(前回からの続き)
EUは26日のエネルギー相会合で、ロシアからの天然ガス供給が途絶する事態に備えて8月から来年3月までガス使用量を自主的に15%削減する案を承認しました。これ当然、ウクライナに軍事侵攻したロシアへの対抗措置になるわけです。報道によるとドイツの閣僚はこの合意について、欧州の結束をロシアに示すものだとし「われわれを分裂させることはできない」と語ったとの由です。
しかし・・・結論からいえばこの削減策、実際には上記とは逆に、対ロ姿勢について欧州各国を分裂させる方向に作用しそうに見えます・・・って、みんなこれを順守できるほどの余裕なんてないだろうから、です。現に、そのあたりが容易に想定できるために?削減目標の免除とか緩和の条項が盛り込まれているし、ガスを大量に使う産業の同使用量は計算上除外が可能、などなどとなっています。となると、マジメに節約に取り組んだ国や企業等のほうがかえってソンをしかねません。であれば・・・欧州において目下(ロシア以上の?)最大の脅威であるインフレを少しでも緩和するため、そして同じ域内のライバル国に対して優位に立つためにも、このへんのグレーゾーンで引き続き低価格のエネルギーを買うほうがトク・・・ってロシアから、などと考えて動くほうが理にかなっている、というものです(?)。
そこは、ユーロ圏では、やはりイタリアにそのインセンティブが強いといえるでしょう。同国のロシア産エネルギーに対する依存度は相対的に高い(たとえば輸入天然ガスの約4割がロシア産となっている)ため、そんな急にこれを削減しましょう、ロシア以外からの輸入品に切り替えましょう、などと言われても・・・(必要量を輸入できる保証はないし十分なガス貯蔵施設等もないし作る資金もないし)ってことです。
そのあたりIMFの検証によると、万一ロシア産ガスの供給が遮断された場合、EU全体のGDPは2%あまりの減少が予想されるのに対し、イタリアのそれは3~6%近くも減少してしまうそうな。となるとイタリアとしては正直、ロシアにガスを止められるとオシマイ(他の選択肢なし)になりかねないので、(ロシアを過剰に刺激しかねない)上記削減策はほどほどにして?かの国とは引き続きエネルギーの取引をしたいところでしょう。
先日のこちらの記事で、対ロシア経済制裁に関するEUの取り組みにイタリアのマリオ・ドラギ首相(退陣表明済み)がリラクタントな態度をとったことを紹介しましたが、それについて、対ロシアでのユーロ圏の結束を乱すもの・・・と批判するのは簡単ではあるものの、他方でイタリア国民の苦しみ―――インフレ―――がちょっとでも和らぐのなら、という切なる思いから、と推測すれば・・・まあ分かる、といったところです。前述のように、もはやイタリア&欧州中央銀行には(通貨金融政策で)インフレを鎮静化することができない以上、せめて輸入エネルギーくらい安いものを買わせてほしい、ということで・・・