なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

死亡診断書の書き方

2019年07月21日 | Weblog
CareNeTVで「死の立ち合い方」の講義が始まった。このような内容までやるとは、CareNeTV恐るべし。まずは基本的な死亡診断書の書き方。
 
CareNeTV
死の立ち合い方 横浜市立大学総合診療医学教室 日下部明彦先生
 
第2回 死亡診断書の書き方
 
死亡診断のステップ
(2つのステップがある)
 1.形式的にできる~死亡診断書が書ける
 2.遺族の心情を意識してうまくできる(これは第3回で)
 
1.形式的にできる~死亡診断書が書ける
 
厚生労働省 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル
 これは必読!(毎年改定される)
 
死亡診断書と死体検案書の使い分け
異状死体
・外見上の異常があれば異状死体
・外見上の異常がなくても、医師が異常な状況での死と認めるならば、異状死体
・外見上の異常がなく、医師が自然死、病死と認めるならば、異状死体ではない
⇒フォローしていた患者なら死亡診断書作成
 フォローしていなかった患者ならば死体検案書作成
 
死亡診断書についてのよくある誤解
例)訪問診療をしていた末期がんの患者が診察の数日後に死亡⇒死亡診断書を交付
最後の診察から24時間経ってからの死亡
①警察に届けなくていいの?
・現病で亡くなあったことが明らかであれば、異状死ではなく、警察への届け出は不要
・異状死なら24時間以内に所轄警察署に届ける
②死亡診断書でいいの?
・24時間経過しても、診察し、現病で死亡したと判断すれば死亡診断書でOK
 
この誤解が生じた理由
医師法第20条(無診察治療等の禁止)
「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自らシュッさあんに立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し診察中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない」
これを24時間以上経過した場合は死亡診断書が書けないと誤解した
本当の意味は、
・診察しないで診断書を書いてはダメ
・「いつも診ていた患者が最後の診察後24時間以内に死亡した場合は、改めて診察をしなくても診断書を書くのはOK」という意味の文章
 
医師法第20条のただし書きの解説
医師法第20条ただし書の適切な運用について
・最後の診察から数時間後に死亡した場合でもいつも診ている医師なら死亡診断書でOK
・いつも診ていない医師なら死体検案書
 
死亡診断書でいい?
例1.70歳代男性膵臓がん
朝9時、看護師が訪室しいた際に。呼吸停止をしており、CPRを行ったが蘇生せず
気管内から食物が吸引された
食物誤嚥による窒息死
⇒死亡診断書ではダメ
・窒息は外因死であり異状死
・医師法第21条に基づき所轄の警察へ連絡
・この方は誤嚥性肺炎ではないですよね・・・
例2.70歳代男性膵臓がん
A病院に通院
BSCの方針
癌性悪液質著明、腹水多量
今後は訪問診療に移行
主治医はもう1~2週間かもしれないと考えた
2日後、心肺停止で救急搬送され、死亡が確認された
⇒死亡診断書で良い(管理下にあった)
死亡診断書または死体検案書
・病状や周囲の状況から膵臓がんの自然経過と考えることができるならば、病死であり、異状死ではない
⇒死亡診断書または死体検案書を発行する
・主治医が死亡診断⇒死亡診断書
・何度か診察している主治医グループの医師が死亡診断⇒死亡診断書
・その患者を初めて診たA病院の医師⇒死体検案書
(異状死体ではなく、自らの管理下にはない患者の死)
 でもこの場合、患者さんを初めて診た当直の医師が死亡確認しても通常は死亡診断書で提出するだろう
 入院していた病院で亡くなって、死体検案書とはし難い

死亡時刻は死亡を確認した時刻?
 厚生労働省 平成31年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルに
「死亡したとき」は死亡確認した時刻ではなく、死亡時刻を記入します
とあるが、現場では家族と一緒に医師が死亡確認した時刻を記入することが多い
*心電図モニターでは死亡確認はできない
 
