ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)

2015年08月09日 | 書評
アベノミクスの検証 経済は本当に回復したのか 第12回 最終回

5) アベノミクスとゾンビ経済学

 金融危機が同じことの繰り返しに過ぎないことは、キンドルバーガーやガルブレイスの指摘する通りである。金融危機の記憶はすぐに忘れ去られ、記憶を忘れた人は新時代が到来したように思い込み、過去の経済学は通用しないと考えるようだ。個々の金融機関のリスクが高まっても、リスクと供給源が分散されているので経済全体のリスクは低下している。さらに日本のような銀行中心型の金融システムで、15年間もデフレを克服出来ないでいるが、証券市場中心型のアメリカでは日本のようなことは起きないとFRB副議長のコーン氏は述べた。ラジャンは証券化は金融リスクを分散させていない、隠ぺいしているだけで影でリスクは高まっていると主張した。そして2008年サブプライムローンの仕組みが破たんしリーマン証券会社は倒産した。日本では1990年に経験した事態であるのに、アメリカは日本とは違う金融システムだから金融危機は存在しないと思い込んだ人々によって、日本の失敗が繰り返された。2008年の金融危機後、英国のエリザベス女王は「経済学者は何をしていたのか」と問いかけた。危機が発生するまで危機を否定する経済学者がいた。2011年バーナンキは「中期的な物価安定に対して強いコミットメントを示すインフレターゲットを主張していたが、中央銀行は金融の安定性も重視しなければならない」と、反省というか責任分散のような発言をしている。バーナンキは危機の前には、金融政策はバブルを無視すべきである。バブルが崩壊しても金融を緩和すれば経済は速やかに回復すると信じていたようだ。このバーナンキモデルの危機対策が失敗したことが分かった。日本のリフレ派はこのバーナンキ説を信じている。バブルの中で借金をして株や土地を購入し、それがさらにバブルを拡大させた。こうしてバブルと金融不安定の悪循環が形成された。2008年の金融危機はバーナンキモデルと日銀批判を問いなおしている。バーナンキモデルが間違っていたことは明白である。クイギンは「ゾンビ経済学」(2012年)で、2008年の危機を作り出した経済学を批判した。①大緩和、②効率的市場仮説、③動学的一般均衡モデル、④成長戦略トリクルダウン、⑤民営化効率論の5つである。ゾンビとは死んでも繰り返し生き返る妖怪のことで、ゾンビ経済学とは自分が死んだことを理解しない学説(死に損ない)と理解しておこう。ゾンビ経済学はフリードマンに代表される主流派経済学とその政策フレームワークのことを指す。市場は効率的で政府はこれに介入してはいけないが、物価は金融政策によって安定化させなければならないというものである。2008年の危機を引き起したのは民間の証券会社で市場の失敗であり、危機を収拾したのは政府による金融機関の救済であった。この危機でゾンビ経済学は死滅したかのように見えた。ところが、アベノミクスはこの死んだゾンビを復活させた。大緩和時代の再現を目指している。その試みは初期段階で失敗していることは本書の議論で明らかである。新自由主義経済学の失敗とは、
①危機が本当に明らかになるまで危機を否定する(同義反復)
②経済現象は多面的であるので、良い面が出てくれば自分の手柄にし、失敗面は一時的とか他人の責任にする(歪んだ政策評価)
③主流派の力と政治力で失敗しても、自分を免責する(主流派横暴)
④ある政治勢力利益集団と結びつきその利益を擁護することであった(経済とは政治の一環)
クイギンは「ゾンビ経済学」(2012年)で21世紀の経済学の課題として、
①ミクロ経済学の数的厳密性より、現実性を重視
②効率性より平等性を重視、 経済不平等は必ず社会コストが存在するし、すべての政治的政策は分配政策のことである。コスト転換を家計にしわ寄せすると社会不安が醸成される。
③傲慢さより謙虚さを重視
の3点を挙げる。

(完)