東京・台東借地借家人組合1

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【判例】 庭修復費用請求事件 (東京簡易裁判所 平成21年05月08日)

2009年12月10日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

事件番号・・・・ 平成21(少コ)81等
事件名 ・・・・庭修復費用請求事件(本訴,通常手続移行),敷金返還請求事件(反訴)
裁判所・・・・ 東京簡易裁判所 民事第9室
裁判年月日・・・・ 平成21年05月08日

 平成21年5月8日判決言渡 東京簡易裁判所
 平成21年(少コ)第81号庭修復費用請求事件(本訴・通常手続移行)
 平成21年(ハ)第9885号敷金返還請求事件(反訴)

 

判         決

 

主         文

 1 本訴原告の請求を棄却する。
 2 反訴被告は反訴原告に対し,金6万円及びこれに対する平成19年6月12日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 3 反訴原告のその余の請求を棄却する。
 4 訴訟費用は, 本訴反訴を通じてこれを8分し, その1を本訴被告の負担とし,その余を本訴原告の負担とする。

 

事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨
 (本訴請求)
 本訴被告は本訴原告に対し,金36万8350円を支払え。

 

 (反訴請求)
 反訴被告は反訴原告に対し,金12万円及びこれに対する平成19年5月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は, 庭付き一戸建て住宅を賃貸した本訴原告 (以下「原告」 という。)が,契約当時の庭の植栽等は十分に手入れがされ健全な状態であったのに,本訴被告(以下「被告」という )退去時には松が枯れるなど荒れ果てた状態になって。いた,として庭の修復費用の支払いを求めて本訴請求したのに対し,被告が,庭の植栽等の管理をする契約上の義務はないとして,敷金全額の返還を求めて反訴請求した事案である。

1 請求原因の要旨
  (本訴請求)
  (1)原告は,被告との間で次のとおり賃貸借契約を締結し(以下「本件契約」という。),下記賃貸物件を,その敷地である庭とともに引き渡した。

  (ア) 契約日  平成16年8月8日
  (イ) 賃貸物件  所在東京都町田市a町b-c
             構造・間取り  木造2階建て  4LDK
             面積  建物  109.3平方メートル  敷地90坪
  (ウ) 賃貸期間  2年間(更新により平成20年8月7日満了予定)
  (エ) 解約予告期間  1ヶ月
  (オ) 賃料  1ヶ月  金12万円
  (カ) 敷金・礼金額  敷金12万円  礼金12万円

  (2) 前記賃貸借契約は平成19年6月11日限りで終了し, 被告は原告に対し,同日賃貸物件を明け渡した。

  (3) 本件敷地である庭の植栽は,被告入居時は十分に手入れがされていたのに被告退去後は,被告の管理不十分により荒れ果てており,特に門かぶりの松は枯れていた。

  (4)庭の修復費用として,以下の合計48万8350円の費用を要するので,被告はこの費用から敷金12万円を充当・控除した残額36万8350円の費用を負担すべき義務がある。

  (ア) 2メートル以上の高木剪定作業等費用     14万0700円
  (イ) 2メートル以下の低木剪定作業等費用      6万5100円
  (ウ) 雑草・除草及び刈取り処分費用          3万2550円
  (エ) 枯れた松と同程度の松の植替え費用      25万0000円

  (反訴請求)
  (1) 反訴原告(以下「被告」という。 )は反訴被告(以下「原告」という 。)との間で本件契約を締結し,敷金12万円を預け入れた。

  (2) 本件契約は平成19年5月25日限りで終了し,被告は原告に対し,同日賃貸物件を明け渡したが,原告は敷金を返還しない。

2 本件の争点及び争点に関する当事者の主張

 (争点)
 本件賃貸物件の敷地・庭の植栽について,被告がこれを手入れするなどして健全な状態に保つべき注意義務及びその違反があったか。

 (原告)
 (1) 契約に際し,原告は仲介業者である株式会社Aの担当者を介して,退去時に庭を原状に近い状態に戻すことを条件とするよう依頼し,被告がこの条件を承諾した。

 (2) 植木・垣根は伸び放題で,隣家2階のウッドデッキが隠れる程になり,落ち葉は3シーズン分堆積し,つる草(蔦)は植木部地面全体にはびこり,荒廃状態になっていた。門かぶりの松が枯れた原因は,切断面に虫食いもないことから,松葉が密集・堆積して蒸れたことによると思われる。異常に気付いた時点で対策をとる必要があったのに, 被告はなんの措置も講じなかった。

 (被告)
 (1) 庭は本件契約の目的ではないから,特約がない限り庭の修復費用は原告が負担するべきであり,本件契約書及び重要事項説明書にも庭の管理等についての記載はなく,被告は原告主張のような庭の管理についての説明も受けていない。 庭は建物の敷地として, 一般常識的な使い方をしていたに過ぎない。

 (2) 平成19年5月25日の退去時に,株式会社Aが委託した管理会社担当者が立ち会い,敷地,庭,ガレージ,建物内の状況を確認した上で,被告が負担すべき原状回復費用はゼロであるとの原状回復工事承認書を交付している。

 (3) 剪定作業等の費用などは,契約上明記されず,事前の説明もないので負担義務はない。雑草・除草刈取り処分費用は賃借人に負担義務はない。枯れた松の植替え費用は,被告が故意に枯らしたのではなく,いつ,どういう原因で枯れたのかも不明であり,被告に負担義務はない。