実際の書き方
・死亡診断書を選択した時は、死体検案書を二重線で消す 印鑑不要
・疾患名:略語を避け正式名称を記載
・終末期状態の心不全、呼吸不全は死亡の原因としない
・手術、解剖の有無に〇
・死因の種類に〇
・外因子の追加事項:病死の場合は斜線不要 これまで引いていた
・医師名 自署なら印鑑不要
 
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大球性貧血

2019年07月20日 | Weblog

 金曜日の午後に、クリニックから貧血の76歳女性が紹介されてきた。紹介してきたのは、以前当院の循環器科にいて、開業した先生だった。「Hb6.9g/dlなので、輸血でも」と言われた。「MCVは?」と訊くと、「大球性」だった。ただしMCV111と微妙な値で、巨赤芽球性貧血とは言い難い。

 受診してきた患者さんは倦怠感はあるらしいが、労作時の息切れもないという。患者さんとすれば、検査の結果で貧血と言われただけで、特に困ってはいない。入院する気は全くない。

 高血圧症・僧房弁閉鎖不全症があるので、それに貧血が加わると労作時の息切れはありそうなものだが、身体の動きは良かった。年齢の割に元気な方だった。夫と農機具のお店を経営しているが、高齢なのでそろそろ店を閉めることを考えているという。

 2016年まで当院に通院していて、2015年がHb13.4g/dl、2016年がHb12.3g/dlでMCVは正常域にある。クリニックに行くようになってからは、2017年が11.5g/dl、2018年11月がHb10.6g/dlだった。時系列でみると、一連の変化と解釈される。

 検査の形として、血清鉄・血清フェリチンを検査したが、正常域だった。血清ビタミンB12も外注検査に提出したが、この方は脊柱管狭窄症で整形外科からメチコバールの処方を受けている。悪性貧血でも、経口投与で充分補充されるくらいなので、血清ビタミンB12が低下しているはずはない(無駄な検査か)。

 白血球・血小板は正常域で、分画に有意な異常はないようだ(相対的リンパ球増加あり)。肝機能検査はLDHも含めて正常域で、甲状腺機能も正常だった。1系統のみの異常だと、骨髄異形成症候群が疑われる。

 消化管出血の有無は見ておかないとまずいので、週明けに上部消化管内視鏡検査を行って、便潜血検査も行うことにした。便潜血検査が陰性であれば、大腸内視鏡検査は省略してもいいか。

 骨髄での血液の作り方がおかしいので、血液内科に紹介したい、と患者さんに伝えた。ちょっと遠方にはなるが、車で連れてきてくれた夫に頼むと、行けなくはないようだ。

 

 

 

 

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多発性肝転移・骨転移・縦隔リンパ節転移

2019年07月19日 | Weblog

 水曜日、胃癌(手術不可)で入院していた98歳男性は数日前から下顎呼吸になっていた。夕方には朝よりも呼吸が弱くなって、家族には今晩でしょうとお話した。家族1人が付き添っていたが、その日3人で付いていると言っていた。

 当直医にお願いするようになるので、深夜だと申し訳ないと思った。当直は日曜日に大腸癌・多発肝転移で入院した50歳代半ばの男性を担当した外科医で、その日の午後に大腸癌の切除術を行っていた。術後にそのまま当直に入るというハードスケジュールだった。

 午前0時過ぎから受診が途切れて、午前5時に救急搬入があった。その後、午前7時前に胃癌の男性が亡くなり、死亡確認をしてもらった。搬入された50歳代後半の男性は思いがけない病状だったので、外来で診療していて病棟に呼ばれたようだ。

 

 その50歳代後半の男性は、腰痛で救急搬入されていた。圧迫骨折という年齢でもないので、急性腰痛症(ぎっくり腰)か腰椎ヘルニア・腰椎脊柱管狭窄症あたりと思って受けたはずだ。

