ヤドカリ類の多くは、貝殻を背負うという特異な習性を持っています。
これが「ヤドカリ(宿借り)」と呼ばれる所以です。
中にはイガグリホンヤドカリのように自らの成長に合わせて大きくなる、イガグリガイ(腔腸動物)のコロニーを殻として利用するという、素晴らしい共生関係を確立した種もありますが、これはごく幸運な例外です。
ほとんどのヤドカリは死んだ貝の殻を利用しますので、成長に伴って宿貝を交換しなければなりません。
もちろん、オカヤドカリも同様です。
貝殻を捨てて巨大化の道を選んだヤシガニを別にすれば、オカヤドカリ類にとって宿貝は大切な体の一部と言えるでしょう。
〈陸上に貝殻は少ない〉
カタツムリなど陸貝と呼ばれる一部の種類を除けば、貝類は基本的に水生動物です。
つまり、陸上で貝殻を見つけることは非常に困難なのです。
実際自然界のオカヤドカリを観察すると、まともな貝殻に入っているほうが珍しいくらいで、大抵は小汚いぼろぼろの貝殻を利用しています。
ビバリウムという発想で飼育環境を整えるのであれば、磨きをかけたようなピカピカの貝殻より、使いこんだ古い貝殻を着せておく方が、より自然の状態に近い姿を楽しめるのではないでしょうか?
〈オカヤドカリの好む貝殻〉
沖縄県教育委員会発行のオカヤドカリ生息調査報告「あまん」によると、オカヤドカリ類の宿貝として確認された貝は249種にも上るそうです。
オカヤドカリの種類や生息場所によって利用する貝にも違いがありますが、大まかに紹介すると、上陸したての稚ヤドカリではウミニナ類、前甲長3㎜~9㎜に成長するとオキナワヤマタニシが多くなり、9㎜から12mmではウスカワマイマイやアマオブネ、12㎜を超えるとチョウセンサザエが中心になるとのことです。
〈貝殻交換は楽しみのひとつ〉
古い貝殻で充分とはいっても、貝殻交換の様子を観察するのは、陰性の強いオカヤドカリの飼育においては大きな楽しみです。
自然下では慢性的に貝殻が不足していますので、適当な貝殻を与えてやると競って殻交換をします。
新しい殻を得て飼育環境に慣れてくると、貝殻交換をする頻度も少なくなりますが、小型の若齢個体は、短いサイクルで脱皮を繰り返してどんどん大きくなりますので、成長に合わせた貝殻を常に用意しておく必要があります。
また、オカヤドカリは新しい貝殻よりも他個体が着た貝殻を優先的に選択します。
オカヤドカリの宿貝には内部が欠損したものが多いことから、何らかの方法で手に入れた貝殻を着心地がいいように加工しているようです。
〈ムラサキオカヤドカリはきつめが好き〉
種類や性別、大きさによって、好みの宿貝のサイズが違います。
若齢個体は一般に大きめの貝殻を選ぶことが多く、大きな貝殻を手に入れた個体は、体を貝殻に合わせるために頻繁に脱皮を繰り返し、急激に成長します。
メス個体は、貝殻内で卵を抱く必要があるため体に合ったサイズを選ぶことが多いのですが、ムラサキオカヤドカリのオスの成体は、小さめの貝殻が好みのようです。
中には、腹部がかろうじて隠れるくらいの貝殻を利用している個体も見られます。
普通オカヤドカリは危険を感じると貝殻の中に入り、鋏脚でぴったりと蓋をしてじっとしているのですが、ごく小さな貝殻に入った個体は、驚くと貝殻を捨てて裸で逃げていくことがよくあります。
その後どうするのかまではなかなか確認できないのですが、貝殻を捨てるという行為は、オカヤドカリにとって決して良いことではないはずです。
私は海岸でオカヤドカリを観察するときは、できるだけ驚かせないようにそっと歩くことを心がけています。
オスのムラサキオカヤドカリは
こんな小さな貝殻を利用していることが多い
〈ヤマトホンヤドカリの場合〉
海棲のヤドカリ類でも、この貝殻を捨てて逃げるという行動はしばしば見ることができます。
以前、海中で殻を脱ぎ捨てたヤマトホンヤドカリを追跡したことがあるのですが、その時は岩穴に腹部から入って、鋏脚で蓋をするという、まるでカンザシヤドカリのような行動を観察することができました。
ヤドカリにとって宿貝は体の一部だと述べましたが、このように貝殻への執着の薄い個体は、貝殻を捨てるという次なる進化の可能性を秘めているのかもしれません。
ヤマトホンヤドカリ
水温変化や水質に敏感で長期飼育は非常に難しいが、ヤドカリ好きには魅力的な種だ
〈貝殻は海岸で探すのが基本〉
貝殻の入手については、いくつかの方法がありますが、海岸で拾い集めるのが基本ではないかと思います。
日本は細長い島国なので、電車や自動車を利用すれば、どんな内陸からでも数時間で、どこかの海岸に出られるはずです。
殻交換の様子を思い描きながら、オカヤドカリの好みそうな貝殻を探すのは、とても楽しいものですし、生息地以外であっても海岸の様子を肌で感じることはオカヤドカリ飼育にとって必ずプラスになると思います。
巻貝の多くは、海藻の繁茂した岩礁域に生息していますので、海水浴場のような砂浜よりも岩場やゴロタ浜の方が狙い目です。
岩場の間に砂や小石が堆積したポケットビーチを見て回れば、サザエ、スガイ、クボガイ、アマオブネなどは比較的簡単に集められるでしょう。
