
現在の日本学術会議を廃止し、法人格を有する組織としての特殊法人・日本各術者会議を設置する法案、日本学術界会議法を自民公明が通してしまった。
日本学術会議は科学者が戦争に動員された反省に立って、1949年に発足した学者組織で、政府に対する「科学的助言」などの役割を担ってきた。
法人化問題は、2020年秋に当時の菅義偉首相が、学術会議が推薦した会員候補の選択した6人の研究者の任命を拒否したことに端を発するが、安倍政権下で練られていたと思われる。任命権者の首相は学術会議の推薦した通りに任命するという長年続いて来た実務を覆す、前代未聞の事態であるが、菅義偉はこのことにつて全く説明さえできなかった。
これまで武器開発につながる研究に対して、学術会議は厳しく研究を律してきた。お勉強が嫌いだった安倍晋三にとって、学術会議はどうにかしたい厄介な存在であった。
この後に、自民党内にプロジェクトチームが立ち上がるなど、学術会議の基本的性格(「あり方」)を疑問視する政権側の動きが活発化した。政府は2023年の通常国会に法人化を前提とした学術会議法の改正案を提出する方針だったが、国内外の学術関係者から法改正への懸念を表明する声明が多数あり、一旦見送っていた。内閣府は2023年8月に「学術会議の在り方に関する有識者懇談会」を設置し、懇談会が出した最終報告書を基に、政府は新しい日本学術会議法案をまとめ、今年4月18日から衆議院で審議入りしていた。
法案は、学術会議が現在の「国の特別の機関」から特殊法人に移行することし、首相が任命し、業務などをチェックする「監事」をはじめ、「評価委員会」、「運営助言委員会」など、政府による管理を強め、独立性を脅かす様々な組織が新たに設けられる。これまでになかった、罰則規定も盛り込まれている。
これに対し、日本学術会議は4月に開いた総会で、国会に対し修正を求める決議を採択している。5月7日の国会前行動は、「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」、「立憲デモクラシーの会」、「日本科学者会議」などでつくる、日本学術会議「特殊法人化」法案に反対する学者・市民の会が主催した。十分な審議時間もとらないまま、5月9日にも委員会採決が強行されるという状況の中で、緊急の行動として呼びかけられた。
集会の最初に発言した田中優子さん(元法政大学総長)は「任命拒否の理由に関する政府による説明は、今にいたるまで、一切ありません。日本学術会議は日本国憲法と共に生まれました。日本国憲法を守るための学術会議です。世界中の学術会議が連携しながら人類のために、特に最近は温暖化などの地球規模の様々な問題の研究を続けてきました。世界中に張り巡らされた研究体制がもし失われるのであれば、人類の損失であるとともに、日本でこれが弱体化するのであれば、日本の国民にとって大きな損失なのです。法人化する意味は、防衛装備庁が大きな金額を大学の研究室に示し始めました。これは現在、アジア諸国に武器を輸出するという形で進められています。軍拡のための軍事研究です。それを支えてくれる学術会議が必要だということです。反対する学術会議はなくさなければならない、という意味です。学術会議の問題は単なる学者たちの問題ではなく、国民全員の問題です」と強調した。
7日の内閣委員会に参考人として出席した日本弁護士連合会の福田護弁護士は「政府は任命拒否の理由についての説明責任を果たさないまま、逆に学術会議の方に問題があるかのように言いつのり、その在り方を問題にして今回の法人化法案にいたっている。この過程は全体として法的正義を欠くのではないか。政府は法案の立法理由として『学術会議の独立性を徹底するため』としているが、これまでの学術会議は十分に独立性を維持してきていると評価でき、任命拒否や今回の法案による法人化こそ、その独立性を侵害するものだ」と指摘した。
政府の狙いは明らかに、「軍事研究に反対する学術会議をなくす」ことであるといえる。