来日以来、その指導力と言動の面白さが注目され続けているジェフユナイテッド市原・千葉の
イビチャ・オシム監督。
試合後の記者会見時の報道陣とのやりとりが楽しいので、翌日のスポーツ新聞は見逃せない。チームのホームページにも「語録」のコーナーがあるほどだ。
そのオシム監督の語録を中心に据えた『オシムの言葉』(木村元彦著/集英社)は、サッカーファンならずとも楽しめる一冊。
表現の面白さは誰にも真似のできないものだが、その根底にはスポーツマンシップが、分け隔てなく人と接する、互いを敬う精神があるように感じる。
夕方、小学校のグラウンドの端っこでのこと。
ボールなどが敷地外へ飛び出さないように張ってある高いネットに向かって、トスバッティングの練習をしている大人二人がいた。
ここでいつも練習している大人のソフトボールチームのメンバーのようだった。
夢中でバッシバシ打ち込んでいる。
いくらなんでも一言申さねばと、でも優~しくですよ、ネットの外側から声をかけた。
「このネットに打ち込んじゃマズイですよ」
「は~?」
「これは、そういう練習用のネットじゃないですよね」
50代位のおじさんは、わかったふうですぐにボールを片付け始めたが、バットを振っていた若い方の男が食いついてきた。
説明するほどのものではないだろうに、しょうがないので解説。
「ネットを破ってあんたのクルマに当たるかもしれないからイヤなんでしょ。あ~わかったわかった、わかりました、あっちのほうでやればいいんでしょ」
「そうじゃなくって、小学生のチームだって専用のネット使って練習しているじゃないですか、ありますよね、そういうネットが」
「あるよ、だから何?そんなことおまえに言われる筋合いはねーんだよ」
逆切れですか。
ムカッ、日ごろ超がつくほど温厚な僕もさすがに熱くなった。
ネットを挟んで、かなりデカイ声でやり合ってしまったよ。怒りでブルブル震えてくるのが自分でもよくわかった。
ところが、あちらは「バカ」だのなんだのって、もう話にならなくなった。
悲しいね、本当にスポーツマンなのかね。
ここで、買い物にでかけようと出てきた妻が間に入った。途中からだったので、内容がよくわからなかったのだが、いつもと違う夫の様子に驚いたのだろう。
「わかりました、このことは学校に私が伝えておきます」
何者?私が伝えておくって…いやいや甘く見ちゃいけない、この人、最近、市のスポーツ協会関係でメチャクチャ顔がきくのだったよ。
「あぁ、好きにしろ、このバカおんな!」
おーっと、こりゃスイッチが入るぞ。
「あなたにはスポーツをやる資格がない!」
地の底を揺るがすような大きな声で一喝!
さすがに年長者のほうが、もう勝ち目がないと踏んだようで、若いのを引っ張りつつ暗くなり始めたグラウンドを去っていった。
よく考えたら、僕と彼らの間には高いネットがあったからいいようなものの、なかったらバットでやられてたかもね。ブルブル。
常識で考えればわかる話を、常識が通用しない人にしても意味がなかったということだね。
『オシムの言葉』を読んでも、その面白さは理解できまい。