〈食用貝を利用する〉
食用として売られている貝の中にも、宿貝として利用できるものがいろいろあります。
代表はサザエです。
我が家のオカヤドカリは、ある程度まで成長すればすべてサザエに入ります。
太平洋産の大粒でトゲトゲのものより、日本海産の小粒のトゲの少ないものがオカヤドカリ用としては適しています。
ちなみに味も小粒の方が良いです。
他に、ミクリガイなどが「ツブ貝」として売られていることもありますし、コシダカガンガラやバテイラも時折見かけます。
加工惣菜として売られている南洋産のベンガルバイや、輸入食品店で見掛けるエスカルゴも宿貝として利用できそうです。
これらの貝はもちろん中身を食べた後の貝殻を利用するのですが、中に肉などが残っていると腐ってひどい悪臭を放つので、しばらく土に埋めておくと良いでしょう。
夏場なら一ヶ月ほどで、完全に分解し臭いもなくなります。
急ぐのであれば、よく煮て中身を完全に取り出し、ブラシでこすり洗いすれば大分ましになります。
ポケットビーチをいくつかまわれば様々なサイズのサザエ殻が見つかるだろう
前甲長が10㎜を超えた後は終生サザエ殻で事足りる
みやげ物でもおなじみのベンガルバイ
これは醤油煮で売られていたもの
食用の物を探した方がずっと安上がりだ
〈ピカピカの貝殻には注意〉
もちろん、海辺の売店などで売られている貝殻なども利用できますが、処理に薬品を使用している可能性がありますので、一度しっかりと水洗いしてください。
実際、管理人が以前買った貝殻の中から薬品臭のする粉末が出てきたことがありました。
個人的な意見ですが、あまりにもピカピカに磨きあげられた貝殻は、見た目も不自然で生体にも飼い主にもストレスになるように思います。
沖縄産のオカヤドカリに北陸産のサザエを着せるのはどうなのだ?という指摘もあるかもしれませんが、少なくとも薬品汚染の心配はありませんし、何より自分で苦労して探した貝殻に引っ越してくれたときの満足感は得難いものです
〈ペイント貝〉
現在では、さすがにペイント貝を使用する悪趣味な愛好家はいないと思いますが、 店頭では相変わらず見かけますので、一応管理人の見解を少し書いておきます。
まずオカヤドカリは、カルシウム補給のために、貝殻を小さく割って食べることがあります。
ペイント貝というのは、食べ物にペンキを塗るのに等しい行為なのです。
塗料の有害性や生体へのストレスも懸念されますが、それ以前に生き物を単なる玩具として扱うという非常識な発想自体、愛好家の一人としては到底容認できることではありません。
このような商品を販売し、生き物を玩具やインテリアとして扱うことを推奨するメーカーや業者には、強い嫌悪と憤りを感じます。

その節はお世話になりましてありがとうございます。
こちらへお邪魔させていただく時は質問ばかりで心苦しいのですがお教えくださると嬉しいです。
相変わらずの3匹のムラサキなのですが、毎年脱皮はするものの2匹は貝を変えようとせず、空貝は溜まる一方です。
いえ、寧ろ貝に合わせるかのように余り成長しませんし、脱皮後の痩せ感が気になります。
餌としては手を変え品を変え今まで数十種類を試しましたが、なかなかヒットが無くすぐ飽きられます。
環境としてはかつては3匹一緒の時もありましたが、脱皮毎に力関係が変わるので今は一匹ずつ45cmのプラケに入れています。
砂の状態はさほど臭いもなく顕微鏡レンズで確認できる位のカビ・虫はありません。
ただ砂は洗ったことはなく、1年に13kg程消費します。
ドライかウェットかを言えば、その日の湿度に依ります。
関わり方は一日に数回給餌・糞尿取り等でケージを開けるのと、月に1回顕微鏡レンズで個体の状態を確認するといった具合です。
このような雑な書き方で大変申し訳ありませんが、何かご教示願えればうれしいです。
よろしくお願いします。
何か足りないといつも心に引っかかっているのですがよく分かりません。
ただ沖縄の海風の匂いや、夜行性でも少しの日の光とか味わわせてりたいとずっと思っていますが叶っていません。
ずいぶんと丁寧に飼育されているようですね。
10年以上底砂を全交換したことのない私などにアドバイスできる資格はないかと思います。
アメリカの飼育サイトなどには「これだけ手間をかけたのだから、これだけの結果が出るべきだ」的なギブアンドテイク精神に基づいた記述を見かけますが、私に言わせれば、大脳を持たない甲殻類が人間の勝手な思惑通りの結果で答えてくれると思うほうがどうかしていますね。
長年飼育されているのでしたら、観察による習性の知見がずいぶんと蓄積されていると思いますから、そこから目線でお付き合いされたらどうでしょうか。
「こうしなければならない」という思い込みや「死なせてはいけない」という義務感がストレスになるようでは、本末転倒ですから、ちょっと緩めて「飼育を楽しむ」という原点に戻ってみるのも良いかと思います。
貝殻はある程度成長してしまうと、交換頻度は下がります。
うちには、12年同じ貝殻で通した猛者もおりました。
それだけ気に入っているのなら、無理に交換させなくてもいいんじゃないですか?
