
人類が狩猟から定置生活をするようになったのは、食料を栽培して作るようになったからである。そのことはやがて富を生むことになり、人類の難題を背負うことになるのであるが、彼女の言うように食糧生産が人類の発展を支えた事実に変わりはない。しかしながら、化学肥料や農薬それに機械に頼ることになり、環境の悪化をもたらすことになっている。
飢餓の克服を、種子の改良や単作化(モノカルチャー)や肥料や農薬の開発と機械化で成し遂げたが、そのことで更なる人口増加へとつながるジレンマを人類は抱えた。肥料生産でも大型化でも、化石燃料に頼ることになる。農薬は土壌と地下水などを汚染し、地球温暖化に拍車をかける。著者は地球温暖化に最も貢献しているのは農業であるというのである。
2007年5月に、都市人口は農村人口を超えた。そしてそれは今でも進行している。今世紀半ばには8割を超えるのではないかと著者は推測する。食糧はだれが生産することになるのであろうか?食糧の量的問題だけでなく、質的な変化も起きるであろう。誰も農産物の生産現場を知らなくなるからである。
日本では半世紀前までは、都会に住む者はほとんどが田舎を持っていた。そのことが間接的に農業を支えてきたが、今はそれもなくなり農業は補助金で生きているのが現実である。
人類は豊かになるにつれ、でんぷん質の摂取を減らすようになる。肉や卵や乳製品を増やすのであるが、かつてのように人が食べられないものを家畜に与えるのではなく、穀類などを与ええるようになる。このことは大変なロスを生むことになる。1ポンドの牛肉生産に12ポンドの飼料がいるのである。エネルギーロスが計り知れなく起きる。
著者は、人類が地球上で生存していくためには、安定した気候、栄養の循環、生物の多様性が不可欠であるが、それらが壊されていると警告を発する。栄養の循環とは特に人類の排せつ物が廃棄されているというのである。大地から切り離された家畜も同じである。近代化された畜産では、飼料の循環は起きていない。著者は、環境保護団体をも無縁であり、食料生産の悲観論者でもない。遺伝子組み換え作物には評価を与えていない。今後の問題としているのは多少の不満が残る。
訳者が専門的知識にかかけているための誤訳が目についたが、まずまずの良書と言える。