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初めて暖簾をくぐったその店、表には真っ赤な『おでん』の提灯がぶらさがっている。
カウンターと小上がりだけだが、小綺麗で新しい印象。
そのまだ白いカウンター席に腰をおろし、ランチの『おでん』を頼む。
すると、大きめのお椀に具だくさんの豚汁がお父さんから手渡された。
すぐさま、お母さんが指差して言う。
「2つ選んで」
カウンターの上に様々な料理が盛られた小鉢が、ぎっしりと並んでいた。
なんだか嬉しいじゃありませんか。しかも、どれを見てもうまそう。迷いながら、おでんとかぶらないよう『ひじき』と『かぼちゃの煮付け』をピックアップ。
「どれ?」
今度は、おでんのあの四角い鍋の前でお父さんが菜箸を手にしている。
お年を召したご夫婦のこの流れるようなパスワークに、すっかり翻弄されてしまった。
「い・いくつですか?」
「4つ」
「じゃあ…、あっ、でもそのロールキャベツもいいの?」
「いいよ」
だって、女性の握りこぶしぐらいありますよ。卵の大きさと比較してみてくださいな。これも“1個”だというから驚いた。
おやおや、ウインナーもスーパーで売ってるやつの二倍の長さで汁の中から現れた(笑)。
竹輪は「おぉ、いい色になってる」と、鍋の底から探し出してくれた。これも、ぶっといぞ。
見た目と違って味が濃いわけではないので、おいしくいただける。
ちょっと待て。思わず箸をつけちゃったけど、ご飯がないじゃん。
いや、このボリュームで、さらにご飯はないか。これだけだって多すぎるくらいだし、おでんランチは、ご飯なしなのかも。でも、勇気を出して聞いてみた。
「あらごめんなさい、この人ったら自分のビールは注いでるのに、ご飯忘れちゃって~」
店内が笑いに包まれる。
華麗なるパスワークが、ほころびた瞬間だ。
「じゃあ、特別おいしいご飯ね」
と、よく見ると赤ら顔のお父さんが丼飯を運んでくれた。その真っ白なご飯は、故郷の宮崎から送ってもらっているのだそうだ。
こんなボリュームたっぷりのランチが、なんと800円ポッキリ!
お父さん、お母さん、世間の相場っちゅーものがおわかりですか?
会社に戻ってネットで調べてみたら、どうやら最近まで屋台をやってたらしい。そうか、このお値段、この親しみやすさは、それでか。
あまり教えたくないけど、本郷大横丁通りの加藤薬局の脇を入ってスグ『おくちゃん』というお店ですよ。