丁寧と言われ恐縮しました。
説明すると既述のようになり、
一見気を張り詰めた一生懸命な感じがしますが、
お伺いするにあたり、できるだけ状況を書こうと思った次第ですので
私としてはプラケ全体の健康状態をざっくり見てる感覚です。
水槽でいうところの水がこなれた状態になるようにしています。
糞尿や、潮水をひっくり返された部分の砂を取り除いたところだけ
新たに砂を足しますので3個のプラケで年に13キロほど使いますが底の砂はそのままです。
一匹、メスには弱いが人間には容赦ない荒くれがいまして、
特にそいつが色々ひっくり返して砂を汚します。
最近脱皮後は節々のキメが荒くなって、
多少脚が細くなり、
以前より貝が緩くなっているような感じがしますので、
この原因を知りたいと思っています。
栄養、貝殻、環境、病気、老化など、
私の脳ミソが何か気づくことが出来ればと思ってお尋ねしました。
ヤドカリのみならず大抵の生き物は
死ぬことで抵抗を示しますので、
飼育している以上長生きには期待しますし、
日々その答えを見つけることも楽しみですが、
貝替えなどを無理強いすることは何も益がありませんので
いつまでも慣れない人間が傍にいる位で
甲殻類には本能で勝手に長生きしてもらえればそれはそれで楽しいです。
かなりの老成個体だったので寿命かなと覚悟しましたが、いつの間にか復活してその後何年も生きました。
もちろん、くたびれた様子のまま落ちた個体もいましたから、その後どうなるかの予想はつきませんが、かなりあれた様子からでも復活する可能性は低くないと思いますね。
原因はおっしゃるとおり、栄養、貝殻、環境、病気、老化などだと思いますが、そのうち飼い主が力添えできるのは栄養のみですから、やっぱり餌の選択は大切でしょうね。
ちなみに我が家では栄養食として虫を与えています。
オカヤドカリに虫を与えることについては、それぞれの考え方があるかと思いますが、嗜好性は非常に高くワラジムシ、ゴキブリの幼虫、小型の蛾などは与えただけほぼ残さずに完食します。
今の季節ならユスリカの成虫もよく食べますね。
灯火採集や水路でのスイーピングなどで比較的簡単に集まりますので、ご参考まで。
今食餌はアカムシとガジュマルがベースで
人間の上前だったり人工飼料だったり、
特に甘いもの好きなメスにはケーキだったりを
とっかえひっかえトッピングで与えています。
昆虫はコオロギ等数種試しましたがソッポでしたので
それ以上は与えていませんでしたが、
お話をお伺いするとより柔らかくクリーミィなものの方が
好みかもしれないと思いましたので早晩試してみます。
ありがとうございました。
すこし間隔を開けて、大潮あたりに手厚くしてやると、食いつきが良くなったりします。
潮時(月齢)などを意識しながら、献立の組み立てを工夫してみるのも楽しいかと思います。
絶食なども含めメリハリについては意識しておりましたが、
潮の干満については全く気なしでおりました。
目から鱗です。ありがとうございます。
よく動く日や食べが多い日などもカレンダーと見合わせて工夫してみます。
虫は柔らかいものもスルーでした…
総じて私が与えるものがあまり美味しくないというのも一因かもしれません。
沖縄のキラキラビーチで新鮮な旨いものを食べていたのに
無味乾燥な場所に連れて来られチマチマしたものを
ずっと食わされているわけですから
食いの悪さも当然なのかもしれません。
お陰様で脚のキメなどは脱皮するしないに関わらず少しずつ戻ってきました。
温湿度も関係があるようで数値化というより今は感覚的に理解してます。
2年程潮の満ち引きを動きや食いつきに照らし合わせてみました。
良い報告ができると思いましたが、すみません、分かりませんでした。
苦肉の策で人間含め価格5割アップのごはんにしました。
フンの量が増えました。
なんか「あぁそうですか…ですよねぇ…」って感じで、今のところ"家計のやりくり"がキーワードです。
飼い主さんもオカヤドもお元気そうで何よりです。
ウチの連中はけっこう月齢で動きの違いがありますが、放任しすぎて野生に近いのかもしれませんね。。
この時季は米がまずいので、新米が出るまで麦飯を食ってるのですが、オカヤドにはけっこう好評ですよ。
今のところ3匹が元気でいてくれるので手間がかからず助かります。
麦飯試してみます。うちは米に芋やら豆やらぷっこんで炊くので好きじゃないのかもしれません。
ありがとうございます。
劇暑が続きますが、どうぞお身体お大切に。