昨年ユニヴァーサルからの再発されたCleopatra's Needleが大きな話題となった、イギリスのバリトン奏者Ronnie Rossによる65年録音作品をコンパイルした編集盤CD。ジャケットを見る限り、おそらく2000年に発売されたものだと思いますが、巷であまり大きく扱われていないせいか心あるファンの中でも本編集盤の知名度は低めなのではないでしょうか。しかしながら、だからと言って素通りするには勿体無過ぎる1枚。何せ本作には、Harmonic Mood Musicというライブラリー系レーベルに残されたRonnie Ross Plays No.1という幻の10インチが、1曲を除き丸ごと収録されているのですから。しかも演奏がまた抜群に素晴らしく、トータル的にあのCleopatra's Needleをも凌ぐ完成度と来れば、いくら編集盤CDとは言え買わない手はないでしょう。まず何と言っても注目なのはM-1のLast Of The Wine。数年前にJazzanovaがコンピに収録して話題になった、モーダル・バップ調の高速ジャズ・ダンサー。4管のアンサンブルが圧倒的に格好いい問答無用のフロアキラーです。Basso Valdambrini SextetのDonna Luなどと並び、フロア・ユースなユーロ・ジャズの筆頭曲でしょう。3分弱という短尺もまた魅力的。M-5のSmilling JackやM-7のAny Minute Now、それからM-8のStevenson's Rocketも同系のモーダル・バップに仕上がっていて、いずれもフロア映え抜群のキラー・チューンです。個人的に気に入っているのは2本のフルートの鳴りが、異常なまでに優雅なM-3のThree For The Bar。マリナッチ辺りのファンならば一瞬で虜にされるはずの変拍子ナンバーになっています。それにしてもこれほどの作品が埋もれているとは、ライブラリー作品もまだまだ奥が深いですね。
先日のRCA盤2枚+GTA盤に続き、またイタリアのDeja Vuから彼らの音源が3枚同時に復刻。今回対象となるのはJollyレーベルに残された2作品とMusic盤のようですが、やはり目玉はこの60年録音盤でしょう。残りの2枚のLPに関しては、比較的入手容易な米Verve盤やジャケット&タイトル違いのStella盤も存在しているのに対し、本作は(CDではありましたが)過去に復刻がなく、長らくマニア垂涎の一枚となっていた作品です。おまけに内容的にも非常に素晴らしく、数ある彼らの作品のなかでも67年のGTA盤に匹敵するクォリティを持った1枚。いくら再発とは言えど、これをチェックしない手はありません。さて、気になるその演奏メンバーはセラーニやアゾリーニを含むいつも通りのクインテットに、トロンボーンのディノ・ピアーナを加えた当時のイタリアにおける最強3管セクステット。このメンバーで精一杯明るく楽しげな演奏を全編に渡って繰り広げています。踊れる曲はA-1のCrazy RhtyhmとA-3のGuess Who、それからB-4のLucy Ed Io。いずれもエッジの効いたシャープな3管のアンサンブルが格好良い高速4ビートのジャズ・ダンサーです。フロアーでも人気のLotarやMonotonia、それからDonna Luなどの諸作とは違い、それほど夜感を感じさせるタイプの演奏ではないですが、その分だけ逆にストレート・アヘッドなハードバップとなっていて、ジャズ初心者の人たちにも分かりやすいプレイなのではないかと思います。天に突き抜けるかのような明るい演奏は、この彼ららしからぬキュートなジャケットのイメージともぴったりですね。しかしながら最近のDeja Vuレーベル(というかPaolo Scotti)の働きぶりには、本当の目を見張るものがあります。「もっと復刻してほしい」という思いと「もうこの辺で辞めて欲しい」という思い交錯して、何だか複雑な気分になってくるのは僕だけでしょうか。
