東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】 借地の更新料の支払義務がないとされた事例 (東京地裁平成23年7月25日判決)

2011年12月20日 | 更新料(借地)判例

1 判例紹介

 借地契約の更新で、更新料支払特約に基づく支払請求は合意更新を想定したもので、法定更新の場合には適用されないとして更新料の支払義務が否定された事例 
東京地裁平成23年7月25日判決、同年8月9日判決確定。平成22年(ワ)第27854号 建物収去土地明渡請求事件 新日本法規 Westlaw Japan)

【事件の概要】
 
1、原告の地主と借地人Aは昭和42年頃、借地契約を締結し、Aは建物を築造した。

 2、Aは昭和63年1月に死亡し、被告Bが借地を相続した。

 3、平成2年3月26日に地主とBは借地契約を更新した。期間は平成2年4月1日から平成22年3月31日までの20年間。

 4、契約書には「地代の支払は毎月末日、翌月分を持参払い」となっているが、地主が集金していた。その後、支払は銀行振り込みに変更された。

 5、地代は3万1160円。平成21年11月1日から3万8950円に増額された。

 6、契約書には建物変更を制限する条項
   「建物の増改築、種類構造を変更する場合は、あらかじめ賃貸人の文書による承諾を得なければならない」と定められている。

 7、契約には更新料支払特約
   「期間満了時に建物が存在するときは、賃貸人と賃借人が協議のうえ更新することができる。契約が更新されたときは、賃借人は賃貸人に対して相場による更新料を支払わなければならない」と定められている(以下、更新料支払条項)。

 8、借地契約は平成22年4月1日に更新された。ただし、合意更新か、法定更新かで争いがある。

 9、平成22年4月7日付の地主からの催告書で更新料450万円の支払請求があり、支払わない場合は契約を解除すると通告してきた。

 10、地主はBの更新料不払の債務不履行又は信頼関係を破壊を原因として借地契約を解除し、建物収去・土地明渡を求めて提訴した。


 【裁判での争点は】
 
争点① 更新料不払いの債務不履行を理由とする借地契約の解除が認められるのか。
 
 地主の主張は、
 本件更新は合意更新であり、更新料支払条項により、更新料支払義務がある。仮に法定更新であるとしても、更新料支払条項は法定更新の場合にも適用がある。従って、借地人の更新料不払を原因とする借地契約の解除は有効である。

 借地人の主張は、
 本件の更新は法定更新であり、更新料支払条項は法定更新の場合は適用がない。従って、更新料の支払義務は無いから、債務不履行責任を負わない。勿論、契約解除は無効である。そもそも両者間に更新に関する協議・合意など存在しない。

 争点② 信頼関係を破壊を理由とする借地契約の解除が認められるか。

 地主の主張は、
 借地人は①度々地代の支払を遅滞し、②建物の無断改築をするなど両者の信頼関係は借地人の不誠実な行為により完全に破壊されたから、本件借地契約の解除は認められるべきである。

 借地人の主張は、
 ①地代は地主の集金による支払方法が約10年続いていた。しかし、
地主が平成12年5月から、突然集金に来なくなったことが原因で地代の遅滞が発生した。平成12年7月、突然「賃料の未払を理由に土地の明渡請求をされた」ので、遅滞した3か月分の地代はすぐに全額支払った。それ以降、支払い方法が変更され、銀行振込になってからは現在に至るまで遅滞無く支払っている。

 ②承諾料48万円を支払い、増改築工事を承諾する旨の文書得て改修工事を行ったのであるから、無断増改築の事実は存在しない。

【裁判所の判断】
 争点①
 賃貸人は契約は合意更新であると主張するが、合意の日時、場所、内容、更新料の具体的金額等の事実を認めるに足りる証拠はない。従って、借地契約は法定更新されていると認められる。

 「協議のうえ更新することができる」の次に続けて「契約が更新されたときは、賃借人は賃貸人に対して相場による更新料を支払わなければならない」とあるように合意により本件賃貸借契約を更新する場合を想定して定めたものと解するのが自然かつ合理的である。

 また、賃貸人から請求があれば当然に賃借人に更新料支払義務が生ずる旨の商習慣ないし事実たる慣習が存在することを認めるに足りる証拠はない(最高裁昭和51年10月1日判決)。「したがって、本件更新料支払条項は、合意更新について定められたものであり、法定更新の場合には適用がないと解すべきである」

 以上によれば、賃貸人の更新料の支払請求は認められない。また、賃貸人の更新料不払の債務不履行を理由とする借地契約の解除は認められない。

 争点②
  賃貸人は、賃借人に対して信頼関係破壊に基づく契約解除の意思表示の具体的な主張をしていない(本件解除通知は、更新料不払を理由としてなされている)から、賃借人の信頼関係破壊を理由とする解除の主張は、そもそも主張として不十分であるから、信頼関係破壊を理由とする借地契約の解除は認められない。

裁判所の結論 
「よって、その余の点を判断するまでもなく、原告(賃貸人)の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する」。


 東京地方裁判所民事28部

       裁判官  小 池  あ ゆ み

 

東京・台東借地借家人組合

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