東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】 値上げ請求に対する地代供託が著しく低額のため背信行為ありとされた事例 

2009年03月30日 | 弁済供託

 判例紹介

 値上げ請求に対する地代供託が著しく低額である場合、背信行為ありとして、契約解除を認めた事例 (千葉地裁昭和61年10月27日判決、判例時報1238号)

 (事案)
 賃借人は昭和37年10月木造建物所有を目的として借地した。昭和43年4月の地代は坪当り月額90円であったが、昭和45年3月頃、120円に上げるよう請求を受けた。賃借人が断ると地主は、90円の地代受取を拒否したため、90円で供託を始めた。その後もずっと、90円で供託していたところ、地主は、昭和59年12月19日、無断増改築と、地代供託が低額すぎることを理由に、契約解除の通知をしてきた。


 (判決)
 借地法12条2項は、賃料の増額請求がなされても、当事者間に協議が整わないときは、借地人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、「相当と認める地代」を支払えばよい旨規定している。「相当と認める地代」とは、客観的適正額ではなく、原則として、「借地人が相当と認める地代」出よいと解される。しかし、「借地人が相当と認める地代」でよいといっても、その額がいくらでもよい、というわけではなく、その額が特段の事情もないのに従前の地代額よりも低い額であったり、適正地代額との差があまりに大きいとき等には、債務の本旨に従った履行という評価をすることができず、背信行為ありとして契約解除の効力を認めるべき場合もあり得る。

 本件についてみると、賃借人は昭和45年より15年間に亘って坪90円で供託を続けているが、昭和48年の時点で右供託金額は、地代家賃統制額坪当り349円の4分の1という著しい低額であることが認められる。非常に長い期間に亘って一見して「著しい低額」であると認識しうべき金額を漫然と供託しつづける賃借人の態度は、、常識を欠いたものである。地主においても、昭和46年8月に市川簡易裁判所に対し賃料増額調停を申立たものの、何等の成果も見られないまま取下げ、以後増額請求裁判を提起する等の行為に出ていないのは、落度として非難に値しようが、そのことを考慮に入れても、尚、賃貸借関係に要求される信頼関係が破壊されたものというほかない。


 (短評)
 紛争が長引いていると、供託額が据え置かれることになりやすい。
 著しい低額で供託をすると、本件のような問題が発生する。公租公課を調べながら、供託額の見直しを適宜行う必要がある。

 判決の一般論はやむ得ないとしても、「著しい低額」の判定基準に地代家賃統制令による地代額をもってきている点は、問題である。適正地代が統制地代額以下であることは、珍しいことでも何でもない。

(1987.08.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 参考法令
 借地法
第12条
 地代又ハ借賃カ土地ニ対スル租税其ノ他ノ公課ノ増減若ハ土地ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ地代又ハ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得
 但シ一定ノ期間地代又ハ借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ

2 地代又ハ借賃ノ増額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ増額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマテハ相当ト認ムル地代又ハ借賃ヲ支払フヲ以テ足ル
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヒタル額ニ附則アルトキハ不足額ニ年1割ノ割合ニ依ル支払期後ノ利息ヲ附シテ之ヲ支払フコトヲ要ス

 地代又ハ借賃ノ減額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ減額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル地代又ハ借賃ノ支払ヲ請求スルコトヲ得
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヲ受ケタル額ガ正当トセラレタル地代又ハ借賃ヲ超ユルトキハ超過額ニ年1割ノ割合ニ依ル受領ノ時ヨリノ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス

 

東京・台東借地借家人組合

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