パピとママ映画のblog

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誰よりも狙われた男 ★★★★

2014年10月18日 | アクション映画ータ行
スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの同名小説を「コントロール」のアントン・コービン監督が映画化。2014年2月に急逝した名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作となった。ホフマンがバッハマンを演じるほか、共演にも「きみに読む物語」のレイチェル・マクアダムス、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウィレム・デフォー、「ラッシュ プライドと友情」のダニエル・ブリュールら実力派キャストが集結。
<感想>オスカー俳優の故フィリップ・シーモア・ホフマンが主演した、極上のサスペンス映画。そんな彼が最期に主演した本作では、組織との軋轢にも屈せず己の信念のためなら、非情に徹するスパイチームを率いる孤高の男を人間臭く哀愁たっぷりに始終抑えた演技に徹しているのだ。

太い指にタバコをはさみ、巨体をかがめてせわしなく鼻息を立てながらスマホをいじり、コーヒーカップを両手で抱え込むように啜る姿に、そこ儚いペーソスと、時としてホフマンの表情とたたずまいによって伝えられる。それに、気になったのが、寒々とした自室でピアノを弾く姿に、私生活の唯一の描写が覗けるのが嬉しい。

ドイツのハンブルグは、9.11テロの実行犯たちが根城にしていたとも言われ、現代世界の政治地図の上で象徴的な意味を持つ街でもある。その街を舞台に、ドイツの対策チームを率いるバッハマンは、港に密入国した青年に目を付ける。イスラム過激派として国際指名手配されているイッサは、人権団体の女性弁護士アナベルを仲介してイギリス人銀行家ブルーと接触。ブルーが経営する銀行に、とある秘密口座が存在しているという。
ドイツ諜報界やCIAがイッサ逮捕に向けて動きだすなか、バッハマンはイッサをわざと泳がせることで、テロへの資金援助に関わる大物を狙うが……。
イッサがイスラム系のテロリストと接触することを恐れた憲法擁護庁の支局長であるモアは、即刻逮捕に乗り出す。それを止めるためバッハマンはCIAに協力を仰ぐのだ。

しかし、バッハマンがイッサの遺産を利用してマークしていたのは、イスラム系の慈善事業家であるアブドゥラ博士をおびき寄せること。そして、テロリストへの資金提供先を探し出すことに成功するも、任務遂行まであとわずかというところで、事態は急変する。何故にホフマンがタクシーの運転手になり、アブドゥラ博士を乗せて何処へ行こうとしたのか。最後が苦労してやっと捕まえた獲物をCIAに横取りされてしまうとは、口惜しいに違いない。

現代の物語らしく、諜報機関が追うのはイスラム系のテロリストだ。流行を追うというより、ジョン・ル・カレ自身この問題が、かつての冷戦に匹敵するような危機的要素を含んでいると感じているのだろうと思われる。
とはいえ、敵はテロ組織だけではない。CIAをはじめ、巧みなライバルを向こうにしての獲物の争奪戦に加えて、人権団体やら銀行家やらの、複雑な利害が絡んで、事態は嫌が上にも紛糾を重ねるのである。

“9.11”以降の宗教や経済をめぐる問題を背景としたテロ対策を軸に、CIAの介入やドイツ諜報部ないの主導権争いが複雑に絡み合う現代の諜報戦を忠実に描いた、これまでにないスパイものとは一線を画す、スリリングな作品となっています。
「ラスト・ターゲット」のアントン・コービン監督が、「裏切りのサーカス」などで知られるジョン・ル・カレの原作小説をスタイリッシュな映像と、伏線が無数に重なる繊細なストーリーで見事に映像化している。
また、主演のフィリップ・シーモア・ホフマンを始め、チェチェンから密入国したイッサにはグレゴリー・ドブリギンが、イッサ・カルポフは原作者と交流を持つトルコ人。彼は米軍からテロリストと疑われていた人物で、物語に一層の真実味を与えています。

イッサを庇う移民弁護士アナベルにはレイチェル・マクアダムスが、それに、イッサの亡き父の遺産を管理している銀行家のトミーにはウィレム・デフォーという顔ぶれ。
そして、ベルリン本部から来ているモーにはライナー・ボックが、距離を置いて見ているアメリカCIAのサリバンには、ショートカットのロビン・ライトもいる。本作の見所はあくまでも彼らの演技のアンサンブルといえよう。決してホフマンの一人舞台ではないのである。
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