55年のMJQ脱退後、その活動拠点を本場アメリカからパリへと移し、いわゆる渡欧組ミュージシャンの先がけとなったドラマーがこのケニー・クラーク。60年代にはベルギー生まれのピアニスト、フランシー・ボランと双頭ビッグバンドを結成し、正に世界を又に駆けて活躍することになるわけですが、本作はそれより3年ほど前、渡仏後あまり間もない57年に録音されたEP作品となります。当時はLPよりEPが隆盛を誇っていたヨーロッパのこと、収録曲はおそらく全て本作のみでしか聴けない作品なのだと思いますが、これがいずれ劣らぬ素晴らしい傑作揃いで、このまま埋もれさせておくには余りに勿体なすぎる一枚だったりするから困り者。同じく渡欧組のラッキー・トンプソン、それから現地フランスのミュージシャンであるマーシャル・ソラルとピエール・ミシュロという面子で演奏された作品で、その素晴らしい録音技術とも相まり、この時代におけるヨーロピアン・モダン・ジャズの一つの完成形とも言える体を為しています。とにかく全編に渡り演奏者全員のプレイが抜群に冴えていて非常に男前。曲調及び年代がらフロア向けの作品とは決して呼べませんが、もしも出来ることならば是非一度DJでかけてみたいものです。全曲文句なしの出来ですが、あえて一曲挙げるとすればA-1のNow's The Time。ドラム・ブレイクによるイントロに続くトンプソンのテナー、そしてソラルのピアノが最高に格好いいミディアム・テンポのハードバップです。まぁ他の曲も全て格好いいんですけれどね。何とかしてムリヤリDJでプレイするとすればA-2のSquirrel辺りでしょうか。それにしてもEPの世界は奥が深い…。有名アーティストのリーダー作でも、まだまだ世に知られていない作品がたくさんありそうです。
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