 実際は骨転移による腰痛だった。右肺に空洞形成をもつ陰影があり、肝臓に多発性腫瘤があった。縦隔リンパ節転移もある。腫瘍マーカーはCEAとCA19-9が著明に増加していた。空洞形成が少し気になるが、一元的に説明すると右肺癌・多発性肝転移・多発性骨転移・従なくリンパ節転移になる。

 当院で診れる病状ではないので、肺癌治療を行っている専門医のいる病院に紹介するしかない。内科当番だった先生に相談されて、さっそく他院と交渉していた。

 

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脳幹(橋)梗塞

2019年07月18日 | Weblog

 先週末循環器科の若い先生が当直だった時に、98歳女性が脳幹梗塞で内科入院となった。超高齢で昏睡状態だったので、地域の基幹病院には搬送しなかった。その日の内科当番が神経内科志望の若い先生(地域医療研修の内科専攻医)だったので、ちょうどいいとも思ったのだろう。

 頭部MRIで橋の右側から中心部にかけて、16㎜径の新鮮な梗塞巣を認めた。MRAでは椎骨脳底動脈系の動脈が辛うじて写っているように見えるが、血流は相当悪そうだ。

 内科病棟の個室に入院した。意識以外のバイタルは安定していた。さらに梗塞巣が拡大する可能性もあり、その際は心肺停止時DN(A)Rの方針となった。

 梗塞巣が広がらなければ助かりそうだが、その後の対応はどうするかと話し合ってはいた。実際に1週間の経過で、意識は回復して呼名で開眼するくらいになった。ここからどうするかは、できることを提案して家族の希望で決めるしかない。

 ちょっと病室を覗くと、今日は娘さん(同居していない)が来ていて、患者さんの手を握っていた。患者さんのことは、同居しているお嫁さんに任せているそうだ。すうっと逝けると思ったのに、(助かって)かえってつらいですね、とも言っていた。

 

 今日から医学部に学生さんが地域医療体験で病院に来ている(2日間だけ)。一昨年から係りにはなっているが、学生との年齢差が大きすぎるという問題もあるので、今年から年齢の若い循環器科の先生にシフトしていく予定だ。

 

 

 

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胸部大動脈瘤

2019年07月17日 | Weblog

 先々週、91歳女性が動けない、食べられないということで救急搬入された。昨年春に心不全で循環器科に、秋に肺炎で内科に入院していた。

 付いてきたのは男の孫で、患者さんとその孫と孫の子供が同居していた。介護のためというよりは、孫が祖母の家を住所として使っているようだ。介護はできていない。

 造影CTで計5cm以上の胸部大動脈瘤を認めた。炎症反応・BNPの上昇があり、救急当番の外科医が循環器科を呼んでいた。左肺背側に無気肺像と胸水貯留があるが、濃度としては血液ではないので、破裂ではないと判断された。心不全の悪化ともいえないので、循環器科としては引き受けがたいらしい。

 その後に内科が呼ばれた。左背側の陰影は肺炎とも言い難い。尿混濁はあるが、急性腎盂腎炎と断定できない。肺炎・尿路感染症の疑い(感染性動脈瘤の可能性もあり)として抗菌薬で経過をみるしかない状態だった。

 孫には、胸部大動脈瘤が破裂した時は急変(突然死)すると伝えた。入院して点滴・抗菌薬投与で経過をみると、炎症反応は改善してきた。ただしD-ダイマー20前後は横ばいだった。動脈瘤壁に厚い血栓が付着している。

 食事摂取(嚥下調整食)もできるようになったが、リハビリをしても介助で車いす移乗ができるかどうかだった。食事の時以外はほとんど寝ている。

 昨年秋に肺炎で入院した時のCTで胸部大動脈瘤とは読影されていない。今見るとちょっと兆しがあるが、ここ半年で出来上がったものだ。少しずつ調子が良くなったところで破裂というのは避けたいが。(左が今回で右が昨年秋)

 

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上行結腸憩室炎

2019年07月16日 | Weblog

 日曜日に上行結腸憩室炎で入院した看護師さんは、入院時の微熱が平熱となって、腹痛も入院時よりは軽減したようだ。腹部触診でも圧痛の程度が軽減している。食事しなくてもいいとは言っていたが、今日の昼から流動食を開始した。

