眞崎甚三郎大將 阿部信行大將 西義一大將 ・・・以上、軍事參議官
山口一太郎大尉 鈴木貞一大佐 小藤恵大佐 山下奉文少將 ・・・以上、立會人
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午後二時、陸相官邸で蹶起將校と眞崎大將らと會談した。
席上、野中大尉が
「事態の収拾を眞崎將軍に御願ひ申します。
この事は全軍事參議官と全靑年將校との一致せる意見として御上奏をお願い申したい 」
と、言った。 ( リンク → 山口一太郎大尉の四日間 3 「 総てを真崎大将に一任します 」 )
しかし、眞崎は既に天皇の御意嚮を知っているから、はっきりした返事をしていない。
「 君たちが左様言ってくれる事は誠に嬉しいが、いまは君等が聯隊長の言う事を聞かねば何の処置も出來ない 」
と言って、撤退が先決だという。
結局、この會見ははっきりした結論を出さないでおわった。
軍事參議官たちは、靑年將校が撤退を認めたと思い、
靑年將校の方では、阿部、西の両大將が眞崎大將を助けて善処するという言葉を信じた。
・・・挿入 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
( 二十七日 )
午後二時頃になったかと思ふ。
眞崎外の參議官と會見する事となり、全將校同志が陸相官邸に集合する。
眞崎、阿部、西 (荒木、植田、寺内、林は不參) の三將軍 と 山口、鈴木、山下、小藤の諸官が立ち會った。
野中大尉が、
「 事態の収拾を眞崎將軍に御願ひ申します、
この事は全軍事參議官と全靑年將校との一致の意見として御上奏をお願い申したい 」
と 申込む。
眞崎は
「 君等が左様云ってくれることは誠にうれしいが、今は君等が聯隊長の云ふことをきかねば、何の処置も出來ない」
と 答へ、部隊の退去をほのめかす風さえ察せられる。
どうもお互ひのピントと合はぬので、もどかしい思ひのままに無意義に近い會見をおわる。
安部、西 両大將が眞崎をたすけて善処すると言ふことだけは、ハッキリした返事をきいた。
註
同志中に大政略家がいたら、極めて巧妙なカケヒキ
( 或いは極めて簡短なる一石を以てかもしれぬ ) を以て、
全軍事參議官と靑年將校との意見一致として、事態収拾案の大綱を定めて、
上奏御裁下をあおぐ事は易々たる事であったと思ふ。
今の小生にはそれが出來るが、當時の同志には誰にもそれ程の手腕がなかった。
この會見は極めて重大な意義をもっていたのに、
全くとりとめのないものに終わった事は、維新派敗退の大きな原因になった。
吾人はシッカリと正義派參議官に喰ひついて幕僚を折伏し、
重臣、元老に對抗して、戰況の發展を策すべきであった。
眞崎、阿部、西、川島、荒木にダニの如くに喰ひついて、
脅迫、煽動、如何なる手段をとってもいいから、
之と離れねばよかったのだ。
・・・磯部浅一 『 行動記 』 ・・ 第十九 「 國家人なし、勇將眞崎あり 」
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「 この會見は極めて重大な意義をもっていたのに、
全くとりとめのないものに終わった事は、維新派敗退の大きな原因になった 」
