ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 柳田国男著 「山の人生」 (角川ソフィア文庫2013年版)

2018年03月02日 | 書評
柳田国男が模索する、日本先住民の末裔の生活 第9回

22) 山女多くは人を懐かしがる事: 深山の山女は、妙に人に近づこうとする気配がある。山に働く者の小屋は入口に莚を下げた程度で、山女が内を覗いたという話は多い。女が囲炉裏に座って暖を取ったという話もある。肥後の高山に近い湯前村の奥山の鉱山で働く工夫の小屋の屋根に小石がパラパラと打ち付ける音がするので、工夫が外に出ると背の高い女が三人裸形で現れ、何か言っているが分からないまま逃げ去ったという。東北では会津磐梯山にも山女ラシ話がある。洞窟の中に住み、沢蟹を火であぶって食う。これは「山わろ」と言って野猿の一種だという説もある。「山姥のかもじ」を磐梯山で発見したという。人間の炉の火を恋しがって出てくると思われる場合もある。因州知頭郡蘆沢山の小屋で、「山父」となずける大男(猿)が炉の火にあたっていたという。妙高山焼山黒姫山高嶺にも同じ山男の話がある。

23) 山男にも人に近づかんとする者ある事: 南九州の山男は無害で人懐こかったようだ。霧島連峰の山人は里の人の山小屋を訪問し、それほど恐れられたり嫌われたりしていなかった。日向南那珂郡で40年ほど前、山の中で不思議な老人に遭った。上半身裸で腰回りを覆う程度であった。笑いながらそばに寄ってくるので気味悪くなって里の者が逃げたという。越前丹生郡三方町杉谷で50年ほど前に、薪取りの者が2mを越える大男二人を見て逃げ帰ったという。「オオヒト」と思ったようだ。

24) 骨折り仕事に山男を雇いし事: 山中では人は必ずしも山人を畏れていなかった。時としてはその手助けを期待することもあったという。「周遊奇談」という書に、山男を頼んで木材を運ばせたという話がある。豊前中津の山奥では、背が高く力の強い太った山男に材木の運搬を頼むらしい。ほとんど裸でよく働くし、握り飯を材木1本に1個与える。里の者が握り飯をごまかすと恨みをいつまでも忘れない。薩摩地方の山わろも材木の運搬を手伝うそうである。山男は酒が好きで酒のために働くと「桃山人夜話」に出ている。遠州秋葉の白倉村の里人が山で負傷して歩けなくなった時、山男がで出てきてこれを家まで送った。謝礼のため里人が酒を出すと山男は嬉しそうに飲んで去ったという。

(つづく)