 先週の水曜日から右傍臍部痛が始まって、翌日の木曜日にはいったん症状が軽減したが、金曜日からまた症状がぶり返した。受診時には、歩行しても響くようで、少し腰をかがめる感じで歩いていた。右傍臍部から下腹部にかけて圧痛があり、反跳痛あり・筋生防御(デファンス)はなしという所見だった。

 5年前にも全く同じ上行結腸憩室炎で入院していた。CTの画像も全く同様だった。この時は抗菌薬をセフェム系で開始して、腹痛・炎症反応が入院後悪化して、カルバペネムに変更していた。日数の問題だった可能性も否定はできないが、経過としては抗菌薬変更後に症状軽快している。

 通常ならばABPC/SBTあるいはCMZで開始して経過をみるところだが、前回のことがあり、今回は最初からカルバペネムで開始した。最近は腹腔内感染症でのCMZの嫌気性カバーが不十分になっているらしい。選択としてはPIPC/TAZでもいいが、前回の入院で使用して軽快治癒に至ったという縁起をかついで(?)、カルバペネム(イミペネム4回/日)にした。

 抗菌薬適正使用から外れているようだが、青木眞先生も、「患者さんが医療関係者の時は、カルバペネム使用は許される?(ファイザーの若手医師セミナーでの雑談)」と言っていたので、ここはそれでいかせてもらう。

 

  結腸憩室炎は、要するに憩室壁の小穿孔による限局性腹膜炎ということだ。これまで経験した結腸憩室炎は、腹腔内(少量の)遊離ガスを認めた症例も含めて、幸いに抗菌薬投与で保存的に治っている。

 

 

 

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頻拍発作だった

2019年07月15日 | Weblog

 昨日の日直の時に、83歳女性が1週間前から身体がだるくて風邪をひいている、という訴えで救急外来を受診した。通院している内科医院で何度か点滴をしてその都度良くなっている?という。連れてきた息子さんは、(症状は)気持ちの問題だ、と言い切っていた。

 診察すると、頻脈だった。すぐに心電図をとると発作性上室性頻拍になっていた。症状を訊くと、風邪と表現しているが、上気道症状はなにもなかった。動悸は訊いてもないというが、胸苦しさは自覚していて、軽快~悪化を繰り返している。それを表現したのが、「風邪をひいて調子が悪い(悪くなったり良くなったりする)」だった。短時間の頻拍発作を繰り返していたようだ。

 心電図モニターをつけて、治療しようとしたが、自然に洞調律+上室性収縮になった。その後、一時的に頻脈性心房細動になって、また洞調律に戻った。正常洞調律の心電図を見ると、WPW症候群?。入院で経過をみて、連休明けに心エコー検査(検査技師さん)を行って、循環器科に相談する。

 昨日は、87歳男性の肺炎、58歳の当院看護師さんの上行結腸憩室炎、肺炎疑いの(画像の所見に乏しく他の疾患の可能性もある)88歳女性も入院した。

 

 土曜日は内科の若い先生(地域医療研修の内科専攻医)が日直だったが、当院内科の入院はなかった。決して楽な日直ではなく、忙しくて、外科系の先生が内科の分を手伝う時もあったくらい忙しかったようだ。

 総胆管結石・急性胆管炎、発症3時間後の脳梗塞、大腸憩室出血疑い(抗血小板薬2剤内服DAPT)の3名を、地域の基幹病院に救急搬送していた。ベット事情が厳しい病院で、よく3例も引き受けてくれたものだ。(急性胆管炎の患者さんは胃切除術後で、内視鏡治療はさらに高次病院に送らないと対処できないはずだが)

 

