錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『赤穂浪士』と『忠臣蔵』(その七)

2008-04-30 19:36:42 | 赤穂浪士・忠臣蔵
 錦之助の小山田庄左衛門が初登場するのは、前半(天の巻)の半ばすぎ、大石内蔵助が招集した赤穂城での評議の場面である。大広間に裃姿で居並ぶ数十人の赤穂家臣の中で、錦之助はひと際目立った登場の仕方をする。ここはぜひ注目したい。錦之助にとって、オールスター映画初お目見え、それに初のカラー映画出演だからである。(もちろん、これは多くの東映俳優にとって、そうだった。東映のカラー映画は、1953年11月公開の『日輪』以来、約二年ぶり。錦之助は、自分の顔がどんな肌合いに映るか非常に心配したと語っているが、これは杞憂で、まったく問題なし。)
 内蔵助(右太衛門)の事情報告が終わり、家臣の方へカメラが右から左へパンすると、錦之助のところでぴたりと止まる。カメラはさらに寄って、膝に両手を置き正座している錦之助のバストショット。月代(さかやき)から額のあたりがまぶしく、目元くっきり、紅い唇をきりりと結んだ、若くて凛々しい錦之助である。厳しくて真剣な表情をしている。籠城なんてもってのほかと大石に反論する弱腰な家老(大野九郎兵衛=香川良介)に対し、錦之助の小山田が言い寄る。「しからば、謹慎のほかに道はないと仰せられるのか!」今度は立ち上がって、「大野殿、いかに!」みたいなセリフ。小山田は若いだけあって血気にはやる急進派である。だが、凛々しい武士姿の錦之助の出番はこれでおしまい。
 
 後半(地の巻)になると、錦之助の小山田は、江戸で町人に成りすまし、菓子の行商をしながら吉良邸の動向を探っている。なぜ菓子なんかを売っているんだろうと思うが、多分錦之助の甘い顔立ちに引っ掛けたのかもしれない。仮の名を近江屋伝吉といい、歌舞伎の世話物に出てくる優(やさ)男といった感じだ。荷物を薄茶色の風呂敷に包んで背負い、両手で胸の前の結び目を押さえている。若い錦之助の着流し姿が見られるわけだが、堅気の町人なので襟元はきちんとそろえ、裾も乱れないような着こなしである。荷物を担いでいない姿は、まだ二十三歳の錦之助、少年のようにスレンダーだ。肩の肉もついていないし、お尻も小さい。まあ、これはさほど重要ではない。ある日、同じ長屋に住む貧乏浪人とその美しい娘の窮状を知り、親切心から彼らの未納の家賃を払ってやる。ここから錦之助と田代百合子のラブストーリーが始まる。こっちの方がずっと重要だ。とくに当時の若い女性ファンは、一体どうなるのかと気を揉んだことだろう。
 この頃の東映時代劇のラブシーンや濡れ場はさりげないものばかり。抱き締め合うか、せいぜい手を握り合うか、顔と顔が接近しても途中でカットといったシーンがほとんどである。
 この映画の中で錦之助と田代百合子は二度抱き合う。一度目は田代がイモリを恐がって、錦之助に抱きつく。二度目は、田代に遮られて討入りに行けなくなった錦之助が泣きながら田代を抱きかかえているシーンで、これは挿入カット。この頃の錦之助はまだ痩せていてひ弱な感じがあり、一方、田代百合子はむっちりして重量感があるので、お似合いと言えばお似合いだが、一歳年上の田代百合子のパワーに錦之助が負けているような印象を受ける。
 二人で、貸家を見学にいくシーンがほほえましい。これから同棲する若い男女がいそいそとアパートを借りに行く感じである。二階家だし、病気がちな浪人の父親は、一階に寝かせておけばよい。
 二人を貸家に案内し、締め切った雨戸を開けるのが赤木春恵。二人を気遣って、二階へは上がってこない。二階の窓際から外を眺め、錦之助がこう言う。
「ああ、これは涼しい。ここに決めましょう!」
 早いになんの、即決である。嬉しそうな表情の田代百合子。
 これから、ちょっとしたラブシーンが展開されるが、これは見てのお楽しみ。ただし、この時は一種の予行練習だと言っておこう。錦之助に抱きついた田代百合子が、すぐに離れて、
「はしたない真似、お許しください。」
 それに対し、「いやー、別にー」と言った錦之助のセリフが現代調で面白かった。

 錦之助が吉良邸に菓子を売りに来て、付き人たちに監禁され、拷問されるシーンはちょっとハラハラする。首謀格が目つきの恐い清川荘司で、錦之助に飲んでいたお茶をぶっかけることから始まって、弓か鞭のような細い棒で、錦之助を何度も打ちつける。顔面に一発打つと、錦之助の額から血が流れる。
 その後、場面が変わって、田代百合子が怪我して寝ている錦之助を看病するシーン。田代百合子が錦之助を看病する場面は、『新選組鬼隊長』にもあった。この時、錦之助は労咳病みの沖田総司で、田代はその恋人役だった。
 女が男を看病するというのは、女の側から言うと、母性本能を刺激するし、また男を自分のものにしているといった安心感と、男に尽くしているといった幸福感を覚えるようだ。まあ、これも一種のラブシーンで、この映画の見どころだと言えるだろう。錦之助の話によると、この時、セットの家で天井のない高いところを照明の人たちが重いライトを持って動き回っている。それが目に付き、下で寝ていて落ちてこないかと心配でならなかったそうだ。(つづく)




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2 コメント

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「赤穂浪士」 (hana♪)
2008-05-08 23:11:11
五周年記念「赤穂浪士」をやっと鑑賞しました。


庄左衛門とさちの借家でのシーンを観て、
庄左衛門の美しい顔のアップに見惚れてしまい、
いつしか自分がさちになっていました^^
正しくあれは錦之助ファンに対するボーナスカット
ですね。
いや~、嬉しかったです^^


背寒さんの書かれているように、作品自体、右太衛門の大石もよかったですし、大石主税役の方も
さわやかで印象に残りました。


立花左近との対決シーンも、私は面白かったですね。
あの時の大石役を錦之助がやったら、
どう演じるんだろうと想像するだけで楽しめました。


実は、錦之助が演じる大石を観たのは「赤穂城断絶」だけです。


彼が演じる大石役を期待に胸膨らませ観たのですが、全く彼が生かされていなくて、あの映画には
正直ガッカリしてしまいました。
あれなら、高倉健が演じた大石の方が印象に残るほどです。。。


また背寒さんから観た最高の大石を演じた役者についても記事にしていただけたらと思います。。。。
リクエストしちゃいました^^


先日のコメントで、「武士道~」の映画に触れ
”寝ていないのにウナサレル”には
大笑いさせていただきました^^
ありがとうございます。







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Unknown (たんぽぽ)
2010-05-05 19:17:55
割り込んで失礼、わたしが一押しの大石役はやっぱり、片岡御大。そして長谷川一夫もいいなぁ。東さんの浅野役知らない人多いですよね。
以下の対談も興味深いですよ。

http://park16.wakwak.com/~kinnosuke/page1/talk/talk1956/talk002.html
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