ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)

2015年08月06日 | 書評
政府・日銀が語る異次元金融緩和を柱とするアベノミクスの検証 経済は本当に回復したのか 第9回

3)「第2の矢」批判 財政政策と公共事業 (その2)

1990年代以降の日本の長期停滞を考えよう。景気対策として政府は公共事業を拡大させた。民間建設投資と政府公共事業のチャートを見ると、1990年を期に民間の建設投資は減少傾向となり、2000年以降は急激に低下した。政府公共事業は景気対策の為1990年以降から増加傾向となり、2000年以降は小泉政権の経費節減策で減少傾向となり、2010年ごろから増加傾向に転換した。アベノミクスによって2013年度はかなり増加する予定である。日本の公共事業は地方自治体によって行われている。建設地方債を地方交付税によって返済できる仕組みとなってさらに公共事業は拡大した。地方自治体支出の3割から4割は公共事業費が占めている。その結果地方自治体は赤字となり財政が破たんするところが増えてくる。高齢化により2009年より国の社会保障費が急増した。地方財政費はむしろ減少している。これは地方自治体の財政難から公共事業費を削減したためである。現在政府・日銀は今回の経済回復は内需主導型と主張しているが、輸出が減少しているので輸出主導型とはいいがたい。だからと言って内需主導型であるわけではない。13年度後半の経済は政府支出と消費税増税前の駈け込み需要主導型である。2014年度の政府投資は実質で2.3%減少すると見込まれている。14年度は政府支出と耐久財消費、民間住宅主導型の成長は見込めない。財政法では政府が日銀に国債をひきうけさせることや、日銀から借金をすることは禁止されている。そこで日銀は市場から国債を購入することでマネタリーベースを供給しているので、実質的なには同じことである。2012年度末から2013年末の1年間で、日本の国債・財融債の残高は37兆円増加したが、日銀の保有率は68兆円増加した。国の借金の2倍近い資金を日銀が貸し出しているのである。異次元緩和の隠れた目的は財政ファイナンスにあるという。財政と金融政策の混合は避けがたい。湯本雅士氏は「金融政策入門」において金融政策と財政政策の関係を次のように解説しています。
「国債発行の基本原則は国債の日銀引取りの禁止であって、市中引き受けの原則と呼びます。これはそうしたことによって過去に激しいインフレが起きたことに起因します。なお日銀による短期証券の引き受けは禁止されていません。これは一時的な資金繰りに対応するためです。また財政法により、日銀は国会の議決の範囲内で国債を引き受けることができるとされ、国債の満期が来て現金償還を受けずに他の国債に乗り換える「借換債」を認める趣旨である。実際日銀は相当額の国債を保有しています。金融市場の調節目的で各種の証券を民間金融機関から買い入れているので、国債の日銀引き受けと日銀による国債の市中買い入れとの間で準備金が増えることに変わりはありません。2013年度当初の国債発行額は総額170兆円、うち借換債が一番大きく112兆円、建設国債43兆円、復興債2兆円、財投債11兆円です。国債の保有者別では2012年末で総額960兆円のうち、銀行が43%、生損保が19%、日銀が12%(115兆円)、公的年金7%、年金基金3%、海外8.7%等となっています。金融調節手段としての国債買い入れは自主規制として日銀券ルールを設けていますが根拠はありません。一般に長期債で金融調節を行おうとすると、短期債に比べて市場かく乱要因になりやすいので自主的に抑制をかけているのです。金融当局が設けた禁止原則は当局のご都合でことごとく破られているのである。財政規律と金融規律は情勢の都合であってもないような状況で、なんでもありといえる。昨今累積国債残高の問題は棚上げにして、国債を除いたプライマリー・バランス(基礎的収支)の均衡だけで財政を論じることが多い。それもプライマリーバランスの赤字を2020年までに黒字化するという目標は、消費税の10%増税でもっても困難な状況である。しかし問題はこのバランスがとれたとしても国債が減少するわけではなく、国債残高の利子払いは黒字でもって補われるべきはずのものである。従って名目経済成長率が長期金利を上回ることが必要になる。」と言います。財政破綻は回避しなければならない。こうした状況では日銀による財政ファイナンスは止むを得ざる超法規行為かもしれない。

(つづく)