Mars&Jupiter

おおくぼっちの屋根裏部屋へようこそ!

ブラック・マーラーと呼ばれた夭折の作曲家テイラーのバラードを聴きながら二俣川・鶴ヶ峰間を歩く

2007-11-07 05:36:01 | 古典~現代音楽イギリス編
1875年生まれのサミュエル・コールリッジ=テイラー、
彼はロンドンに生まれた夭折の作曲家である。
シエラレオネ共和国出身の医師である父と、
イギリス人の母の間に生まれた混血である。
父は彼が幼少の時に失踪したため苦学を強いられたが、
15歳には王立音楽大学に入学し、スタンフォードに学び、
22歳で卒業した後、クロイドン音楽大学で教鞭をとったらしい。
アメリカに渡り、指揮者としても活動し、
「ブラック・マーラー(黒人のマーラー)」とよばれ、
一方アメリカでの活動を通し、黒人としての意識に目覚め、
その社会的地位向上のための運動にも関わったようである。

二俣川から鶴ヶ峰駅の間を歩く間に聴いた曲は、
管弦楽のためのバラードイ短調作品33で、
テーラーが王立音楽大学を卒業した翌年に書かれた。
エルガーの目にとまった彼は、エルガーの親友を通して
グロスターで開催された3都聖歌隊音楽祭の作曲委嘱を受け、
その音楽祭で作品は1898年に初演されることになった。
若々しく溢れるばかりの感情を表現したこの曲は、
一見、黒人的な音楽としての要素は薄いようには思える。
ただし、冒頭に流れる激しい感情の露出の中に、
彼の混血として生まれたことの苦悩がみえる気がする。

横浜駅から星川駅までを歩く間に聴いた曲は、
アフリカ民謡による交響的変奏曲作品63である。
1906年に完成したこの曲は、冒頭に登場する主題を、
黒人霊歌に属する伝承歌である古い奴隷の歌、
「私は心に悩みを持っている」から採ったという。
これはシオドア・シワーズの編集による
「ジュビリー・シンガーズ」の中に収録されているらしい。
ここには彼自身のルーツ探しがみられる。

1906年に初演されたこの曲の中には、
彼自身の血の中に流れる黒人としての悲しみや希望、
そして挫折や諦観が見え隠れするようではあるが、
曲の途中でイギリス音楽らしい旋律が出てくると、
彼の血に流れるもう一方のイギリス人としての部分が、
否定しようにもあるんだなあという印象を受ける。
彼はジェシー・ウォムズリーと結婚する時に、
相手方一族に黒人に対する偏見から、強い反対を受けた。
そんな彼の境遇を考えると、自分は何者なのかという
人間的な苦悩に溢れている気がするし、
その問いかけはまさにグスタフ・マーラーの
ユダヤ人としての苦悩と似ているところはある。
彼が「ブラック・マーラー」とよばれたのは、
その意味では、あてはまっているのかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする