東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】 新築オフィスビルの原状回復条項に基き当初の状態に回復すべきとした事例

2006年07月03日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

  新築のオフィスビルに関する賃貸借契約に付された原状回復条項に基づき賃借当初の状態にまで原状回復して返還すべき義務が賃借人にあるとされた事例東京高裁平成12年12月27日判決。判例タイムス1095号176頁)

(事案の概要)
 XはY所有の新築オフィスビルを賃借したが、その賃貸借契約には、
 「賃貸借契約が終了するときは、賃借人は、賃貸借期間満了時までに造作その他を賃貸借契約締結時の原状に回復しなければならない
 「原状回復のための費用の支払は保証金償却とは別途の負担とする」との原状回復条項があった。Xは、賃貸借契約終了に伴い、Yに対して、保証金から約定の償却費、自認する原状回復費用などを控除した残額の支払を求めたところ、Yは、Xに対して、償却費、原状回復費用などの合計額は保証金の残額を大幅に上回ると主張してその不足額の支払を求めた。

 (判決)
 本判決は、「一般に、オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付されることが多いことが認められる。オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によっても異なり損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当であることが、かかる特約がなされる理由である。(中略)適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから、原状回復費用を賃料に含めないで、賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは経済的にも合理性があると考えられる」旨示し、「通常の使用による損耗、汚損をも除去し、本件建物を賃借当時の状態にまで原状回復して返還すべき義務がある」として賃貸人Yの主張を認めた。

 なお、「通常の使用に伴い生じた損耗」については原状回復義務を負わない規定がある「賃貸住宅標準契約書」(平成5年3月9日建設省建設経済局長・建設省住宅局長通達)との関係について、本判決は、「右通達は、居住を目的とする民間賃貸住宅一般を対象とするものであり、右条項は、居住者である賃借人の保護を目的とするものであることが明らかであって、市場性原理と経済合理性の支配するオフィスビルの賃貸借に妥当するものとは考えられない」と判示している。

(寸評)
 オフィスビルの賃貸借契約につき「通常の使用による損耗も除去し、賃借当時の状態にまで原状回復して返還する」旨の原状回復条項が有効であることを認めた判決であるが、その射程範囲は、市場性原理と経済合理性の支配するオフィスビルの賃貸借契約に限定されるべきである。

(2002.12.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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