第3 当裁判所の判断
 1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

  (1) 本件賃貸物件は,平成元年建築であり,JRd線e駅から数百メートルの地点の住宅地に所在する。構造・間取りは木造2階建て,4LDKで,建物109.3平方メートル,敷地90坪あり,近隣の賃料相場に比べて安い物件である(甲1,乙3,乙4,原告本人,証人B )。

  (2) 本件契約書及び重要事項説明書(甲1,乙3,乙4)には,賃貸借の目的物として建物のみが記載され,敷地,庭の植栽等に関する記載はない。仲介業者株式会社Aを介した説明を受けて,被告が,退去時に庭を原状に近い状態に戻すことを承諾した,との原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

  (3) 被告は,本件賃貸物件の敷地・庭で子どもを遊ばせるなど,通常の一般的な使用をしていた。庭の植栽の管理については,株式会社Aから週に1回程度芝を刈ること,つつじの枝が飛び出すように伸びたらその部分を刈ってもよいが,基本的には植栽はジョキジョキ刈らないこと,などの説明を受けていた 被告及びその妻B(被告代理人。 以下両者を 「被告ら」 という。)には,庭の植栽の管理についての知識はほとんどなく,植栽等の剪定の必要を感じたこともなかったので,剪定はしなかった。植木・垣根は入居当時よりは明,(,らかに伸び 隣家2階のウッドデッキが隠れるほどになっていた (甲5の1,2, 証人B)。門かぶりの松が枯れた原因は 病害虫ではないと推認されるが真の原因は明らかではない(原告本人)。

  (4) 被告は,平成19年5月11日までに本件契約を解約することを原告に通知し,契約は同年6月11日限りで終了したが,被告はそれ以前の5月25日に退去し,賃貸物件を明け渡した(乙6,原告本人,証人B )。退去時に,株式会社Aが委託した管理会社担当者が立ち会い,敷地,庭,ガレージ,建物内の状況を確認した上で,被告が負担すべき原状回復費用はゼロであるとの原状回復工事承認書を交付した(乙2,乙7,証人B)。

  (5) 原告は,訴外C造園に見積もらせた本件賃貸物件の樹木剪定工事費用合計23万8350円のうち,(ア) 2メートル以上の高木剪定作業等費用14万0700円のみの作業を行わせ,同額を支払った(甲2,甲3,原告本人)。(エ) 枯れた松と同程度の松の植替え費用25万円は,原告が訴外C造園の植木職人から相当額として聴き取ったものである。この松は原告が別の場所で育成していたものを,本件賃貸物件の新築時に移植したものである。

 2 本件賃貸物件の敷地・庭の植栽についての被告らの善管注意義務違反以上で認定した事実を踏まえて,被告らの善管注意義務違反の有無・程度について検討する。

  (1) 庭の植栽についての被告らの善管注意義務
    本件契約書及び重要事項説明書には,賃貸借の目的物として建物のみが記載され,敷地,庭の植栽等に関する記載が一切ないことは前記認定のとおりである。 しかし, 本件のような庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては,被告らのような庭の使用状況に照らして,庭及びその植栽等も建物と一体として賃貸借の目的物に含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致するというべきである。そうすると,被告ら(被告の妻Bは利用補助者)は本件賃貸物件の敷地・庭の植栽についても,信義則上,一定の善管注意義務を負うと解するのが相当である。

  (2) 植栽の剪定をしなかったことについて
  庭の植栽の剪定をしなかったことを被告の善管注意義務違反とみることができるかどうかについては,敷地・庭の植栽の管理方法についての具体的な合意・約定がないこと,株式会社Aから基本的には植栽は刈らないようにとの説明を受けていたこと,植栽の剪定・養生にはこれに関する一定の知識経験が必要と解されるが,被告らには知識経験はほとんどなかったこと等に照らせば,剪定をしなかったことを被告らの善管注意義務違反とみることはできないというべきである。

  (3) 草取りの状況について
  被告らの入居前と退去後の庭の草の状況を比較すると,退去後は明らかに草が生い茂っている状態であり,甲5の25の写真が退去の約1ヶ月後の状態であることを考慮しても,一般的な庭の管理として行われるべき定期的な草取りが適切に行われていなかったものと推認される。したがって,この点は被告らの善管注意義務違反とみるのが相当である。

  (4) 松枯れについて
  松枯れの原因は不明であり,被告の善管注意義務違反によるものかどうかは明らかでない。しかし,松枯れはある日突然起きたわけではなく,徐々に葉の状態を変化させながら枯れるにいたったものと推認される。そして,本件の松はいわゆる門かぶりの松であり,その変化の推移は居住していた被告らが毎日目にしていたはずのものである。 そうすると, 庭の植栽についても信義則上,一定の善管注意義務を負うと解される被告らは,その変化の状態に気付き,これを株式会社Aないし原告に知らせて対応策を講じる機会を与えるべき義務があったと解するのが相当であり,これを怠った被告らには善管注意義務違反があったと認めるのが相当である。

  (5) 以上の草取り及び松枯れについての被告らの善管注意義務違反の程度を総合的に評価し,本件賃貸物件が近隣の賃料相場に比べて安い物件であることも併せ考慮すると,被告は預託した敷金の半分にあたる6万円を庭の修復費用の一部として負担するのが相当である。

3 以上によれば,敷金12万円を充当した後の庭修復費用の残額を請求した本訴原告の請求には理由がなく,敷金全額の返還を請求した反訴原告の請求には負担すべき分を控除した残額6万円の支払を求める限度で理由があるので,主文のとおり判決する。
  なお,遅延損害金の起算日は契約終了日の翌日とするのが相当である。


     東 京 簡 易 裁 判 所 民 事 第 9 室

              裁 判 官  藤 岡 謙 三

 

 

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