錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『赤穂浪士』と『忠臣蔵』(その四)

2008-04-22 16:12:51 | 赤穂浪士・忠臣蔵
 五周年記念作の『赤穂浪士』は、松田定次監督をはじめスタッフ全員が入念に準備し総力を挙げて作った映画だけあって、その成果が見事に現れていた。まず、脚本が良く練れていて、ストーリー展開、場面構成が鮮やか。セリフも簡潔明瞭で登場人物の性格がうまく表されていた。また、スピード感あふれる細かいカット割りは松田定次監督の特長であるが、川崎新太郎(撮影担当)の規範的なフレームと緩急自在なカメラワークがマッチして、この長時間に及ぶ映画を見飽きないものにしていた。私はこの映画にまったくたるみを感じなかった。
 豪華なセットと衣裳の色彩も申し分ない出来ばえで、深井史郎の音楽も荘重で良かった。彼の音楽は、画面に寄り添うように、あるいは画面に忍び込むように入ってくるので、音楽に気づいた時には映像とともに相乗効果を上げていて、観る者の感情がぐらぐらと揺さぶられている。これがホンモノの映画音楽であろう。
 
 さらに、この映画を傑作にした何よりもの要因は、オールスターの配役が奇跡的なほど適材適所で、誰もが熱演していたことである。
 市川右太衛門の大石内蔵助は、千恵蔵の陰気で力んでばかりいる内蔵助よりずっと良く、あだ名だった昼行灯(あんどん)らしさを髣髴とさせる。右太衛門のこの内蔵助は一世一代の名演だったと思う。内蔵助の肝の据わった大人(たいじん)ぶりを右太衛門は十二分に表現していた。(右太衛門は、この作品で京都市民映画祭の主演男優賞を受けた。監督賞は松田定次だった。)
 月形龍之介の吉良上野介は、気品といい貫禄といい最高で、単なる憎まれ役を超越し、足利氏以来の名門の高家筆頭とはかくあるべしといった存在感であった。あたりを威圧し、近寄りがたさすら感じる。歴代の上野介役者の中で月形がダントツに良いと言われるのも、うべなるかな。「この世の中は金じゃ。金、金、金、……」この「金」という言葉を何度口にしたことだろう。耳について離れない。
 浅野内匠頭の東千代之介も良かった。良かったというのは役柄に合っていたということだ。いかにもぽっと出のお坊ちゃん大名らしい。政界の裏表も知らず、自分の狭い信条にこだわって、指南役の吉良上野介への付け届けをないがしろにした。吉良上野介に礼儀知らずと思われ、無視されるのも当然であろう。内匠頭が必死になって教えを請えば請うほど、上野介から馬鹿にされる。千代之介の内匠頭は、そのあたりの鈍感さと、いざとなってからの慌てぶりが良く表されていた。千代之介は、この大役を汗だくになって必死で演じたと語っているが、それが内匠頭の切羽詰った心境とぴったり一致し、画面からにじみ出ていた。私は時々思うのだが、錦之助の浅野内匠頭より千代之介の方が内匠頭らしいのではないだろうか。錦之助の内匠頭は、未完成な名君を工夫して演じていたとはいえ、それでも立派すぎるかもしれない。あれだけ家来たちのことを思っている内匠頭なら、最後まで我慢し続け、刃傷には及ばないのではないかと。もちろん、刃傷がなければ、「忠臣蔵」の話が始まらないわけであるが……。

