日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

ポール・ヴァレリー国葬の日のコクトー

2011-07-01 | Jean Cocteau

1945年7月、フランスの大詩人と呼ばれるポール・ヴァレリーの国葬が行われた。その日のジャン・コクトーの感動的なエピソードが作家・中村真一郎によって紹介されていた。

Cocteau

ヴァレリー国葬の当日、コクトーは喪章をつけた国旗が軒ごとに翻っているパリを脱け出して、
ある人気ない海岸の漁師の小屋の中に独りきりで身をかくす。
そしてポータブルラジオの受信機でその葬儀の実況放送を聞きながら、
この大げさな祭儀が詩人にふさわしいものではないという気持ちを強める。
彼はとどろく海の音を耳にしながら、死んだ詩人の「海辺の墓地」という長詩を唇にのぼらせる。
それから彼は粛然として手帳に書きつける。
「詩人とは幼児の魂を持つ人である。そして、私の知るヴァレリーはそうだった」と。
     

         昭森社「本の手帖」より

詩人としてのコクトーも同じ魂を持ち、心に宿る純真さが葬儀の違和感から海へ向かわせたのだろうか。
打ち返す波の音を聞きながらコクトーはヴァレリーと同じ詩人の心で故人を偲んだ。


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