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リアル 完全なる首長竜の日 ★★★

2013年06月10日 | ら行の映画
第9回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した乾緑郎の小説「完全なる首長竜の日」を、佐藤健&綾瀬はるか主演、黒沢清監督で映画化。浩市と淳美は幼なじみで恋人同士だったが、淳美は1年前に自殺未遂で昏睡状態に陥り、いまも眠り続けていた。
浩市は淳美を目覚めさせるため、「センシング」という最新医療技術を使って淳美の意識の中へ入り込み、彼女がなぜ自殺を図ったのかを探る。センシング中に出会った淳美は、浩市に「首長竜の絵を探してきてほしい」と頼み、浩市はその絵を探しながら淳美との対話を続ける。しかし、センシングを繰り返すうちに、浩市は見覚えのない少年の幻覚を見るようになり……。

<感想>なにか「トータル・リコール」とか「マトリックス」や「ザ・セル」などと同じような虚構と現実の区別がつかない物語のようにも感じた。最近の映画では「インセプション」で、虚構世界での自殺が繰り返されるところもよく似ているようだ。だが、当然のことながら本作が書かれたのは「インセプション」の公開以前。
藤田浩市と淳美は幼馴染で恋人同士。彼女の淳美はサイコサスペンス系の猟奇的な連載コミック「ルーミィ」でカルト的な人気を誇る漫画家という設定。冒頭で二人の関係を示す短い回想シーンがあった後、映画は作中の現在に移る。1年ほど前に淳美がなんらかの理由で自殺未遂事件を起こし、昏睡状態に陥ったことが示される。浩市は意識のない患者と神経を接続して意思疎通を行う「センシング」という先端医療技術を使い、一種の仮想現実世界で淳美と対面し、自殺未遂の理由を探り始める。

原作では姉と弟の関係だったのが、映画では恋人同士(小学生からの幼馴染)に設定が置き換えられている。しかも原作とは逆に、昏睡しているのは淳美の方で、この改変は映画の企画段階でラブストーリーにすることが映画化の前提だったということだ。
しかしながら、その思い込みは予想外の形で裏切られた。本作の「リアル~」では“胡蝶の夢”という原作のコンセプトと、SF的なガジェット、つまり昏睡状態の患者との対話を可能にするセンシング技術を、生かしながらも、キャラクター配置やストーリー展開を緊張感に満ちた人工現実感とホラーテイストを加えて、映像を作り上げていく。書割めいた舞台と顔のない人間たち、「回路」や「ミスト」を思わせる終末感が、・・・。

映画の中で編集者の染谷将太が演じていた、淳美のアシスタントは、原作では“真希ちゃん”という有能な女性。もう一人の編集者にオダギリジョーも、ほんの少しの出番で勿体ない気がします。それと、もう一人、浩市の母親の小泉今日子なんて別に他の女優さんでも良かったのに、あまり強烈な印象もなかった。
映画での淳美が漫画を描いているシーンは、最初からあえてリアリティ希薄に演出されていて、それに入院している病院もSF的なセットと、センシングを担当する医師、相原を演じる中谷美紀の独特な演技、とくにセリフ回しというか奇妙で人工的な空気をまとっているのも微妙。
「インセプション」のように夢から醒めたと思ったらやっぱりまだ夢の中だった、と分かる瞬間のサプライズをつないで映画を引っ張っていく変わりに、常に緊張と不安をはらんだ画面の中で、「何がリアルなのか?」を問い続けていく。夢から醒めるためのキー・アイテムとして映画が着目するのが、子供時代に淳美が描いて浩市にプレゼントしたという首長竜の絵。

その首長竜が映画の後半、大きな役割を果たすことになるのだが、子供のころ育った飛古根島の物語も、赤い旗の竹竿が海の中心に立っており、それもキー・アイテムのひとつだが、浩市の父親がかかわった飛古根島のリゾート開発に関するエピソードも、島の破滅を傍観した罪悪感へと転換され、過去のかつて暮らした島が現在の東京の生活に復讐をしているような気もする。
「センシング」によって島へ行く二人の目の前に、首長竜が現れ大暴れするシーンも、子供のころの浩市の友達、モリオを見殺しにした報復で現れたのか、これは現実ではないにしろCG映像で驚くばかり。これは主人公の心の闇の部分であり、ある過去の記憶として出てきていると思う。
それに、「センシング」をしている途中で現れる“ゾンビたち“、編集者たちオダギリジョー、染谷くんに淳美の父親松重さんとか亡霊的なゾンビのように、皮膚が金属光沢しているところも斬新でよかった。黒沢ホラー監督ならではの映像なりき。

そして淳美が走って船を追い掛ける場面では、有刺鉄線の柵を乗り越えて転げ落ちるという大きな転換点になるシーン。恋人を必死で救う、観客への拍手喝采を受け狙うような微笑ましい場面もある。
最後では昏睡状態で寝ているのは淳美ではなく、浩市だったという落ちまで。それは、漫画家だったのが淳美ではなく、浩市だったというのは、途中から薄々と分かってしまっていた。
ここまでくると黒沢監督らしい映像化だと言えなくもないが、仰天したのはタイトロールの「首長竜」が登場してからのラスト30分間。原作どころか黒沢監督らしささえも大きく裏切って、驚愕のスペクタルが連続する「アカルイミライ」のクラゲが巨大化して帰ってきたかのようにも見えた。そして、この映画は感動のラブストーリーとして決着してしまう。ほとんど理解に苦しむ難解な展開だったのが、最後に、浩市を献身的に看病する淳美の姿が映し出され、二人の愛の絆が映し出されると、これはもう、原作読まなきゃダメでしょうと思った。
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