ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)

2015年08月02日 | 書評
政府・日銀が語る異次元金融緩和を柱とするアベノミクスの検証 経済は本当に回復したのか 第5回

1) アベノミクス1年半の成果の検証(その3)

 リフレ派(マネタリスト)が支配し金融大緩和をこなっているアメリカの経済は本当に回復しているのだろうか。日本のリフレ派が盲従して止まないアメリカの金融当局とアメリカの経済を検証しよう。FRB前議長バーナンキはリフレ派の代表格である。リフレ派がアメリカで主流なのは1980年代から始まった政治的新自由主義と1990年代から猛威を揮う金融資本・金融工学の結合の理論的柱をなすからである。2008年の危機後バーナンキは量的緩和を3回も行い、失業率は10%w越えていたが今では6%台になったといわれる。リフレ派の言い分は、アメリカが金融危機を防いだのは積極的な金融緩和のよるもので、日本は未だ積極的な金融緩和を行わないから経済を回復できないのだという。しかしアメリカと日本の一人当たりGDPのチャートはピッタリ一致している。高齢化の進む日本で現役世代が少ないにもかかわず、一人当たりGDPが日米で一致するのは、日本経済の方が相対的パフォーマンスがいいといえる。2008年の金融危機前の就業率は日米とも80%程度であったが、2009年の就業率(100-失業率)の落ち込みはアメリカでは80%から75%になったが、日本は1%に満たずその後2%程度回復した。景気が悪くナウとアメリカではすぐレイオフで就業者の首を切るが、日本では雇用調整助成金で企業の解雇を避けることができた。アメリカで就業率が落ち込んだまま(75%)、失業率が10%から6%に回復したというのは、就業への意欲をなくして脱落した人が出たために見かけ上失業率が上がったと見るべきであろう。(失業率の定義は仕事をする意欲がありながら仕事に就けない人である。つまりハローワークに行く人であり、ドロップアウトした人はハローワークに行かなくなる。その人らは統計にカウントされない。つまり社会的不安要因となるのである)現役世代が減少する日本では労働供給は減少している。従って低い成長率でも就業率がいいのである。人口が増加し続けるトレンドとして労働力供給過剰になっているのである。2002年から2008年の6年間は、日本では長い「いざなみ景気期」と呼ばれ、日本は2%近い経済成長を実現した。それをぶち壊したのが2008年にはじまるリーマン金融危機であるが、その後の日本の経済回復は早く、アベノミクスが始まる前に、日本では完全雇用(非正規化など雇用条件の悪化は著しいが)が実現していたといえる。日本経済成長率の低迷は人口高齢化仮説と産業構造変化によるもので、現在のアメリカの停滞はバブル崩壊と金融危機の結果であると考えられる。2008年の金融危機後アメリカイギリス欧州の中央銀行は積極的な金融緩和を行った。日本はおこなわなかったので経済復活が遅れているという話は本当だろうか。2009年から12年の平均で一人当たり経済成長率が3%と高いのはドイツのみで、次いでスウェーデンで、日本は2%である。米英仏欧州各国は0-2%であった。日独はショックからの立ち直りが早かった。各国の消費者物価との関連を調べても、消費者物価と経済の回復には関係がみられない。消費者物価を値上げすると見かけ上GDPが上昇するが、それは何の解決にもならないことが明白である。まりに姑息な手段と言わざるを得ない。アメリカは何回の「財政の崖」問題を引き起こしている。国債発行額の上限を小刻みにあげてゆくことで経済成長を図るという「政府介入」の著しい例で、アメリカの成長は財政政策によって支えられてきた。まさに市場原理の修正ではないか。失業率と物価上昇率の関係(失業率が高くなるとと賃金上昇率が低下するというのが本来のフィリップス曲線)を示す曲線をフィリップス曲線という。製造原価とは賃金コスト、原材料コストからなるが、日本の場合1998年以降賃金コストは2割も低下している。それがGDPを3割も押し下げた。従ってデフレ脱却には賃金コストの上昇が不可欠である。大瀧雅之著 「平成不況の本質」 (岩波新書 2011年12月)では、「平成不況はデフレによるものではなく、構造改革(金融資本の反社会性)のためだ」という。アメリカにおいては失業率が高いにもかかわらず賃金が上昇する。このことを「賃金の下方硬直性」という。現在の日本では失業率が低下しても賃金が下がり続けるという。こrを「賃金の上方硬直性」と呼ぶ。日本では労働市場の2重構造(正規と非正規、非正規の賃金が全体を引き下げる)によるものであろう。ここまで異次元金融緩和の4つの失敗を明らかにした。しかし異次元金融緩和がなかったら、日本経済がどうなっていたかは、「歴史のタラレバ」で政策評価は曖昧である。従って政府日銀は、無関係でもいいことは異次元緩和の効果があったといい、逆効果になっても一時的で基本は変わらないと強弁するのである。もともと経済予測は基本的に当たらないものである。経済は複雑すぎて非線形連立微分方程式が解けないというのか、意思決定者の気まぐれは読めないというのか、誰が何を望んでいるかはわ分からないというのか。FRBの集団的思考法は、日米の長期停滞の原因はバブル崩壊でなく、デフレであるという。金融大緩和でデフレは回避できるという。金融工学の技術革新がリスク分散に役立っているので恐慌の連鎖は防げるとグリーンスパンはいうが果たしてそうだろうか。証券市場の失敗は結局政府による救済となったではないか。これはまことに身勝手な「新自由主義」ではないか。そしてぬくぬくと金融資本は復活した。

(つづく)