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大腸癌・肝転移

2019年07月14日 | Weblog

 今日は内科日直で病院出ている。内科入院は日直に段階では4名だった。

 50歳代半ばの男性が心窩部痛で救急搬入された。一昨日の夜から上腹部の膨満感があり、2分くらいの心窩部痛が断続的に続いているという。

 心窩部に軽度に圧痛を認めたが、まず心電図を検査した。特に虚血性変化はなく異常なしだった。腹部エコーで胆嚢結石・胆嚢壁肥厚などはなく、胆道系の拡張もなかった。肝臓内に腫瘤が多発していた。腸管の拡張もあった。

 腹部単純X線で、部分的にニボーを認める。腹部手術の既往歴はない。特に医療機関に通院はしていないが、健診で便潜血検査で異常を指摘されていたが、受診はしていないという。血液検査の結果をみて、造影CTで診断が決めることにした。

 造影CTの結果は、肝臓内に腫瘤が多発して、肝転移と判断された。横行結腸に腫瘤による狭窄を認めて、上行結腸~小腸が拡張して消化液が貯留している。画像診断は大腸癌・多発性肝転移(・腸閉塞状態)になる。

 外科の当番の先生が院内にいたので、相談した。他の病院に相談しますかと訊くと、患者さんがよければ当院で対応しますということだった。

 

 

 当直帯に入ってすぐに、当直の外科医から、循環器科に通院している90歳代の男性が脱水症・腎不全で入院にしたいと連絡があった(循環器科はオンコールなし)。内科で入院して経過をみることになった。これで5名。

 

 

 

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非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)

2019年07月13日 | Weblog

 火曜日に医師会の講演会があり、「非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)」についてだった。年に1回くらい回ってくる座長を頼まれていたので、講演会30分前には会場に着いて講師を待った。

 「NASH・NAFLDの診療ガイド2015」日本肝臓学会を持っているが、内科学会雑誌105巻1号(2016年)の特集が「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の臨床的意義」でこちらが役に立つ。

 

 非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic liver disease:NAFLD ナッフルディー)は、肝硬変・肝細胞癌へと進展するリスクが高い非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH ナッシュ)と、そのリスクが低い非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver :NAFL ナッフル)からなる。

 国内には約1000~2000万人のNAFLD患者がいて、そのうち約10~20%がNASHと推定される(100~400万人!)。NAFLD自体も治療(体重減少・運動療法)とフォローは必要だが、その中からいかにNASHを拾い上げて、肝臓専門医に紹介するかが肝要だ。(NASHだけに絞っても全部肝臓専門医が診るのは無理だろう

 NAFLDは、組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め、他の肝疾患(アルコール性肝障害、ウイルス性肝炎、自己免疫性)を除外した病態になる。

 純アルコールで男性30g/日・女性20g/日以上の飲酒でアルコール性肝障害を発症するので、NAFLDの飲酒量はそれ未満となる。(アルコール20gは、日本酒1合、ビール中瓶1本、ウイスキーダブル1杯、ワイングラス2杯に相当) アルコール代謝能が低い日本人では、非アルコール性とするには、男子20g/日・女性10g/日未満がいいようだ。

 ウイルス性肝炎はHBs抗原・HCV抗体、自己免疫性は抗核抗体・抗ミトコンドリア抗体で確認するが、自己免疫性では必ずしも陽性にならない。

 NAFLDの発症機序は、従来は肝細胞への脂肪沈着と炎症・線維化が進展するステップを分けるtwo-hit theoryとされたが、現在は多因子が同時並行で関与するmultiple-parallel hit theoryに変わった。遺伝的素因としては、第22番染色体上のPNPLA3遺伝子の変異が明らかにされた。

 肝組織所見は、Matteoni分類によりなされ、Type1の単純性脂肪肝とType2の炎症を伴う脂肪肝(肝細胞風船様腫大や線維化はない)がNAFLで、Type3のType2に肝細胞の風船様腫大を伴った状態とType4の風船様腫大・肝線維化・炎症性細胞浸潤を伴う状態がHASHとされる。NALFDのうち、NAFLとNASHの鑑別には肝生検を要する(ゴールドスタンダード)が、全例に行うことはできない。