と、あとで磯部はくやしがっているが、
實際これらの老大將たちを蹶起部隊の人質にとってしまったら、
その後の事件の進展は大きく變わってきたであろう。
しかし、宮廷では雲行きはきゅうであった。
本庄日記によれば、
数十分ごとに天皇は本庄侍従武官長を召され、行動部隊を早く鎭定せよと督促される。
「 朕自ラ近衛師團ヲ率ヒ、此ガ鎭定ニ當ラント仰セラレル 」
と、本庄はその日の日記にしるしているほどである。
二十八日になると情勢は一変した。
占拠場所から撤退しないという行動部隊を、武力によって討伐するということになった。
靑年將校たちが撤退の決意をかえたのは 北、西田の指令だという噂は宮廷にまで聞えた。
須山幸雄著 西田税 二 ・二六への軌跡 から
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本庄日記 騒乱の四日間
第二日 (二月二十七日)
一、
午前一時過、内閣ハ總辭職スルコトニ決定シ、後藤内相臨時首相代理トシテ各閣僚ノ辭表ヲ取纏メ、
早朝闕下ニ捧呈セシガ
聖旨ニ依リ、後藤内閣成立マデ政務ヲ見ルコトトナレリ。
陛下ニハ、最モ重キ責任者タル、川島陸相ノ辭表文ガ、
他閣僚ト同一文面ナルコトヲ指摘遊バサレ、
彼ノ往年虎ノ門事件ニテ内閣總辭職ヲ爲セル時、
當ノ責任者タル、後藤内相 ( 新平 ) ノ辭表文ハ一般閣僚ノモノト全ク面目ヲ變エ、
實ニ恐懼ニ耐ヘザル心情ヲ吐露シ、一旦脚下セルニ更ニ、熱情ヲ罩こメ、
到底現狀ニ留マリ得ザル旨奏上セルノ事實ニ照シ、
不思議ノ感ナキ能シズトノ意味ヲ漏ラサレタリ。
當時、武官長ハ陸相ノ辭表ハ内閣ニテ豫メ準備セルモノニ署名シ、
同時捧呈セルモノニシテ、何レ改メテ御詫ビ申上グルモノト存ズル旨奉答ス。
二、
午前二時五十分、
戒嚴令公布セラレ、
警備司令官香椎浩平中將戒嚴司令官ニ任ゼラル。
此戒嚴令ハ勿論、樞密院ノ諮詢しじゅんヲ經テ、勅令ヲ以テ公布セラレタルモノニシテ、
東京市ナル一定ノ區域ニ限ラレタリ。
此日、行動部隊ハ依然參謀本部、陸軍省、首相官邸、山王ホテル等ニ在リ、
御前十時半頃ヨリ、近衛師團ヲ半蔵門、赤坂見附ノ線、
第一師團ヲ赤坂見附、福吉町、虎ノ門、日比谷公園ノ線ニ配置シ、
占拠部隊ノ行動擴大ヲ防止セシム。
弘前ニ御勤務中ノ秩父宮殿下ニハ、此日御上京アラセルルコトトナリシガ、
高松宮殿下大宮駅マデ御出迎アラセラレ、帝都ノ狀況ヲ御通知アラセラレタル後チ、
相伴ハレ先ヅ眞直グニ參内アラセラレタリ。
此ハ宮中側近者等ニ於テ、若シ、殿下ニシテ其御殿ニ入ラセラルルガ如キコトアリシ場合、
他ニ利用セントスルモノノ出ヅルガ如キコトアリテハトノ懸念ニアリシガ如シ。
此日、閣僚全部、尚ホ 依然宮中ニ在リ。
岩佐憲兵司令官病ヲ押シテ參内シ、窃ヒソカニ岡田首相ノ健在ナルコトヲ告グ、
其儘傳奏ス。
三、
此日、
戒嚴司令官ハ武装解除、止ム得ザレハ武力ヲ行使スベキ勅命ヲ拝ス。
但シ、其實行時機ハ司令官ニ御委任アラセラル。
戒嚴司令官ハ、斯クシテ武力行使ノ準備を整ヘシモ、
尚ホ、成ルベク説得ニヨリ、鎭定ノ目的ヲ遂行スルコトニ努メタリ。
此日拝謁ノ折リ、
彼等行動部隊ノ將校ノ行爲ハ、
陛下ノ軍隊ヲ、勝手ニ動カセシモノニシテ、
