上記のグラフをご覧になってください。こんなはっきりとして見やすいグラフはない。
一枚目は、農家戸数と乳牛の頭数である。50年前には40万戸近くあった酪農家は、今や2万戸そこそこにまでになっている。約二十分の一にまで減少している。ところが乳牛頭数は120万頭からいったん上昇し220万頭にまでなったが、10年前から減少に転じて140万頭ほどになている。
二枚目のグラフは、この12年の北海道と府県の出荷乳量の比較である。北海道はやや増加しているが、府県の出荷乳量はほとんど一気に減少している。
三枚目のグラフは、この50年ほどの生乳生産量と乳牛頭数の変遷である。生乳量は平成の始まる頃まで順調に伸びていたが、この20年ほどは減少傾向にある。特徴は乳牛頭数である。この20年ほど減少傾向にあるが、乳量はそれほどでもないことが見て取れる。
この表の交差点、平成元年頃から乳牛の泌乳量が増加しているのである。大型化に伴って、穀物の投与量が増えているのである。私たち獣医師の仕事が忙しくなるのである。乳牛は生産病ともいえる、乳房炎や消化器病が急速に増えてきたのである。それまで、多分平均で5産ほど分娩して7、8歳までの寿命が今や2.5産ほどまで減少して、5歳ほどまでしか使われなくなった。更には穀物給与量が増加して、乳牛は過酷な生産強要をされようになっている。
最近バターがなくなったとか騒がれているが、牛は分娩してから搾乳するまで2年以上かかるし、簡単に乳量を調整はできない。工業製品ではないのである。規模拡大で生産量を補ってきたこの20年であるが、それも限界になっていることがこれらのグラフから判る。
残り少なくなったあく農家は、いろんな意味で優秀な酪農化ばかりである。それも高齢化や少子化の影響を受けて、戸数は減少する傾向になっている。
更にもう一つ特徴的なことは、政府や関係機関の奨励で規模拡大した酪農家が、ここにきて経営に不安が生じている。特に400頭以上の農家が厳しい。逆に伝統的な酪農家、本ブログで何度か紹介しているマイペース型酪農の40~70頭ほどの酪農家が安定した経営を見せているのである。然しその酪農家は生産量が低く、乳業会社の期待には沿えない。酪農関係の根幹を支えるまでにはなってはいない。
大きな酪農家は懸命に質的にも量的にも高い過重労働と、負債の埋め合わせに毎日追われている。周辺機関の支援にもかかわらず、後継者が育っていないことが多い。こうしたのかでは獣医さんは大忙しである。
酪農業は冷涼な地域や草しか採れない痩せた土地でこれまで育ってきてはいたが、それらの地域は今や典型的な過疎地、限界集落のなっている処が多い。限界酪農家が懸命に守っているが、生産量が一気に落ち込むことも近い将来あるだろうと思われる。
乳製品をまっとうな対価で購入願わなければならない時代が、近づいている。消費者の皆さんにご理解願いたいと思うものである。