②「賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求に基づき当然に賃借人に対する更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない」(最高裁第3小法廷 1978(昭和53)年1月24日判決 昭和52年(オ)第1010号)
③「法定更新の場合、賃借人は何らかの金銭的負担なくして更新の効果を享受することが出来るとするのが借家法 の趣旨であると解すべきものであるから、たとえ建物の賃貸借契約に更新料支払い約定があっても、その約定は、法定更新の場合には適用の余地がないと解するのが相当である」(東京高裁1981年7月1日判決)
④「建物賃貸借契約における更新料支払の約定は、特段の事情の認められない以上、専ら右賃貸借契約が合意更新される場合に関するものであって法定更新された場合における支払の趣旨までも含むものではないと認めるべきであるとするものと解される」(最高裁第1小法廷 1982年4月15日判決 昭和56年(オ)第1118号)
⑤更新前の調停・和解の効力は、「更新された賃貸借は旧契約とは別個のものだから更新前の調停・和解の執行力は新賃貸借には及ばない。」(広島地裁1966年6月6日判決、大阪地裁1971年6月26日判決)。
相談者が簡裁で合意した調停条項の「更新料として新賃料の1か月分を支払う」という調停の効力は、法定更新された契約には及ばないことは勿論のことである。
以上のことから、家主の更新料支払い請求は理由がない。相談者は家主の不当な更新料支払請求を拒否することが出来る。
東京・台東借地借家人組合
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