錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

錦之助出演のラジオドラマ(4)

2015-12-09 14:08:55 | 【錦之助伝】~スター誕生
 4本目は「獅子丸一平」だった。企画制作は大阪の新日本放送で、昭和31年1月から関西地方だけで放送されたようだ。しかしこのラジオドラマについては不明な点が多い。
 私の持っている資料では、映画『獅子丸一平』五部作のパンフや東映ウィークリ―にはラジオドラマのことが全く付記されておらず、これについて書いてあるのは、錦之助の後援会誌「錦」だけである。
「錦」昭和31年1月号(1月中旬発行)の巻末ページに後援会本部からの知らせとして、こんなことが書いてある。

――今度新日本放送の「獅子丸一平」の放送に一平の役で出演されるようになりました。ただ残念なことに、午前9時45分からの放送なので、会員の多くの方達にとって聞けない時間なので、苦情が本部にきて居りますので本部としても早速新日本放送へ皆さんの御要望を伝えておきましたが、きまった番組変更は難しい様子です。お聞きになった方は、ラジオ批評をお寄せ下さい。

 不得要領な記載で、新日本放送での放送日程も曜日も、放送時間が何分なのかも分からない。ほかの放送局(例えばラジオ東京)で放送される予定があるかどうかも、他の出演者もまったく不明である。
 翌月の「錦」(昭和31年2月号)の巻末ページ(本部だより)を見ると、急きょラジオ放送が開始された「異国物語」に錦之助が風早蔵人の役で出演することは書かれているが、ラジオドラマ「獅子丸一平」のことには何も触れていない。しかし、同号の錦之助の日誌にはこう書いてある。

――1月16日 午前八時起床。午後九時半大阪に再び自動車で向う。午前十一時より新日本放送で私の本年度第一回目の放送になる「獅子丸一平」の録音をする。

 また、「錦」昭和31年3月号の錦之助の日誌にもこうある。

――2月13日 午前10時、大阪の新日本放送局へ行く。午前11時30分から午後5時まで「獅子丸一平」の録音を済ませる。

 錦之助が新日本放送局のスタジオでラジオドラマ「獅子丸一平」の数回分の収録をしたことは確かであるが、その後のことがまったく分からないのである。

 川口松太郎の「獅子丸一平」は昭和29年9月より毎日新聞夕刊に連載され、2年後の昭和31年9月に完結した長編小説である。単行本は上中下の三巻で、上巻は昭和30年7月に、中巻は昭和31年3月に、下巻は同年10月に発行されている。
 「獅子丸一平」は新聞連載中から評判を呼び、映画化権は各社の争奪戦になったようだが、当時破竹の勢いにあった東映が映画化権を獲得し、昭和30年夏に錦之助主演で『獅子丸一平』第一部と第二部が製作され、10月には封切られている。
 第三部は昭和31年1月初旬にクランクインするが、ラジオドラマの制作もこれと同時期に始まっている。普通、ラジオドラマは映画に先行し、映画の宣伝用に作られることが多いのだが、ラジオドラマの「獅子丸一平」は、企画も中途半端で、いかにも時期遅れといった感じで、聴取率も悪かったのではなかろうか。
 映画『獅子丸一平』第三部が公開されるのは昭和31年3月15日であるが、ラジオドラマはその後すぐ打ち切られたように思われる。



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