統帥權ヲ犯スノ甚ダシキモノニシて、固ヨリ、許スベカラザルモノナルモ、
其精神ニ至リテハ、君國ヲ思フニ出デタルモノニシテ、
必ズシモ咎ムベキニアラズト
申述ブル所アリシニ、
後チ御召アリ、
朕ガ股肱ノ老臣ヲ殺戮ス、
此ノ如キ兇暴ノ將校等、其精神ニ於テモ何ノ恕ゆるスベキモノアリヤ
ト仰セラレ、
又或時ハ、
朕ガ最モ信頼セル老臣ヲ悉ク倒スハ、
眞綿ニテ、朕ガ首ヲ絞ムルニ等シキ行爲ナリ、
ト漏ラサル。
之ニ對シ
老臣殺傷ハ、固ヨリ最惡ノ事ニシテ、
事仮令誤解ノ動機ニ出ヅルトスルモ、
彼等將校トシテハ、
斯クスルコトガ、國家ノ為爲メナリトノ考ニ發スル次第ナリ
ト 重ネテ申上ゲシニ、
夫ハ只ダ私利私欲ノ爲ニセントスルモノニアラズト云ヒ得ルノミ
ト 仰セラレタリ。
尚又、此日
陛下ニハ、
陸軍當路ノ行動部隊ニ對スル鎭壓ノ手段實施ノ進捗セザルニ焦慮アラセラレ、
武官長ニ對シ、
朕自ラ近衛師團ヲ率ヒ、此ガ鎭定ニ當ラン
ト仰セラレ、
眞ニ恐懼ニ耐エザルモノアリ。
決シテ左様ノ御軫念ごしんねんニ及バザルモノナルコトヲ、呉々モ申上ゲタリ。
蓋けだシ、
戒嚴司令官等ガ愼重ニ過ギ、殊更ニ躊躇セルモノナルヤ
ノ如クニ、 御考ヘ遊バサレタルモノト拝サレタリ。
此日、杉山參謀次長、香椎戒嚴司令官等ハ、兩三度參内拝謁上奏スル所アリシガ、
陛下ニハ、
尚ホ、二十六日ノ如ク、數十分毎ニ武官長ヲ召サレ
行動部隊鎭定ニ付 御督促アラセラル。
常侍官室ニアリシ侍從等ハ、此日武官長ノ御前ヘノ進謁、十三回ノ多キニ及ベリト語レリ。
此日 ( 二十七日 ) 午後遅ク、行動部隊將校ヨリ眞崎大將ニ面會ヲ求メ、
同大將之ニ應ジタル結果、更ニ阿部、西 両大將モ之ニ加ハリ、
種々説得ニ努メタルヨリ、彼等將校等モ大體ニ諒解シ、
明朝ハ皆原隊ニ復歸スベシト答ヘシ由ニテ、
此夜ハ警戒等モ特ニ寛大ナラシメラレタリ。
第三日 ( 二月二十八日)
一、
午前七時、伏見軍令部総長宮殿下参内アリ、
武官長ニ對シ、
二十七日ニ於ケル皇族御會合ノ模様
及 閑院宮殿下ノ御轉地先、小田原ヨリ至急御歸京アラセラルベキ必要を説示アラセラレタリ。
依テ、杉山參謀次長躊躇シアリシ折柄、秩父宮殿下ヨリモ時局重大ノ際ナレバ、
多少ノ無理ヲ押シテモ、御歸京遊バサレル様、直接通知アラセラレシ趣ニテ、
閑院宮殿下ニハ、此日遅ク御歸京遊バサレタリ。
二、
午前十時、
梨本宮殿下參内、拝謁ノ上、
眞摯熱誠を籠メ、今事件ニ付 御詫アラセラル。
後チ、陛下ニハ、武官長ニ對シ、
自分ハ、梨本宮殿下ノ眞面目ナル御態度ニ全ク感激シタリ。
各將校ガ悉ク、梨本宮ノ如キ心持を體シ呉レシナラバ、此ノ如キ不祥事ハ發生セザリシモノヲ
ト 御歎ジアラセラレタリ。
三、
此日、朝ニ至リ、行動部隊ノ將校ノ態度一變シ、又々原隊復歸を肯セズ。
前晩、
眞崎大將等、三軍事參議官ノ説得ニテ、行動部隊ノ將校等ハ、
部下ノ部隊ヲ原隊ニ歸スベク決意セシ模様ナリシニ、
夜半ニ至リ、電話ニテ首相官邸ニアル、右等將校ニ電話指令セシモノアリ。
( 北、西田等ナリト噂セラル )
爲ニ、彼等將校ノ態度一變セリト云フ。
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