湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

舞台裏も天国と地獄

2010-06-03 17:54:41 | 湘南ライナーで読む


黒澤明監督『天国と地獄』については、DVDを観たときに書いたことがある。
昭和38年の作品だが、いま観ても物凄い緊張感とともにグイグイ引き込まれてしまう。その映画の製作過程やエピソードなどに詳しい本を読んだ。
『黒澤明と「天国と地獄」ドキュメント・憤怒のサスペンス』(都築政昭著 朝日ソノラマ刊 1700円+税)である。
膨大な資料と写真、役者や関係者へのインタビューから構成されていて、こちらも映画同様グイグイ引き込まれてしまう。
監督自身もかなり入れ込んだ作品だったらしく、たくさんのエピソードが生まれ、読み手としては楽しい。もっとも演じ手や作り手にしてみたら、たいへんなことばかりだったということなのだが(笑)。
さらに、「あの家が邪魔だからどけろ」と言ったとか、川の汚れ具合が足りないといって怒って帰ってしまったとか…これまでにもよく語られている黒沢監督のびっくりするようなエピソードの真偽やその背景なども解説されていて興味深い。

『天国と地獄』は、珍しくほぼ時系列に沿って製作された映画だという。本のほうもそのストーリー展開と共に進んでいくので次第に一体感が生まれてくる。いつの間にか現場の片隅で、固唾を飲んで見つめているような気にさえなってくるのだ。
たとえば、ハイライトともいえる酒匂川での身代金受け渡しの場面。映画を観てドキドキハラハラし、この本に書かれている舞台裏の様子でまたドキドキハラハラ。気がついたら、自分もこだま号に乗り合わせてしまっている。「カーット!」の声と共に、「は~」と肩の力が抜けていく感じ(笑)。
『天国と地獄』という映画の面白さ、すばらしさ。そしてその映画づくりの面白さ、すばらしさまでを教えてくれる素敵な本だった。

それにしても図書館で借りたこの本、折り目がついていたり、シミがあったり、バラバラになりそうになっていたりで、さすがに古いんだろうなと思っていのだが、2002年初版。映画の公開から40年近く経ってから書かれた割と最近のものだった。監督は亡くなられているものの、多くの関係者のみなさんがご存命だったことが何より。だからこそ生の声で語られ、臨場感があふれているのだろう。

改めてDVDを観るのが楽しみである。