安田 優
私ハ小サイ時カラ不義ト不正トノ幾多ノ事ヲ見セツケラレ、
非常ニ無念ニ感ジテ來タモノデスカラ、
小サイ時ハ辯護士ニナツテ之ヲ打破シヨウトシタガ
之ヲ達セラレナイト思ヒ
( 法律ハ金力ニ依ツテ左右サルコトガ多イカラ ) 斷念シ、
中學校ニ入リ一番正シイノハ
軍人ダロウト思イ軍人ヲ志願シタノデアリマス。
大正十二年頃
佐野學ガ第一ニ檢擧サレタ頃、
共産主義ノ説明ヲ父親ニ聞キ 大イニ共産主義ヲ憎ム様ニナリマシタ。
實ニ軍人ノ社會ハ正シイモノト思ツテ志願シタノデアリマス。
士官學校豫科ニ入ツテ二日目ニ、全ク裏切ラレタノデアリマス。
第一ニ
御賜ニテ幼年學校ヲ出ル様ナ人間ハ、
支給サレタ自分ノモノガ無イ時ハ
他人ノモノヲ取リテ自分ノモノニシタ様ナ實例ヲ見、
其ノ他 他人ノ金錢ヲ取ルモノ、
又ハ本科ノ生徒ガ
日曜ニ背広ヲ著シ 「 カフェー 」 ヤ遊郭ニ行ク様ナ點ハ 全ク憤慨ニ堪エナカツタノデアリマス。
此ノ様ナ點ニテ、
村中區隊長ト接触ヲ始メタノデアリマス。
而シテ 此ノ様ナ不正ハ何トカセネバナラヌト共鳴シテ居ツタノデアリマス。
原隊ニ歸ツテモ、
村中氏トハ家族同様ノ親交ヲシテ居ル内ニ、
村中氏ハ私情ヲ投ゲ
君國ニ殉ズルノ精神ニ甦ツテ行動シテ居ラルルコトニ非常ニ感奮シタノデス。
然シ 一度モ國家改造等ノ事ハ村中氏ヨリ聞イタコトハ有リマセン。
但シ、其ノ進行中ノ無言ノ内ニ愛國ノ士デアルコトガ判リ、
無言ノ感化共鳴シ 全ク此ノ愛國ノ至情ニハ一ツノ疑念ナク、
凡テニ於テ共ニ行動出來ルモノト確信シタノデアリマス。
ソノ後益々親交ヲ深クシテ居リマシタ。
然ルニ 悉ク遭遇スルモノハ皆不正不義ナル現實ニ接シ、
愈いよいよ凡テニ是非國家改造ノ必要ヲ痛感シテ來タノデアリマス。
就中、三月事件、十月事件、十一月事件デアツテ、
殊ニ甚シク遺憾千萬ナモノハ統帥權干犯問題デアリマス。
然ルニ相澤中佐殿ノ公判ニ依リテ見テモ、
統帥權干犯問題ガ闇カラ闇ニ葬り去ラレ様トシテ居ルノデ、
何トカシテ之ハ明瞭ニシ
斷乎ソノ根源ヲ絶タネバナラント愈決心ヲ固クシタノデアリマス。
ソレニハ元兇ヲ打タネバナラヌト考エタノデアリマス。
私ハ昨年十一月ニ砲工學校普通科ニ入ルベク上京以來、
勉強ノ爲メニ追ハレテ居ツタ關係上
村中氏トハ二回位シカ會ツタ事ガナイシ、ソノ他何人ニモ會ヒマセンデシタ。
然ルニ、統帥權干犯問題ヲ新聞ニテ知リ、
愈根源斷絶ヲ決行セネバ駄目ト考ヘテ居リマシタ。
之レガ爲メ、第一ニ中島ニ聯絡ヲトツタノデアリマス。
何とナレバ、中島ハ村中氏ヤ河野氏、安藤氏等ト聯絡ヲトツテクレルト思ツタシ、
マタ聯絡ヲトツテ呉レト頼ンデモ置イタカラデス。
其レデ、中島ニハ具體的方法等ノ事モ考エテツタノデス。
只此度ハ個々夫々ニ計畫ヲ口デ申シ合セ文章ニシテアリマセン。
ソレハ、從來文章ニスレバ失敗シテ折ツタ苦キ經驗ニ基クモノデス。
・
次ニ經濟上ニテ、
現狀ハ一君萬民ノ國情ニナツテ居ラヌ事ハ明瞭ナル事實デアリマス。
同ジ陛下ノ赤子ナガラ、
農村ノ子女ト都会上層部ノ人々トノ差ノアマリニ烈シイコトハ
陛下ニ對シテ申譯ナイト思ヒマス。
之ハ現在ノ國家ノ機構ガ惡イト思ウノデアリマス。
殊ニ北海道山奥ノ人民ノ生活ハ満洲人等以下ノ生活ヲシテ居リマス。
殊ニ北海道ノ北見ノ方ニ行クト、
十一月頃ニ一月位迄食ウ馬鈴薯モ ( 米、麦ハ勿論ナシ ) 無イト言ウ有様デアリマス。
然ルニ 農村ノ租税ノ割合ハ都市ヨリ多ク、金融ハ凡テ集中占領サレテ居リマス。
満洲事變以來、
軍部ハ政党ヲ押エ附ケ様トシテ來タガ今ハ政党ノ温床ノ如クナツテ居ル。
其レハ 軍需 「インフレ 」 工業ノ利益ガ政党ニ行ツテ居ル。
例エバ飛行機ノ政策ニテモ同様、
外国ヨリ 「 パーテント 」 ヲ買ツテイル中島、川崎、三菱等ハ高イ金ヲ以テ軍部ニ賣ツテ居ルガ、
ドウセ外國ノモノヲ買ワナイ、
彼等ノ手ヲ經ス國家ニテ統制シテ之ヲ整備スル必要ガアルノニ、
ソレヲヤラズニ居ルノハ即チ政党ノ温床ニナツテ居ルカラデアル。
殊ニ重工業ノ如キハ實ニ斯ル様ニ思ウ。
之ハ財閥重臣ヲ斃サネバ此ノ實現ハ出來ヌト思ウノデアリマス。
今デモソレヲ確信シテ居ルノデアリマス。
北海道ノ兵ノ如キハ、食物ハ軍隊ノ方ガヨイカラ地方ニ歸ツテ農ヲヤルコトヲ厭ツテ居ル。
ソレデ良兵ハ愚民ヲ作ルコトニナツテ居ル。
之皆農村ノ疲弊カラデアル。
之レヲ救ウニハ、ドウシテモ財閥重臣等ヲ排除セネバ實現ガ出來ヌト思ウノデアリマス。
・
次ニハ思想上ヨリ言エバ、
無産党ガ成功シテ居ルコトハ所謂 「インテリ 」 階級ノ動向ヲ察セラルルノデアル。
無産党ガ斯クヤッテ居ルト、軍隊ナラバ非常ニ隆盛ニナルコトト思イマス。
サスレバ、之レガ國體ニ相反スルモノガ此ノ様ナ狀況ニナレバ英國ノ如クナリ、
甚ダ憂フベキコトト思イマス。
憲兵隊 被告人訊問調書
「何故に此の様な行動をする様な理由になったのか」 の問に答えたものである