アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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翁長「平和宣言」の隠れた重要問題

2015年06月25日 | 沖縄・翁長知事

         

 23日の「沖縄慰霊の日」に翁長雄志知事が読み上げた「平和宣言」は、「ここ数年の平和宣言の中で、県民の意思を最も反映したものだった」(24日付琉球新報社説)などと「高く評価」されています。
 たしかに、沖縄米軍基地の現状、経過にふれ、過重負担の不当性を指摘しました。しかし、その内容を冷静に分析すれば、とても「高く評価」できるものではありません。
 逆に、今後の辺野古新基地建設阻止のたたかいにとっても見過ごすことができない問題が隠されています。

①「造らせない」から「困難」へ。「承認の取り消し・撤回」は一言もなし

 「知事のあらゆる権限を行使して辺野古に新基地は造らせない」。これが知事選前後の翁長氏の常套句でした。ところが「宣言」では、「新基地を建設することは困難であります」。「造らせない」から「困難」へ。
 「宣言」で「辺野古への移設作業の中止」を政府に求めたことが賛美されています。しかし、民意など歯牙にもかけない安倍政権に「中止」を求めてもムダだということはイヤというほど実証済みです。今必要なのは、政府に要求するのではなく、「造らせない」ための具体的な「知事権限」である「埋め立て承認の取り消し・撤回」を実行することです。それでこそ「平和」への宣言と言えるでしょう。しかし、「翁長宣言」はそれにはまったく触れませんでした。

 ②具体策では仲井真「宣言」よりも後退

 「沖縄は今もなお米軍基地の過重な負担を強いられております。日米両政府に対し、一日も早い普天間飛行場の県外移設、そして日米地位協定の抜本的な見直しを強く求めます」
 これも「平和宣言」の一節です。2年前の2013年6月23日、仲井真弘多知事(当時)が行った「平和宣言」です(公約違反後の昨年の「宣言」は比較の対象外)。

 これに対し、翁長「宣言」には、「一日も早い普天間飛行場の県外移設」もなければ、「日米地位協定の抜本的な見直し」もありません(「県外移設」論の問題点はあらためて検討します)。これでどうして「ここ数年の平和宣言の中で・・・高く評価」できるのでしょうか。

 琉球新報(24日付)によれば、「翁長知事は県議会2月定例会の答弁では平和宣言に・・・『県外移設』要求を掲げる考えを示していた。しかし知事は事務方と文言を練り上げる中で『県外移設』は盛り込まない判断に傾いた」といいます。なぜでしょうか。
 「戦没者を追悼する場での政治的対立を際立たせる表現を避けつつ、辺野古移設作業の中止を求めることで沖縄の民意を示すことを選んだとみられる」(同琉球新報)といいます。おかしくありませんか。「政治的対立」を持ち込むなというのは政府・自民党の言い分です。安倍政権に対する「政治的対立」なしに「平和」を宣言することはできません。正真正銘の保守・自民党知事だった仲井真氏でさえ「宣言」したことを翁長氏はなぜあえて外したのでしょうか。

 ③「建白書」の片りんも見えない

 しかし、ほんとうに比べるべきは、仲井真「宣言」ではなく、「建白書」(2013年1月28日)です。なぜなら翁長氏や翁長与党が標榜する「オール沖縄」の旗印(「一点共闘」の一致点)が「建白書」にほかならないからです。
 「建白書」の具体的な要求は2点。「オスプレイの配備撤回」と「普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念」です。しかし、翁長「宣言」には、オスプレイの「オ」の字もなければ、閉鎖・撤去の「へ」の字もありません。
 翁長氏は「建白書」を支持する圧倒的県民の支持で当選したのです。その知事が初めて行う「平和宣言」で、「建白書」の肝心の2つの要求にいずれも触れないということが許されてよいのでしょうか。

 ④「米軍基地問題は、我が国の安全保障の問題」の危険な本音

 以上のような数々の問題点がありますが、私が最も重要だと考えるのは、翁長氏の次の表明です。
 「沖縄の米軍基地問題は、我が国の安全保障の問題であり、国民全体で負担すべき重要な課題であります」。これは、普天間基地の「県外移設」=本土移設論と一体です。

 これを言い換えれば、米軍基地は「日本の安全保障」にとって「重要」であり、沖縄に過重な負担を背負わせるのではなく、本土がもっと負担すべきだ、ということです。
 これは米軍基地を「日本の安全保障」の「抑止力」だとする日米安保=軍事同盟容認論にほかなりません。「日米安保の必要性は十分理解している」という翁長氏の本音です。

 沖縄県知事の「平和宣言」がこれでいいのでしょうか。
 翁長氏の主張からは、沖縄の軍事基地を一掃するという要求・政策は生まれてきません。日米安保必要論に立つ限り、沖縄に(もちろん本土にも)米軍基地は残ります。それでは「戦争につながる基地建設には断固反対する」(照屋苗子県遺族連合会会長の式典あいさつ)という県民・国民の多くの声に応えることはできません。
 「万国津梁の精神」で「沖縄を恒久平和の発信地」にすると言うなら、日米安保=軍事同盟を廃棄して、沖縄からすべての軍事基地を撤去すべきではないでしょうか。

 「平和宣言」に限らず、翁長氏の演説や安倍首相ら政府との会談の特徴は、沖縄の歴史や現状で正論を強調しながら、肝心な具体論・具体策はほとんど口にしないことです。
 その根源は、翁長氏が根本問題である日米安保=軍事同盟を一貫して容認・支持しているところにあります。
 だから 「辺野古新基地反対」といいながら、嘉手納や浦添など沖縄の他の米軍基地や、本島・八重山の自衛隊配備・増強には反対しないのです。
 日米安保=軍事同盟を容認する翁長氏の「辺野古移設反対」の本質・危険性が透けて見える「平和宣言」でした。


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