 大友柳太朗の堀田隼人は、無表情で薄気味悪いところが良く、狂気が漂っていた。(大友は、十周年記念作でも同じ堀田隼人をやっているが、こちらは演技が支離滅裂で、ひどかった。)
 進藤英太郎の蜘蛛の陣十郎も適役。(次作『忠臣蔵』で、進藤の吉良上野介はどうも似合わなかった。)
 小杉勇の千坂兵部は、訥弁でいかにも東北の大藩(米沢15万石)の家老らしい。小杉勇は、戦前から現代劇の名優だったが、この頃は東映に在籍し、監督兼俳優をやっていた。宮城県石巻生まれで、あの独特の訛りは東北弁である。
 原健策の片岡源吾右衛門、薄田研二の堀部弥兵衛は、まさにはまり役。両者とも絶品である。切腹を前にした千代之介の内匠頭と原健策の片岡源吾の対面シーンは、錦之助と原健策の対面シーンと比べてみるのも一興であろう。私はどちらも好きである。薄田の堀部弥兵衛は、以後定番化し、『青年安兵衛・紅だすき素浪人』『忠臣蔵』十周年記念作『赤穂浪士』でも同じ役を演じ続ける。(正確には、昭和19年製作大映の『高田馬場前後』で扮した堀部弥兵衛が初役。これは私が観た戦前の松田定次監督作品の傑作の一本。薄田研二は、本名の高山徳右衛門で出演していた。)
 伏見扇太郎の大石主税も爽やかで良かった。扇ちゃんはこの頃まだ19歳だったという。彼の大石主税は、私の観たすべての主税の中で一番良かったと思っている。
 片岡千恵蔵の立花左近は、特別出演であるが、彼の大石内蔵助より私は好きだ。先日、マキノ雅弘と池田富保が監督した昭和13年製作の『忠臣蔵』を観た。千恵蔵は浅野内匠頭と立花左近の二役をやっていたが、とうも私はこの浅野内匠頭もうまいとは思えず、立花左近の方が良いと感じた。

 その他、オールスター映画なので俳優を挙げていくとキリがない。加賀邦男(小林平七)、宇佐美淳(柳沢吉保)、清川荘司(吉良家の付き人の一人で、錦之助を何度も鞭打つ憎っくき役)、河野秋武(目玉の金助)、三島雅夫(犬医者丸岡朴庵)が目立ったところか。
 女優陣では、高千穂ひづる(お仙)、田代百合子(さち)が良い役で好演。喜多川千鶴、千原しのぶ、浦里はるみは、役不足か。(喜多川千鶴には瑶泉院をやらせたかった。これは『悲恋 おかる勘平』で実現したが……。)それと内蔵助の妻りくを演じた三浦光子が、地味で良かった。(三浦光子は妖艶な悪女役が多いが、こういう武家の妻の役も落ち着いていて良い。りくの役は、木暮実千代も素晴らしいが、甲乙つけがたい。)
 ところで、大川橋蔵は、まだ東映に入ったばかりで出演していない。もちろん、東映城の二代目三人娘(丘さとみ、大川恵子、桜町弘子)も同様である。
 
 最後に、錦之助が演じた小山田庄左衛門を忘れてはならない。この役は、今思うと、この時代の東映では錦之助以外に出来る俳優はいなかったと思う。残念ながら、今回は長くなってしまったので、詳しくは次回に。(つづく)




最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
小山田庄左衛門。。。 (hana)
2008-04-24 00:14:50
背寒さん、こんばんは~♪


五周年記念作「赤穂浪士」はまだ観ていません。
と言うのも、小山田庄左衛門という人物を思うと、
どうも進んで作品を観る気にならなくて、今回、
背寒さんの解説がなかったら、おそらく観なかったと思います^^;

。。。何せ、新参者で最もミーハーな錦之介ファンですから^^

こうして、背寒さんの記事を拝読し、
小山田庄左衛門になりきったところも観てみたく
なりました。


でも観るとウナサレルかもぉ~(汗
「武士道残虐物語」鑑賞直後はなかなか立ち直れなかった。。。(滝汗



P.S.背寒さん

私のような作品も通して観ていない者の
お気軽コメントはどうぞお捨て置きください。

これからも「頑張る」とはおっしゃらずに
背寒さんのほどよいペースでお願いします。
失礼、お許しください。

またお伺いしまっす^^
返信する
いろんな錦之助を (背寒)
2008-04-30 11:54:10
忠臣蔵で言えば、錦之助の小山田も内匠頭も脇坂も、みんなイイですよ。年齢を重ね、錦之助がだんだん立派になっていく。ただ、映画作品としては、逆にレベルが下がっていく感じがします。

「武士道残酷物語」では、第三話だったかな、森雅之の変態の殿様と岸田今日子の奥方の印象がなんとも強烈で、私は寝ていなくてもウナサレル…。あの映画での一人五役は、錦之助でなければ絶対に出来ない!といつも感心し、すごいなーと思いながら観ています。

今後も、マイペースで書いていきますので、よろしく。
返信する

コメントを投稿