錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

中村錦之助伝~ひばりと雷蔵

2013-06-05 00:17:19 | 【錦之助伝】~スター誕生
 『満月狸ばやし』の撮影は、昭和29年10月上旬に行なわれた。ちょうどこの頃、美空ひばりは市川雷蔵との共演作『歌ごよみ お夏清十郎』(新芸プロ製作 新東宝配給)を京都下加茂撮影所で撮っていた。10月のある日、錦之助は自分の撮影がない日に、ひばりと雷蔵に会いに撮影所を訪問している。セットで二人と20分ほど話をして、その日は撮影が終ってからひばりの常宿で雷蔵たち何人かといっしょに夕食をとり、夜、みんなでどこへ遊びに行っている。(「錦」5号の日誌)
 『お夏清十郎』のひばりの相手役は初め中村扇雀だったが、雷蔵に代わったようだ。錦之助が雷蔵を推薦したのかもしれない。
 雷蔵はこの年(昭和29年)の夏に、大映から映画デビューしていた。『花の白虎隊』(8月25日公開 田坂勝彦監督)である。同じ作品で勝新太郎もデビューした。雷蔵も勝も白虎隊の青年で、雷蔵が主役だが、勝は脇役でも良い役だった。
 雷蔵の映画界入りについては、雷蔵の遺稿集「雷蔵、雷蔵を語る」に表面的なことは書いてあるが、詳しい裏の事情は分からない。ただ、雷蔵が錦之助に相談し、錦之助もいろいろ助言したことは確かだろう。雷蔵は、初めに大映から映画出演の誘いがあり、その後、二、三の映画会社から話があったが、最初の大映の映画に出ることに決めたと書いている。東映からの誘いもあったはずである。高千穂ひづるの話では、一度雷蔵が東映の京都撮影所を見学しに来たことがあり、雷蔵も東映に入るのかという噂も流れたとのことである。雷蔵は、錦之助だけでなく、北上弥太郎や扇雀や東千代之介とも仲が良かったので、彼らの意見も参考にして慎重に映画界入りを決めたものと思われる。大映とは、まず三本映画出演する契約をして、そのあと、新東宝配給の『お夏清十郎』に出て、それから大映と本契約を結んでいる。雷蔵の他社映画出演は『お夏清十郎』の一本だけである。
 ところで、雷蔵とひばりはどうも互いに気が合わなかったようである。雷蔵はひばり母娘についてこんなことを書いている。
「彼女は女王様だし、彼女のお母さんは、いうなれば皇后陛下的存在だったし、とにかくおふた方のお気に召さなかったのだと思う。考え方や性格の違いもあったろうし、彼女を“お嬢”とか、皇后陛下を“ママ”とか呼ぶ雰囲気が嫌いで、ぶっきら棒の私とは、どうやら前世からうまくいかない取り合わせだったようである」
 雷蔵がこう書いているということは、錦之助はひばりを“お嬢”と呼び、母の喜美枝を“ママ”と呼んでいたのだろう。雷蔵は、錦之助とひばりのそばに居て、二人のアツアツぶりをムスッとして眺めていたにちがいない。この頃、雷蔵は中村玉緒(当時は林玉緒)が好きで、玉緒は錦之助が好きで、錦之助はひばりが好きだった。そして、ひばりは、誰にも負けないほど錦之助が好きだだった。錦之助がスターになり、女性にもてるようになればなるほど、錦之助への恋が燃え上がっていったようだ。
 昭和29年の夏以降、すなわち『八百屋お七 ふり袖月夜』を撮り終わって以降のひばりと錦之助の関係は、きわめて親密だったように思われる。ひばりは、『満月狸ばやし』で錦之助とは共演できなかったが、この年の10月から三ヶ月間ずっと京都にいて、映画の仕事を続けている。『お夏清十郎』のあとが、松竹京都作品『七変化狸御殿』、次が東映京都作品『大江戸千両囃子』である。
 ひばりも錦之助もすさまじい忙しさであったが、ひばりにとって京都で仕事をしている限り、夜になれば錦之助に会えるわけである。錦之助がひばりに誘われ、ひばり母娘の京都の常宿に入り浸っていたのはこの頃ではないかと思う。錦之助はひばり母娘と夕食をともにし、酒を飲みながら談笑して、夜中に小田屋に帰るのが面倒になると、ひばりの常宿に泊まっていた。同じ部屋に三人で川の字になって寝ていたようだ。
 最近私は、『ひよどり草紙』の前後のひばりの映画をビデオで観て、ひばりの変わりぶりに驚いている。『山を守る兄弟』『お嬢さん社長』『びっくり五十三次』『七変化狸御殿』の4本に、もちろん『ひよどり草紙』もまた観た。その結果、『びっくり五十三次』(8月公開 野村芳太郎監督作品 共演:高田浩吉)で、ひばりがものすごく可愛くなり、しかも色っぽくなっているのに気がついた。ひばりは昭和12年5月29日生まれなので、これは萬17歳(数えで18歳)の時の映画である。このあと『八百屋お七 ふり袖月夜』を撮るのだが、娘十八、番茶もなんとかではないが、ひばりがまるで幸福そうな恋する乙女なのである。『七変化狸御殿』(昭和29年12月29日公開)は、『オズの魔法使い』のような映画だが、美空ひばりはジュディー・ガーランドより歌も踊りも美しさも勝っていると私は思ったほどだった。『七変化狸御殿』でひばりの相手役は、若殿に扮した宮城千賀子である。宮城千賀子は、戦時中『歌う狸御殿』で一世を風靡した狸物オペレッタの男役スターだったことは言うまでもない。その娘役スターが『お坊主天狗』で女歌舞伎の座長を演じた高山廣子である。





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