パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

海と大陸 ★★★★

2013年08月22日 | アクション映画ーア行
イタリアの俊英エマヌエーレ・クリアレーゼ監督が、地中海の小さな島を舞台に、将来に不安を抱えるある家族と、島にやってきた難民の母子の心の交流を描いたドラマ。かつて漁業で栄えたリノーサ島も衰退の一途をたどり、父を海で亡くした20歳の青年フィリッポも、伝統の漁師を続けようとする祖父や、漁業に見切りをつけて観光業に転じた叔父、本土で新生活を始めたいと願う母との間で戸惑っていた。
そんなある日、フィリッポはアフリカからの難民を乗せたボートを発見し、幼子を連れた妊娠中の女性をかくまう。しかし、この出来事がやがて波紋を呼び、フィリッポの家族はそれぞれの人生を見つめなおすことになる。第68回ベネチア国際映画祭では審査員特別賞を受賞した。

<感想>シチリア南の島、果てなくつづく海、陽光に満ちた島。港町に流れる夏の時間。イタリア人が休息の地として訪れる地中海・リノーザ島を舞台に、現在ヨーロッパで現実に起きている難民問題と、ひとりの青年をめぐる普遍的な家族の物語を描いている。
小さな島で起きた夏の数日の話がメインのエピソード。のどかな漁師の話が、にわかにアフリカ難民の話へと転調する。そのあたりの呼吸が何とも言えず素晴らしい。

老いた漁師が言う「魚は減り、網にかかるのは人間の死体ばかりだ」という現実に憤然とする。「溺れている者をだまって見ていろというのか」と言う爺さんの言葉にはっとして、人間らしさに安堵もするのだが、イタリア政府の移民排斥政策を、正攻法で的確に告発するクリアレーゼ監督の心意気は実にあっ晴れと言えるでしょう。
昼間の明るい太陽の下、水着姿の若者たちが甲板を埋め尽くす小型船の観光クルーズ。その同じ海で、夜の闇の中を猛然と泳いで来る大勢の不法難民の群れたるや、人間の生きるという凄まじさがこちら側にも伝わってきます。
魚の網を揚げる作業をしている時に、いかだにたくさんの難民たちが手を振ります。そしてフィリッポの船めがけて必死に泳いできます。祖父ちゃんは直ぐに港の警察へ無線で知らせ、それでも船にしがみ付き乗り込む難民たち。

その中に妊産婦と男の子を祖父ちゃんは助けることにしたのです。捕まった難民たちは、アフリカへ強制送還です。
貧困をはじめとする様々な問題を抱えたアフリカの故国を出て、夫が住むトリーノ(スペイン)を目指す母親と息子。アフリカ大陸を縦断し、地中海を渡り、シチーリアの南にある小さな島リノーザ島へと、やっとたどり着いた女性とその子供たち。難民、不法移民は、関係当局に通報し、出頭させなければならないという法律がフィリッポの家族を追い込んでいく。もはや居場所のない古い世界を捨て、新しい世界を目指す者と、自身の世界になんとか居場所を確保してはいるが、その窮屈な中で身動きが取れない者。二者を対照的に捉えることによって、ここではない何処か、今いる場所よりも希望があるだろう地へという、前進していくという。人は動くことによって新しいことを学んでゆくのだから。

フィリッポの家でも、母親が漁業だけでは食べて行けず、夏のバカンスだけでも自分たちの家をリフォームして、観光客に貸してお金を稼ぐことに。そこへ、難民の妊婦と息子を預かり、妊婦はそこで女の子を無事出産する。その逞しさ、その生まれた子供の父親は誰なのかは分からない。それでも、夫が出稼ぎで働いているトリーノを目指してゆく。芯が強いというか決断せざるを得なかったのだろう。前へ進むしかないのだ。

二つの顔を持つ土地に生きる青年フィリッポの戸惑いや、苛立ちがバイクやボート、車といった乗りものを使ってきめ細やかに描き出されていく。演じたフィリッポ・プチッロの素朴な振る舞い、出演者の顔に力があって見せつける。
プロにノンプロを交えた配役もすこぶるいい感じでした。出て来る登場人物が皆、生っぽくそこに生きている。太陽の光の強さも魅力の一つといえるでしょうね。
祖父ちゃんが夜になると、その母子を車に乗せてフェリー乗り場へ連れて行く。だが、そこには警察が取り調べをして船には乗れないのだ。一旦、引き返すも、何を思ったのかフィリッポが車を動かして港へと。そして、親子を自分の漁船に乗せて暗い海を走らせていく。しかしだ、最後も何の解決もないまま放り出される。だがスクリーンの画の力は強烈に映し出している。これでいいのだと。
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