あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

磯部淺一 ・ 行動記

2017年06月26日 08時43分46秒 | 磯部淺一 ・ 行動記

村中、香田、余等の參加する丹生部隊は、
午前四時二十分出發して、栗原部隊の後尾より溜池を經て首相官邸の坂を上る。
其の時俄然、官邸内數發の銃聲をきく。
いよいよ始まった。
秋季演習の聯隊對抗の第一遭遇戰のトッ始めの感じだ。
勇躍する、歓喜する、感慨たとへんにものなしだ。
( 同志諸君、余の筆ではこの時の感じはとても表し得ない。
とに角云ふに云へぬ程面白い。一度やって見るといい。
余はもう一度やりたい。あの快感は恐らく人生至上のものであらふ。)
余が首相官邸の前正門を過ぎるときは早、官邸は完全に同志軍隊によって占領されていた。
五時五、六分頃、陸相官邸に着く。 
 ・・・いよいよ始まった



磯部淺一 
行動記
目次
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 第一 「 ヨオシ俺が軍閥を倒してやる 」 
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第二 「 栗原中尉の決意 」 
 第三 「 アア 何か起った方が早いよ 」 
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第四 「 昭和十一年の新春を迎へて世は新玉をことほぐ 」 
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第五 「 何事か起るのなら、何も云って呉れるな 」 
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第六 「 牧野は何処に 」 
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第七 「 ヤルトカ、ヤラヌトカ云ふ議論を戰わしてはいけない 」 
第八 「 飛びついて行って殺せ 」 
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第九 「 安藤がヤレナイという 」
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第十 「 戒嚴令を布いて斬るのだなあ 」 
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第十一 「 僕は五一五の時既に死んだのだから諦めもある 」 
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第十二 「 計畫ズサンなりと云ふな 」 
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第十三 「 いよいよ始まった 」 
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第十四 「 ヤッタカ !! ヤッタ、ヤッタ 」 
・ 第十五 「 お前達の心は ヨーわかっとる 」 
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第十六 「 射たんでもわかる 」 
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第十七 「 吾々の行動を認さんめるか 否か 」 
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第十八 「 軍事參議官と會見 」 
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第十九 「 國家人なし、勇将眞崎あり 」 
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第二十 「 君等は 奉勅命令が下ったらどうするか 」 
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第二十一 「 統帥系統を通じてもう一度御上に御伺い申上げよう 」 
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第二十二 「 斷乎 決戰の覺悟をする 」 
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第二十三 「 もう一度、勇を振るって呉れ 」 
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第二十四 「 安藤部隊の最期 」 
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第二十五 「 二十九日の日はトップリと暮れてしまふ 」 

首相官邸に至り、栗原に情況を尋ねる。
彼は余の發言に先だって、
「 奉勅命令が下った様ですね、どうしたらいいでせうかね。
下士官兵は一緒に死ぬとは云ってゐるのですが、可愛想でしてね、
どうせこんな十重、二十重に包囲されてしまっては、戰をした所で勝ち目はないでせう。
下士官兵以下を歸隊さしてはどうでせう。
そしたら吾々が死んでも、殘された下士官兵によって、第二革命が出來るのではないでせうか。
それに實を云ふと、中橋部隊の兵が逃げて歸つてしまったのです。
この上、他の部隊からも逃走するものが出來たら、それこそ革命党の恥辱ですよ 」
と 沈痛に語る。
余は平素、栗原等の實力 ( 歩一、歩三、近三部隊の實力 ) を信じていた。
然るにその實力部隊の中心人物が、情況止むなく戰闘を斷念すると云ふのだから、
今更余の如き部隊を有せざるものが、無闇矢鱈に鞏硬意見を持してみた所で致し方がないと考へた。
栗原は第一線部隊將校の意見をまとめに行く。
余は一人になって考へたが、どうしても降伏する気になれぬので、
部隊將校が勇を振るって一戰する決心をとって呉れることを念願した。
その頃、飛行機が宣傳ビラを撒布して飛び去る。
・・・もう一度、勇を振るって呉れ


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