これから数回にわたり、映画の「忠臣蔵」について書いていきたいと思う。一大決心であるが、どうなることやら? 錦之助が出演した映画が話題の中心になると思う。オールスター映画三本である。それと、錦之助が萬屋錦之介となり東映に復帰して大石内蔵助を演じた『赤穂城断絶』についても触れることになるだろう。ただし、あらかじめ断っておくが、私の書く記事は寄り道が多い。蛇足のような部分があったら、錦之助ファンの方は読み飛ばしていただきたい。
まず、東映のオールスター映画『赤穂浪士』と『忠臣蔵』について概略を述べておこう。
東映作品の『赤穂浪士』は二本ある。1956年(昭和31年)1月公開の『赤穂浪士』(天の巻、地の巻)と、1961年(昭和36年)3月公開の『赤穂浪士』である。前者は、「東映創立五周年記念作品」として製作された東映オールスター映画第一作で、「忠臣蔵」映画では本邦初の総天然色(イーストマン・カラー)。社長大川博の総指揮の下に、プロデューサーのマキノ光雄が中心となり、東映が総力をあげて製作した超大作である。主役の大石内蔵助は市川右太衛門で、錦之助は赤穂浪士で討入りの直前に落伍した小山田庄左衛門をやっている。後者は、その5年後に製作されたオールスター映画で、こちらは「東映創立十周年記念」だった。大石内蔵助は片岡千恵蔵で、錦之助は脇坂淡路守をやっている。この二本の『赤穂浪士』で吉良上野介に扮したのは月形龍之介である。浅野内匠頭は、前者が東千代之介、後者が大川橋蔵だった。(以後記述上区別するため、前者を五周年記念作、後者を十周年記念作と呼ぶことにしたい。)
年代順に言うと、この二本の間にもう一本、オールスター映画として製作されたのが、『忠臣蔵』(櫻花の巻、菊花の巻)である。これは1959年(昭和34年)1月公開、「東映発展感謝記念 主演片岡千恵蔵」と銘打った総天然色シネマスコープ(東映スコープ)作品。(ただし、総天然色シネスコによる「忠臣蔵」は、松竹と大映に先を越されている。松竹のオールスター映画『大忠臣蔵』は、1957年8月公開、大映のオールスター映画『忠臣蔵』は、1958年4月公開。)東映のこの『忠臣蔵』で、錦之助は浅野内匠頭をやっている。大石内蔵助は片岡千恵蔵、吉良上野介は月形ではなく進藤英太郎。
ざっとこんなところだが、「忠臣蔵」映画として最高傑作だと思うのは、五周年記念作である。錦之助の役柄で言えば、いちばん錦之助らしいと感じるのは十周年記念作の脇坂淡路守で、この役は彼の明るさ、奔放さ、力強さがよく出ていた。五周年記念作の小山田庄左衛門は、後年錦之助が演じた『怪談千鳥ヶ淵』の美之助や『浪花の恋の物語』の忠兵衛につながるステップとなった。その意味では重要な役であった。どれも町人の役で、惚れた女にずぶずぶのめり込む優男(やさおとこ)タイプであるが、こういう役柄はどうもウジウジしていて好きになれないと感じるファンもいるかもしれない。私もどちらかと言うとウエットな役の錦之助よりもドライな錦之助の方が好きだ。まあ、これはわがままなファン心理というもので、錦之助はどんな役をやらせても、それに成りきってしまう天才役者であることに変わりない。五周年記念作が製作されたのは昭和30年の終わりだが、この時錦之助は23歳、映画デビューして二年ほど経ち、もうすでにどんな役でも見事にこなせるだけの素質を開花し始めていた。小山田庄左衛門はこの映画の後半ではメインになる役であり、この頃の錦之助にはうってつけの役だったと思う。討ち入りに参加する浪士の一人の役をやるより、こっちの方が引き立って良かったと言えるかもしれない。五周年記念作は、浅野内匠頭が東千代之介、大石主税が伏見扇太郎、そして小山田が錦之助で、前半、中盤、後半とこの若手人気スター三人がうまく配置されていたと思う。
『忠臣蔵』での錦之助の浅野内匠頭は、名演である。私の知る限り、最高の内匠頭である。映画の中で、右太衛門の脇坂淡路守が、内匠頭の死を惜しみ、名君として花開く前に散らせてしまった慨嘆する場面があるが、錦之助の内匠頭はそれにぴったりだったと思う。錦之助も実に良く工夫して、この未完成な名君を表現していた。「未完成」というところがポイントなのである。『忠臣蔵』が作られたのは、昭和34年の初めであるが、その前年、錦之助は『一心太助』シリーズを二本撮り、名君・徳川家光をすでに演じている。錦之助のお殿様を私が大好きなことはすでにあちこちで書いているが、品の良さ、情愛の深さが堪らなく良い。家光では、名君の余裕、貫禄すら感じる。それが、浅野内匠頭では、この余裕、貫禄を消して、品格と情愛だけで錦之助は勝負している。未完成な名君の頼りなさ、線の細さを表現している。そこが錦之助の工夫で、うまいなーと私が感心するところである。ただし、こうしたことは今この映画を観て私が感じることで、五十年前封切りで観た時には、ただただ錦之助の内匠頭に魅入って、小さな胸をかきむしられる思いだった。この時の感動は忘れない。私にとって生まれて初めての「忠臣蔵」映画だった。(つづく)
お疲れ様です。
私はこの「忠臣蔵(櫻花の巻、菊花の巻)」は、観たのですが、この時の浅野内匠頭を思い浮かべるだけで胸が詰まります。
>品格と情愛だけで錦之助は勝負している。未完成な名君の頼りなさ、線の細さを表現している。
そこが錦之助の工夫で、うまいなーと私が感心するところである。
全く背寒さんのおっしゃる通りで、その分析力に唸ってしまいました。
品があって、はかなくて、最期の場面に臨んでいく姿の痛々しさ、また、あの廊下での冷たくて透き通るような空気のなか、家臣に向けて眼で語るところがなんとも言えず胸に迫りました。
何度観ても涙が出ます。
泣きながら、このシーンを繰り返して、観てました^^;
どうぞ、お疲れの出ないようなペースで、記事アップなさってくださいね。
すみません。
労わってるんだか催促してるんだか。。。(汗
私はどっちかと言うと、嬉し泣きするタイプみたいで、錦之助の映画ではペーソスのある喜劇やハッピーエンドで涙が流れます。
「冷飯」なんかを観ると、いつも途中から涙が滲み出し、最後はポロポロ流れています。
最近は、元気で明るい頃の生き生きとしている錦之助を観ると、思わす感動して目頭が熱くなることが多くなりました。
ところで、いつも励ましていただき、ありがとう。いろんな錦ちゃんファンから、プレッシャーをかけられている今日この頃ですが、頑張ります。
http://www.raizofan.net/link11/link112.htm