パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

高地戦  ★★★★

2013年01月20日 | アクション映画ーカ行
いつまで続くのか、何のために戦うのか、・・・死体を踏んで攻め上がり、死体になって転がり落ちる。誰も知らなかった本当の“戦争の結末”とは。
1950年6月25日から3年1ケ月続いた戦闘の終わりは、停戦協定の成立ではなかった。「高地戦」では韓国でもほとんど記録が残っていない朝鮮戦争の真実の結末を初めて描いた映画だ。

物語は朝鮮戦争末期、1953年2月から幕を開ける。韓国軍防諜隊に所属するカン中尉(シン・ハギュン)は、ちっとも停戦交渉がまとまらない苛立ちから上官の上で暴言を吐き、激戦地エロック高地への出向を命じられる。彼に課せられた任務は、指揮官が不審な死を遂げた「ワニ中隊」内部のスパイ探し。
そこでカン中尉は思いがけない再会を果たす。かつて人民軍の捕虜となり戦場で行方不明となった親友スヒョク(コ・ス)が、ワニ中隊の実質的リーダーを務めていたのだ。スヒョクは今や昔の面影を失い、地獄のような戦場をタフに生き延びる筋金入りの戦争マシンと化していた。
カン中尉はワニ中隊の面々と行動を共にしながら、隊に隠された秘密と、後方では決して知りえない戦場の残酷な真実を知っていく。おびただしい量の同胞の血が流れ、ようやく待ちに待った停戦の報せが舞い込むのだが。

<感想>前から見たいと思っていた作品、やっとミニシアターで上映された。監督は「義兄弟」のチャン・フン。韓国と北朝鮮と、朝鮮半島が分断という複雑な状況がもたらす葛藤を、スリリングかつユーモラスに描いた「義兄弟」に続き、ついに真正面から朝鮮戦争というヘヴィーな題材に取り組んで見せた。
タイトルが「高地戦」というだけあって、急勾配を駆け上げる兵士たちの姿に寄り添い、何十メートルも直進に近い角度で突き進むカメラワークで捉えた戦闘シーンは圧巻というしかない。「プライベート・ライアン」症候群的演出には陥ることなく、独特の撮影表現の手腕はお見事ですね。
砲火にさらされまるはげ状態になった山を奪い合い、ひたすら不毛の陣取り合戦を繰り返し、凄まじい勢いで死体の山が築かれていく。韓国軍がエロック高地を奪還すると、その後にあまりにもたくさんの死体が転がっていて、その死体を埋めていくシーン、そこで堀ったところから昔の死体が出てくるという悲惨な映像。エロック高地は、戦いで死んでいった死体でできているといっても過言ではない。
現在の停戦ライン近くで繰り広げられた高地戦は、百戦錬磨の米軍でさえ手こずらせるほど過酷な戦いだったのだ。しかし、この映画で一番面白かったのは、エロック高地は奪い取ったり、奪われたりを繰り返している場所。そこでのワニ中隊と人民軍との物々交換のシーン。

果てしなく続く戦いの中で、両軍の兵士たちが密かに物々交換を行うというエピソードは、軍人同士が紡ぐほのなか友情、同じ民族が殺しあわねばならない不条理が、単純に論じてはならない割り切れなさが描かれていく。
それでもひとたび戦場に出れば、彼らは冷酷非常な殺人マシンに徹しなければならないのだ。そんな兵士たちの痛切な心情が、残酷な最終決戦のクライマックスへと導く。
その中でも、猛者揃いのワニ中隊を率いる隊長が、モルヒネ中毒の少年兵イリョン(イ・ジェフン)であるという謎、隊員たちがひたすら隠す忌々しい過去、そして全兵士から恐れられる人民軍の狙撃手“2秒”(着弾して2秒後に銃声が聞こえるほどの遠距離射撃スキルの持ち主)の意外な正体など。ミステリアスな要素も随所に散りばめていて飽きさせない。

なによりも魅力的なのが、いちいちキャラの立った人物描写と、味のある役者陣のアンサンブルでしょう。隊員たちから絶対の信頼を寄せられるスヒョクを演じるのは「超能力者」での熱演も記憶に新しいコ・ス。地獄を見てきた歴戦の勇者にしてはイケメンすぎるものの、爽やかな外見に内側の屈折した人物像は彼ならではの演技だと思う。
ワニ中隊とは、ワニが卵を50個産んで、その内卵が孵化して他の動物に食べられ、生き残るのは1匹か2匹だという。この戦争で生き残るには、味方でも自分に刃向う者は殺す。
個性豊かな兵士たちを演じたのは、チャン・フン作品には欠かせない巨漢俳優のコ・チャンソク。お調子者キャラを演じさせたら天下一品のリュ・スンス。「ポエトリー/アグネスの詩」の生意気な孫役も強烈だったイ・デヴィッドら、近年注目の名脇役俳優たち。中でも若き隊長イリョンをクールに演じた新人のイ・ジェフンが素晴らしい。
「神弓」で清軍のコワモテ特攻隊長を演じたリュ・スンリョンが、今回は顔面傷だらけのベテラン将校、人民軍(北朝鮮)のリーダーに。それに“2秒”と呼ばれたスナイパーにキム・オクビンらなど、人民軍側にも実力派が揃っている。

ラスト近くでカン中尉が死んだスヒョクを背負って基地に戻ってくる。そこで「停戦協定合意しました」という放送が流れる。これでやっと終わったとホットしたところで、そこからが、地獄の始まりだったのです。「停戦が実行されるのは12時間後、戦線はその時の、領土が境界線となる」と、今までの戦いで十分じゃないのと、これでもかというような、手足をバラバラになるようなすごい戦闘シーンがこの後繰り広げられるなんて思ってもいなかった。兵士の数も少ないし、全員殺し合わないと終わらないなんて誰が命令しているのか。同じ国の人間が領土争いして、人間の愚かさを見せつけさせる。最後なんて見るに堪えない映像で、目を背けたくなります。
韓国人にしか描ききれない分断の悲しみと葛藤を塗り込めた傑作であるとともに、スケール豊かな戦争アクション大作として見応えがあります。
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