ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)

2015年08月05日 | 書評
政府・日銀が語る異次元金融緩和を柱とするアベノミクスの検証 経済は本当に回復したのか 第8回

3) 「第2の矢」批判 財政政策と公共事業 (その1)
 
 アベノミクスの第2の矢は国土強靭化であるという。つまり小泉首相が破壊した公共工事の土建業の復活である。不況時に行われる財政政策は一般的にケイインズ政策と呼ばれる。そして公共工事は政府支出のなかでもGDP にカウントされる。福祉という再配分政策はGDPにカウントされない。また建設国債を発行することは、次世代への資産移転となるので財政規律の原則に触れないことになっている。日本の財政政策については、田中秀明著 「日本の財政」 (中公新書 2013年8月 ) に譲るとして財政政策の基本は繰り返さない。政府支出や政府投資が増加すると、その分GDPは増加する。乗数効果ΣG×r^n(r:再消費率<1)でr^nは収束するのでこの無限級数は一定値となる。1~3×Gが期待される。減税効果は家計や事業の所得が増加するが、深刻な不況期には支出に回す分はほとんど期待できないので減税効果は少ない。福祉の政府支出は所得移転であるので政府消費や政府投資にはカウントしないが、この所得再配分政策は経済刺激策として利用される。ケインズ派は所得の不平等は社会不安の原因であるとともに、需要を縮小させるという。スーパーリッチ(金持ち)はケチだということである。バブルが崩壊すると、人々は(特に金融機関)バブル期に作った借金の返済に追われて支出投資を切り詰め内部留保を高めるためそれが不況を引き起すのである。日本経済は家計、企業、政府、貿易の4者からなる。各部門の収支のチャートは、家計の黒字幅は1990年を境に減少に転じ2005年にはほぼゼロになったのち現在は少し回復した。企業関係はバブル崩壊以降赤字が続いたが、90年代末より内部留保を高め以降は一貫して黒字である。貿易収支は1980年以来赤字である。政府の収支は1990年前後黒字になったことがあるが、バブル崩壊後企業の赤字を吸収したのは政府である。財政赤字が唯一収支を改善する切り札となっている。企業は政府に助けてもらっている。1980年以降財政政策についてはニューケインジアンの均衡財政が重視された。そこでは長期的な生産量は供給側によって決定され、政府の財政刺激策は効果が薄いとされた。しかし2008年の危機以降経済危機を乗り切るために財政出動による景気対策に乗り出している。しかし財政出動は長続きせず緊縮財政となった。ギリシャの財政危機はEUの支援と引き換えに均衡財政を義務付けられた。経済成長率がマイナスの国では財政支出を抑える傾向にあるが、日本だけは例外で危機前よりも政府支出は2%近く増加した。緊縮財政に対する批判も根強い。緊縮財政は需要を削減し経済を悪化させるからである。しかし政府支出の削減が経済成長率を低下させると考えるのも正しくはない。経済が落ちコムと税収が減り政府支出が削減される。景気浮揚が重要だとして赤字国債の増加を図ると、それが長期化すると債務過剰に陥る。
そこで田中秀明氏は著書「日本の財政」において、財政規律と予算制度を重視し財政再建の3つの課題を掲げる。
①危機感の共有: 日本が経済成長率の低下から貯蓄率の低下、長期金利の上昇、財政再建の遅れが積み重なると、これまで通りに借金を続けることは不可能になり、信用不安が拡大する羽目になる。財政赤字は政治家・官僚そして国民が改革を回避してきた結果である。日本で一番欠けているのは危機感の共有と政治家のコミットメント(やる気)である。
②予算制度改革: 拘束力のある中期財政フレームと支出ルール(ベースライン)、独立財政機関の設置、財政責任法の制定
③社会保障制度改革: 社会保障改革は自民党政権時2008年「社会保障国民会議最終報告」をまとめ、民主党政権では2011年「社会保障・税一体改革成案」がある。我国の社会保障の根幹である「社会保険」の矛盾(保険だけで賄われるものではなく、一般財源を投入している。税と保険が混合した制度)した曖昧な制度となっている。基礎年金、国民健康保険、後期高齢者医療制度の改革が求められる。こうした議論がないとたんに不足分賄う議論に終わる。消費税を増税しても、一般財源を社会保険制度になし崩し的に投入することは何ら問題解決にならない。

(つづく)