東京・台東借地借家人組合1

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【判例】*借家契約の更新料支払特約に関する最高裁判決 (2011年7月15日判決)

2011年08月18日 | 更新料(借家)

判例紹介

事件番号・・・ 平成22(オ)863

事件名・・・ 更新料返還等請求本訴、更新料請求反訴、保証債務履行請求事件

裁判所・・・ 最高裁判所第二小法廷

裁判年月日・・・ 平成23年7月15日

裁判種別・・・ 判決

原審裁判所・・・ 大阪高等裁判所

原審事件番号・・・ 平成21(ネ)2690

原審裁判年月日・・・ 平成22年2月24日

裁判要旨
1 消費者契約法10条と憲法29条1項
2 更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性

 

主     文

 1 原判決中、被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分を破棄し、同部分に係る第1審判決を取り消す。

 2 前項の部分に関する被上告人Xの請求を棄却する。

 3 上告人のその余の上告を却下する。

 4 被上告人らは、上告人に対し、連帯して、7万6000円及びこれに対する平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 5 訴訟の総費用のうち、上告人と被上告人Xとの間に生じたものは、これを4分し、その1を上告人の、その余を同被上告人の負担とし、上告人と被上告人Zとの間に生じたものは同被上告人の負担とする。


理     由

  第1 上告代理人田中伸、同伊藤知之、田敦史の上告理由について

  1 上告理由のうち消費者契約法10条が憲法29条1項に違反する旨をいう部分について

  消費者契約法10条が憲法29条1項に違反するものでないことは、最高裁平成12年(オ)第1965号、同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成17年(オ)第886号同18年11月27日第二小法廷判決・裁判集民事222号275頁参照)。論旨は採用することができない。

 2 その余の上告理由について

 その余の上告理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

 3 なお、上告人は、被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分については、上告理由を記載した書面を提出しない。

 第2 上告代理人田中伸、同伊藤知之、田敦史の上告受理申立て理由について

 1 本件本訴は、居住用建物を上告人から賃借した被上告人Xが、更新料の支払を約する条項(以下、単に「更新料条項」という。)は消費者契約法10条又は借地借家法30条により、定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条によりいずれも無効であると主張して、上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料22万8000円及び定額補修分担金12万円の返還を求める事案である。

 上告人は、被上告人Xに対し、未払更新料7万6000円の支払を求める反訴を提起するとともに、連帯保証人である被上告人Zに対し、上記未払更新料につき保証債務の履行を求める訴えを提起し、この訴えは、上記の本訴及び反訴と併合審理された。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。

 (1) 被上告人Xは、平成15年4月1日、上告人との間で、京都市内の共同住宅の一室(以下「本件建物」という。)につき、期間を同日から平成16年3月31日まで、賃料を月額3万8000円、更新料を賃料の2か月分、定額補修分担金を12万円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、平成15年4月1日、本件建物の引渡しを受けた。

 また、被上告人Zは、平成15年4月1日、上告人との間で、本件賃貸借契約に係る被上告人Xの債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
 本件賃貸借契約及び上記の保証契約は、いずれも消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。

 (2) 本件賃貸借契約に係る契約書(以下「本件契約書」という。)には、被上告人Xは、契約締結時に、上告人に対し、本件建物退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う旨の条項があり、また、本件賃貸借契約の更新につき、① 被上告人Xは、期間満了の60日前までに申し出ることにより、本件賃貸借契約の更新をすることができる、② 被上告人Xは、本件賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、上告人に対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない、③ 上告人は、被上告人Xの入居期間にかかわりなく、更新料の返還、精算等には応じない旨の条項がある(以下、この更新料の支払を約する条項を「本件条項」という。)。

 (3) 被上告人Xは、上告人との間で、平成16年から平成18年までの毎年2月ころ、3回にわたり本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし、その都度、上告人に対し、更新料として7万6000円を支払った。

 (4) 被上告人Xが、平成18年に更新された本件賃貸借契約の期間満了後である平成19年4月1日以降も本件建物の使用を継続したことから、本件賃貸借契約は、同日更に更新されたものとみなされた。その際、被上告人Xは、上告人に対し、更新料7万6000円の支払をしていない。

 3 原審は、上記事実関係の下で、本件条項及び定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条により無効であるとして、被上告人Xの請求を認容すべきものとし、上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。

 4 しかしながら、本件条項を消費者契約法10条により無効とした原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 (1) 更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照)、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。

 (2) そこで、更新料条項が、消費者契約法10条により無効とされるか否かについて検討する。

 ア 消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そして、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。

 イ また、消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。

 更新料条項についてみると、更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは、前記(1)に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。

 そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。

 (3) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また、これまで説示したところによれば、本件条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。

 5 以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法があり、論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。なお、上告人は、被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分についても、上告受理の申立てをしたが、その理由を記載した書面を提出しない。

 第3 結論

 以上説示したところによれば、原判決中、被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分は破棄を免れない。そして、前記認定事実及び前記第2の4に説示したところによれば、更新料の返還を求める被上告人Xの請求は理由がないから、これを棄却すべきであり、また、未払更新料7万6000円及びこれに対する催告後である平成19年9月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の請求には理由があるから、これを認容すべきである。なお、被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分につての上告は却下することとする。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官 古田佑紀  裁判官 竹内行夫  裁判官 須藤正彦  裁判官 千葉勝美)

 

 

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