錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『赤穂浪士』と『忠臣蔵』(その二)

2008-04-18 17:53:17 | 赤穂浪士・忠臣蔵
 オールスター映画でタイトルが『赤穂浪士』となっている二本は、どちらも大佛次郎の原作を下敷きにした作品で、五周年記念作の脚本は新藤兼人、十周年記念作の脚本はベテラン小国英雄である。
 『忠臣蔵』と題している1本は、もちろん浄瑠璃や歌舞伎の『忠臣蔵』(仮名手本忠臣蔵)ではなく、いわゆる「実録忠臣蔵」で、これは「赤穂義士伝」として講談や浪曲などで語られてきたストーリーをもとに戦前何度も映画化されてきた作品群の流れにあるもの。東映の脚本家では親玉格の比佐芳武が新たな解釈を加え、シナリオを書いている。監督は、三作品とも東映の首席監督・松田定次である。

 大佛次郎の小説には、登場人物として、ニヒルな浪人堀田隼人や盗賊蜘蛛の陣十郎や女間者お仙などが出て来る。彼らは大佛次郎が創作した人物である。それと、上杉家の家老千坂兵部、その家来小林平七、赤穂浪士では脱落者の小山田庄左衛門を大きく取り上げ、赤穂四十七士の討入りまでの経緯をさまざまな人物の視点から複眼的に描いているのが特長である。 
 大佛次郎の『赤穂浪士』と言うと、まるで堀田隼人がヒーローように紹介されることが多いが、原作は決してこの人物に特にスポットを当てて書いてあるわけではない。確かに小説の前半では印象的な登場人物であるが、後半はあまり登場しない。NHKの大河ドラマ『赤穂浪士』(1964年)で、林与一が演じた堀田隼人の評判が良かったので、その影響かもしれない。私もこのドラマを毎週欠かさず見ていた覚えがあるが、もう昔のことなのでほとんど忘れてしまった。しかし、このドラマで大ブレークした林与一の颯爽とした美男ぶりとのっそりとした長谷川一夫の大石内蔵助だけは強く印象に残っている。吉良上野介が滝沢修で、蜘蛛の陣十郎が宇野重吉だったことも覚えている。テレビの『赤穂浪士』は、NHKの第二回の大河ドラマで、東京オリンピックのあった年に放送され、毎週高い視聴率を取っていた。最後の討入りの放送日は50パーセント以上の記録的な視聴率だったそうだ。聞くところによると、浅野内匠頭の配役候補には、錦之助が上がったそうである。ほかに市川雷蔵、大川橋蔵も候補になったそうだが、どれも実現せず、結局内匠頭役は歌舞伎役者の尾上梅幸(七代目)になったという。

 さて、私は一ヶ月前くらいから大佛次郎の『赤穂浪士』を読み始め、最近ようやく読了したところである。なにしろ文庫本上下2巻(角川文庫)で1000ページを越える大作であり、老眼で眼精疲労のせいもあって読み進めるのに苦労した。しかし、小説の内容は深くて非常に興味深かった。大佛次郎は、若くして『鞍馬天狗』を書き大衆時代小説の売れっ子になった作家だが、『赤穂浪士』は1927年(昭和2年)から翌年にかけて書いた新聞連載小説である。文章の格調、作者独特の解釈、人物の心理描写は、純文学に近く、今読んでもまったく古さを感じない。しかも壮大な人間ドラマである。登場人物が多い上に、それぞれの赤穂事件に対する立場や態度が、描き込まれている。作者がとても30歳だったとは思えないほどの力作だった。(つづく)




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