世界の金融取引市場を、勝手気ままに席巻した経済や人間生活とは全くかけ離れた株取引で、世界を100年に1度といわれる大不況に陥れたのは、金融工学という摩訶不思議な手法である。経済学などは全く知らない門外漢が、株取引の動きを分析して僅かな動向から、価格の変動を予測して、瞬時に大量に株を買ったり売ったりするテクニックである。
コンピュータ操作と、数学的な能力に長けているだけでいいのである。僅かな価格動向を察知し て、一日のうちに何度も売ったり買ったりするのである。例えば、10円株価が上がっても100万株持っていれば、数秒のうちに1000万円儲かるのである。
こうして儲けたお金が、アメリカなどの銀行や金融商品取扱業者に集中したのである。リーマンブラザーズなどはそのいい例である。産業としての実態や、企業としての社会的な貢献などどこにもない。株の取引には税がかからないので“タックスヘイブン(無税金天国)”と呼ばれている。
トービン税とはこうした取引の度に、低率でもいいから課税するというものである。ノーベル経済学賞受賞者、ジェームス・トービンが考えた課税方法である。マネーモンスターとなった企業が落ち込んでいる今だからこそ、影響力が小さく取り組むことができる。トービン税の導入をするまたとない時期である。
国際間の金融取引は、年間300兆ドル以上に及ぶと言われている。1日に当たり1兆ドル、つまり100兆円である。この90%以上が投機目的の、短期的取引であると言われている。全ての金融取引に0.005%課税するだけで、年間500億ドルにもなる。これは世界のODA資金と同じ額になる。
これらの投機的資金は、僅か0.005%であっても同じ金が何度も課税の対象にされるのである。投機だけで営む企業が社会に貢献するほとんど唯一の方法である。世界の経済活動が健全化するためにも、金融危機を体験した今こそトービン税の導入をするべきである。ベルギーが07年に導入したが、特定の国だけが行うことはいろんな意味で不利になる。せっかくG20までになったのだから、この会議で導入を真剣に検討するべきである。