
勤めを定年退職してから開業して、個人的に酪農家の診療をするようになって、驚いたことが少なからずある。今年で乳牛の診療をするようになって、50年になるがこの10年は驚くことが起きている。
私のお願いなどを聞いてくれた農家だけを今診療に回っている。段々病気がなくなり、ほとんど診療することもなくなってきたのである。もっとも顕著な農家は、かつて年間120万円ほどの診療費であってが、この数年は35万円前後である。診療で駄目になる牛もいないし、そもそも一般の乳房炎など以外の診療依頼がない。35万円のうち20万円ほどが医薬品代なので、獣医さんの手取りはほとんどないことになる。牛は減らしたり穀物給与を減らしているので乳量も少なくなって、農業収入は20%ほどの減収になっているが、農家の手取りはかつての倍近くまで増えてきている。
乳牛は授精して分娩させて泌乳するのであるが、病気がほとんどなくなったので、子牛がどんどん増えるのである。子牛の販売も孕みの育成(妊娠させて販売する)牛の価格が順調なのでこの収入も馬鹿にならない。乳価も高値で徐々に上がっている。
これらの原因は簡単である。政府はアベノミクスという、農業破壊政策でいくらでも大きくしろと、金が湯水のように降りてくるからである。所によっては農協が大規模な酪農場の営業に手を出している。政府ご推奨の巨大酪農場は、生産費は高くつく。乳価はこうした農家をなべて設定されるので、生産費のかからない経営の小規模農家は大喜びである。
さらに巨大農場は、乳牛は次々と駄目になる。乳牛がいなくなるので、彼らは自家製産の牛が足らなくなる。市場での孕みの育成乳牛が高くなっているのである。売るのは政府の政策に従わない、国からの補助金がほとんどない健全な農家である。孕みの育成乳牛は、数年前まではせいぜい50万円ほどであったが、今では100万円ほどもする。健全な規模の酪農家は、今バブルのさ中にある。
政府が推進する巨大な酪農業は、一機3000万円するロボット搾乳機を数機導入し、大量の穀物給与で生産乳量を上げなければ経営が成り立たない。大量の乳牛を閉じ込めた牛舎が必要になる。下の図は現在建築中の500~600頭規模の牛舎である。ほぼ6億円かかるという事である。周辺の整備などを含めれば、9億円ほどになる。そのほぼ半額ほどが、国などの補助金である。つまり税金の投入で、巨大規模の農家を次々と生ませているのである。エサは大量に購入する、生産量は巨大である、施設には巨大な建設費がかかる。つまりエサ屋さんは商売繁盛、乳業メーカーも庶倍繁盛、建築屋さんも商売繁盛である。乳牛たちは四六時中病気になるので、獣医さんは大忙しである。糞尿は余り環境は悪化する。
一見、GDPは上がったかに見える巨大な酪農業であるが、実態は巨大な資金ロスと資源の消耗、それに世界の食糧事情の悪化を招くことになる。アベノミクスの各企業の詳細は知らないが、農業分野では政策に乗った酪農家たちはいずれそれらのツケを負うことになる。
牛たちは病気にならないことが、健全な酪農経営であって、健康食品の牛乳を消費者に届けることになる。今政府が行う、クラスター事業と称する酪農の巨大化は、不健全で高価な牛乳を消費者に届ける結果となっている。