お馴染みバッソ・ヴァルダンブリーニ楽団によるMusic Parade盤。先頃Deja Vuから再発された例の2枚のRCA盤やGTA盤、それから米Verve盤などに比べると紹介される機会も少ないので、結構見逃している人も多いのではないでしょうか。僕の持っているのは廉価盤の2ndプレス(73年発売)と思われますが、オリジナルがこれと同じ体裁でリリースされているかは不明。と言うより、この盤が本当に2ndプレスかどうかも正直怪しいです。音の質感から察するに、録音自体は60年代に行われたものだと推察出来ますが、何せ詳しい資料が見当たらないので真偽の程は分かりません。さて肝心の内容の方はと言うと、全編が良くも悪くも「らしい」音作りに満ちた仕上がり。「ややウエストコースト風味のハードバップ」と形容されることの多い彼らですが、そう言った意味では本作など正にその典型と呼べるでしょう。明るくアップテンポの曲からブルージーな4ビートまで曲調はさまざまですが、いずれも白人がプレイするハードバップと言った感じで基本的に軽めです。全曲が3分前後という相変わらずの短尺ぶりも、その演奏の醸し出す淡白さに拍車をかけているような…。でも雰囲気自体は決して悪いものではないし、その軽さが逆に聴きやすさに繋がるのかもしれないという気もします。いわゆるキラー楽曲こそ収録されていないですが、それも慣れてくるとまた味と言うもの。部屋聴き向けとしては、クラブキラーとして紹介されている他の作品より、むしろこのくらいの方がちょうど良いのかもしれませんね。ちなみに曲単位で気に入っているのはB-2のEast Coast。あからさまな後ノリ系ビートが小気味良いタイトなマイナー調バップです。急速調のA-4、Clanもなかなか。それにしても、フロント2人の呼吸の阿吽ぶりには、毎度のことながら舌を巻かされます。これほど息の合う双頭コンボって、ちょっと他に見当たらないような…。
既に当ブログでも紹介が4度目となるテナー・サックス奏者、ハンク・モブレイによる63年の2管クインテット録音盤。ブルーノートの4149番です。例の赤いジャケットで有名なDippin'の約2年ほど前に作られた本作は、ドラムのフィリー・ジョーを除くサイドメンを丸ごとチェンジした2種類のコンボ編成による演奏が2:1の比率で収められた構成となっていますが、ここでの注目は盟友Lee Morganとの2管フロントが冴える3月録音時のセッション。若干ジャズ・サンバ~アフロ・キューバン調で始まる冒頭A-1のThree Way Splitから、明快で楽しげなハードバップと言った雰囲気で良い感じに仕上がっています。そして、何と言っても本作最大の魅力はB-1のタイトル曲。以前ニコラ・コンテがモーダル・ジャズのベスト1に挙げていたというこの曲は、数あるモブレイの曲のなかでも際立ってモード色が濃い作品で、非常に聴きやすくも洗練された仕上がりを見せています。特にフィリー・ジョーの跳ねたドラミングが高揚感を煽る冒頭部、そこから雪崩れ込むように入っていく2管ユニゾンによる耳障りの良いテーマ部、そして続くモブレイ自身のソロへの流れが絶品。ついつい何度も繰り返して聴きたくなってしまうような、ある種の中毒性を持ったメロディーが小気味良いですね。モーガンやアンドリュー・ヒルのソロも当然悪くはないですが、やはりこの曲の魅力は前半部に8割が集中しているような気がします。前半部の完成度がそれほどまでに圧倒的。ちなみにバードとハンコックが参加した4月録音のセッションでは、A-3のUp A Stepがなかなか。リズム隊は正統派の4ビートを奏でているものの、フロントの2人がやや特殊なアプローチでそこにソロを乗せているので、音楽的には面白い出来となっています。まぁ何にせよ、タイトル曲1曲のためだけに買って損はしないアルバム。オリジナルはともかく、東芝EMI盤等でなら高くなく見つけられると思うので。
スウェーデンのトロボニストである彼が、1963年に吹き込んだ2枚目のリーダー作。ちなみにリリースは現地のColumbiaからです。この翌年にMetronomeからライブ盤をリリースした後、徐々に前衛~フリーへと傾倒していってしまう彼ですが、この63年時点の演奏はまだ露骨に前衛ということもなく、適度にモード感覚を取り入れたハードバップとなっていて、今聴いても相当に魅力的な一枚に仕上がっています。数年前に一部のDJ達から、同じくスウェーデン出身のトロンボニストであるLars Lystedtの作品が、「スウェディッシュ・モーダルの最高峰」などと言われて持てはやされたことがありましたが、アルバム全体で見たらジャズ的にクォリティが高いのはおそらく本作の方。例のThe Runnerのような分かりやすい曲こそ収録されていないものの、トータルとしての内容が非常に素晴らしく、聴いていて飽きの来ない作品だと思います。Eje Thelin自身のトロンボーン・プレイも去ることながら、ピアノのJoel Vandroogenbroeckによる透明感に満ちたプレイが美しく、つい何度も針を落としてしまいたくなりますね。ベースのRoman DylagとドラムのRune Carlssonによるリズム隊も良い感じ。ミディアム・アップな4ビートで展開されるA-1のタイトル曲や、複雑なリズムパターンの切り替えも素晴らしい哀愁モーダルなB-2のFolk Songなど、当時のスウェディッシュ・ジャズでも相当にレベルが高い作品と言えるのではないでしょうか。個人的に気に入っているのはB-1のIt Could Happen To You。演奏時間が10分以上と長尺ではありますが、わりときっちりした展開があるので普通に聴けてしまいます。分かりやすい曲をお探しなDJ諸氏にはオススメしかねますが、格好良くてヨーロピアンなモダンジャズの世界に存分に浸りたい人には良い盤かもしれません。
何気に紹介するのは相当久しぶりとなるソウル系のレコード。本作は彼女たちが77年に残した1枚で、言わずと知れたフリーソウルの大クラシック盤です。60年代前半にデビューした後、音楽界に長く留まったこともあり、この手のアーティストの中でもかなり多作な部類に属する彼女たちですが、やはり僕たちのような世代にとって、数あるアルバムの中での本命は間違いなく本作でしょう。人気の秘密はB-1のWaiting On You。とびきりの高揚感とダンサンブルなビート、それから込み上げ系のメロディーが同居した奇跡のメロウ・ダンサーです。Odysseyの名曲Battened Shipsをもう少しメロウ・ソウル寄りにシフトさせ、そこにSister SledgeのThinking Of Youのような刹那的な雰囲気をスパイスとして加えた問答無用のクラシックス。一時のブームが過ぎ去った今でも、聴いていると自然と胸の奥が熱くなってきます。逆にDJで今プレイするのであれば断然B-3のBring Your Sweet Stuff Home To Me。スティーヴィー・ワンダーが弾く都会的なアナログ・シンセが素晴らしい、ブラジリアン・フュージョン風味の一曲です。ダンディズム溢れるハードバップやモーダルなジャズ・ワルツの中にこういう曲をさらっと混ぜると、フロアーの雰囲気もグッと華やかなものになるはず。クロスオーヴァー度が高めな曲なので、ソウルの流れの中だけでなく様々なシチュエーションでかけられるかと思います。個人的には跳ねたビートとゴスペル風味のコーラスがJackson Sistersを彷彿とさせるA-1のタイトル曲も好き。往年のアメリカン・ポップスと言った趣きのスウィンギンなパーティー賛歌です。ちょっと探せばどこにでもありそうな一枚ですが、逆にだからこそ見落としがちな一枚。たまには趣向を変えて、こういう盤を楽しむのも良いのではないでしょうか。
CH-Recordというマイナーレーベルに残されたドイツ産ジャズ。キーボーディストのRoby Weberをリーダーとしたヴァイブ入りカルテット編成による73年録音のアルバムです。年代がら純粋なモダンジャズとは言い難く、またウェバーが主に生ピアノではなくエレピをプレイしているので、どちらかと言うと若干ジャズ・ファンク寄りの作品ではありますが、この手のマイナー盤としてはなかなかに好内容なので紹介。このRuby Weberという人の情報があまりないので詳細は分かりませんが、この時代のヨーロピアン・ジャズとしては中々優秀な一枚だと思います。70年代にリュニオンした後のダイヤモンド・ファイブ辺りの肌触りに近い演奏で、ヴァイブとエレピを中心とした柔らかいジャズ。8ビートで若干ジャズ・ロック調の曲やボサノヴァのリズムを取り入れた曲、はたまた正統派の4ビートで心地良くスウィングする曲まで、そのアレンジはヴァリエーションに富んでいますが、基本の演奏能力がそれなりに高いので、どんな曲調のものでもわりと洗練された雰囲気を持っていて良い感じ。以前どこかでも紹介されていたB-2のWork Songなど適度な夜ジャズ仕様となっていて、いわゆるクラブジャズ好きの方にも満足行く内容のものかと思われます。個人的にはA-4のClave-Beatという曲がツボです。取り立てた派手さはないものの、軽快なテンポとマイナーコードで綴られた素敵なボッサ・ジャズ。なおかつビートも打っているので、早い時間のDJプレイには最適と言った趣き。高いお金を払って買うほどのレコードではないと思いますが、もしも安くで見かけてみたら耳を傾けてみても良いかもしれません。ちなみに一見特殊仕様風に見えるジャケットは実は単なる2次元的なデザイン・ワークなのでご注意を。