 NASH鑑別のスコアリングシステムとして、NAFIC scoreがある。NASH、ferritin、IRI、typeⅣ collagen7SでNAFIC。構成要素は、1)血清フェリチン値(1点:男性300ng/ml以上、女性200ng/ml以上)、2)空腹時インスリン値(IRI:immunoreative insulin)(1点:10μU/ml以上)、3Ⅳ型コラーゲン7S(2点:5ng/ml以上)で、4点では9割がNASHで、2点でも5割がNASH。

 肝線維化のスコアリングシステムとして、FIB4 indexがある。年齢XAST(IU/l)/(血小板数X√ALT(IU/l))で、1.45以上はstage3・4の高度線維化を検出できる。

 NAFLDでは他の慢性肝疾患(C型肝炎など)と比べて血小板の減少速度が遅く、血小板数20.0万未満ではstage3、15.0万未満では肝硬変に相当する。

 画像検査では20%の肝細胞に脂肪滴が沈着すると脂肪肝と診断できる。腹部エコーでは、肝実質の高輝度変化・肝腎コントラスト・肝内血管の不明瞭化・肝深部のエコー減弱で診断する。CTでは、肝臓と脾臓のCT値の比(Liver/spleen比0.9%未満)で診断される。MRIでは、T1強調画像out of phase低信号で診断できる。フィブロスキャンは肝線維化を評価できる。

 治療は、NAFLでは生活習慣改善(減量運動)、経過観察を行う(高血圧症・高コレステロール血症・糖尿病があれば治療)。NASHではそれに加えて、基礎疾患の治療を行う。高血圧症にはARB、高コレステロール血症にはスタチンかエゼチミブ、糖尿病にはピオグリタゾン。ピオグリタゾンは体重増加の副作用があり、SGLT2阻害薬GLP-1受容体作動薬が期待できるという(共催はルセフィを販売する大正製薬)。基礎疾患がなければビタミンE。

 

 

 

 

 

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肺血栓塞栓症

2019年07月12日 | Weblog

 昨日の当直は循環器科の若い先生だった。午後6時過ぎに、クリニックから肺血栓塞栓症疑いの64歳女性が紹介されていた。

 3月から息切れがあり、今日はそれがひどくなって咳が出ると訴えてクリニックを受診している。その経過であれば、ある程度慢性に経過してから悪化したのだろうか。胸部X線で肺野に明らかな異常を認めず、肺動脈の拡張が疑われることから、肺血栓塞栓症疑いとされていた。

 血圧127/69mmHg、脈拍100/分、酸素飽和度93%(室内気)と案外バイタルは保たれていた。よくそのくらいで済んだものだ。

 心電図で教科書的な所見を認めた。右軸偏位(R/S>1、aVF R/S<1)、右室肥大(RV1>8mm、R/SV1>1、R/SV6<1)、不完全右脚ブロック、SⅠQⅢ(Ⅰ誘導の深いS波、Ⅲ誘導のQ波)、(Ⅱ)・Ⅲ・aVF・V1-5の陰性T波を認める。

 心電図の自動解析が自信を持って(?)「右心系に負荷がかかっている可能性があります。原因の究明をおすすめします。」と表示するほどだった。あった。なかなかここまで典型的な心電図はないので、記念にとっておきたい。

 造影CTでは右肺動脈に巨大な血栓があり、左右肺動脈末梢にも塞栓像がある。膝窩静脈に血栓を認めて、深部静脈血栓症からの肺血栓塞栓症と診断された。イグザレルト30mg/日で治療が開始されていた。

 

 

 紹介したのは以前当院の循環器科にいた先生だった。いったん循環器科不在となり、昨年からまた循環器科が復活したが、マンパワーの問題で時間外の対応はできない。

 今週医師会講演会で会った時に、「循環器科に時間外も対応してほしい」と言われた。その先生がいた時も、時間外はよほどタイミングがいい時しか対応してなかったが。(循環器科医が当直で、もうひとりもまだ院内にいた、あるいは呼び戻せた時など)

 

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