(前回からの続き)
前回、英国が頼る通貨ポンドの賞味期限が迫りつつあることの理由として、同国のモノ、不動産、そして株(おもに資源株そして金融株)のどれをとっても(英国民を含む)世界の人々にとって「買いたい!」と感じさせるものがないことを挙げました。これではそれらの引換券としてのポンドの魅力は下がる一方でしょう。
そしてもうひとつは、そのポンドに(いまでもそうだけれど)今後、爆発的に増刷される気配が漂っているということです。つまりポンドには価値暴落(インフレ)リスクがつきまとっていくわけで、これもポンドの将来を暗くさせるもの・・・
そのあたりについては英国の慢性的な経常赤字体質等に絡めて以前も綴ったことがありますが、これに関連して今回は、いま英国で話題となっている(?)、公共インフラ建設資金をイングランド銀行(中銀;BOE)に創出させようという政策案をご紹介します。これはまたスゴい勢いでポンドが刷り散らかれそうなヤバい内容ですが、けっこう(日本でも!?)支持を得ているみたいだからわからないものです・・・
で、そのスキームとは、ジェレミー・コービン党首率いる英国労働党の提案する経済政策の一部で、具体的にはインフラ整備推進を目的に新設される「国立」投資銀行(national investment bank)が振り出す債券をBOEに引き受けさせるもの。となればその本質は、政府が行う公共事業に必要な資金を税収等ではなくBOEが新たに発行するマネーで賄おうという、つまりは中銀による国債の直接引き受け「財政ファイナンス」です(ってコレ、EU法に抵触するのでは?)。
コービン氏は、以前から金融政策(量的緩和策;QE)が人々の役に立っていないとBOEおよびその独立性を批判し、政府は国民の利益向上のためにBOEを機能させるべきと訴えてきました。その主張を反映させたのが上記の政策なのでしょう。まあ国家の経済、金融政策への介入強化というスタンスはいかにも社会主義的で、まさに労働党のやり方だな~と妙に感心させられるところですが・・・(好き嫌いは別として、本来の左翼とはこうあるべきで、日本の左翼(右翼)の定義はやっぱりオカシイよ!?)
当然ながら、そもそも政府は公共事業に必要な費用を徴税とか起債によってマーケットから調達するわけです。そのおカネをBOEによる財政ファイナンスで生み出したらその分だけ市中のマネー量は増えてインフレが起こることに・・・。これこそ「通貨の番人」たる中銀の自殺行為にほかなりませんが、それほど危険なこと―――ポンドの信認崩壊&大幅な切り下げにつながりかねないこと―――をBOEにさせなければならないほど(あるいは真剣にその実施を議論しなければならないくらい)英国は資金調達に窮している(長期金利急騰の危機にさらされている)ということなのでしょう。
そんなボロい通貨国である英国のソブリン格付け(長期)ですが、いまだにAAA(S&P)を保っています。一方で日本はA+(同)・・・。一度ハマったら抜けられない麻薬のような中銀の錬金術にどっぷり浸りつつある国のほうが、これにほとんど頼ることなく財政の範囲内で必死にやり繰りしている国よりも格付けが高い・・・って、いかに自国通貨建ての国債の格付けが無意味かを痛感させられます。そこで個人的には、上の労働党政策が早く始まらないかな~なんてヘンな期待を抱くわけです。そのとき格付け会社が英国の格付けをどうするか、そしてその理屈をどう説明するのか、見ものだから・・・。